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「まさか、お姉様……禁術を使ったの? それとも、悪魔と契約したのかも……いいえ……魔女、そのものなのかも……」
リリアーナが震える声で、私を化け物を見るような目で見た。さも、怖いふりをして、両手で自分の身体を抱きしめていた。けれど、口元は楽しそうに口角をあげている。庇護欲をそそる仕草がとても上手だ。感心してしまうくらいに。そして、私はその様子を少し離れた場所で見ていたルシアン様に気づく。彼はリリアーナを心配そうに見つめていた。
私より妹を気にするルシアン様――途端に、私の身体が震えた。前回の処刑前、家族との会話やルシアン様の言動を思い出したからだ。冤罪をかけられて毒を飲まされた。苦しくて地面を掻いたあの瞬間も……。
(もしかして……今回はこのルートで処刑されるのかしら? せっかく免れたと思っていたのに……運命は覆せないの?)
多分、私の顔は青ざめていたと思う。王太子様がそっと身体を支えてくれた。優しく微笑みかけられ、少しだけ気持ちが落ち着いた。
「リリアーナ! くだらないことを言うのはやめろ! 私も母上も体調はすこぶるいい。これもセシリアが毎日調合してくれる薬のおかげだ」
王太子様が私を庇うように、リリアーナの前に立ちはだかる。王妃様も頷きながら、私の横にいらっしゃった。周りの貴族達は成り行きを見守るように黙っていた。
「アレクシスの言う通りですわ。セシリアにかかれば、どんな病気も数日で治ってしまうのです。何を根拠にそのようなバカバカしいことを……」
王妃様は眉をひそめたが、リリアーナは構わず先を続けた。
「今は良くても、いずれ、王妃様や王太子様に取り返しのつかない代償が及ぶかもしれません。だって、ある日、突然お姉様は、薬草を摘みだして調合をはじめたのですもの。まるで魔法じゃありませんか」
貴族たちがざわめいた。夫人達は不安そうに扇子を握りしめ、紳士達は私に疑わしげな眼差しを向ける。
「我々、宮廷医もリリアーナ様の意見を支持します。恐れながら、この分野につきましては、我々の方がよく理解しております。セシリア様の調合は我々が学んできたものとは明らかに違う。普通なら使わない薬草も多い。素人がそんなことできるはずがありません!」
宮廷医長の鋭い声が響く。医長を囲むように立っていた宮廷医達も、敵意のこもった眼差しで私を見ていた。
「私は魔女ではありません。それに王妃様や王太子様がなんらかの代償を払うことは絶対にありませんわ!」
「だったら、セシリア様のその知識はどこからくるのですか? 誰に教わったのです? 医療に関する本にも書いていないことを、どうやって知ったのですか?」
宮廷医長は、心底不思議そうに首を傾げた。その仕草に呼応するように、宮廷医達と貴族たちの視線が一斉に私へ集まる。
リリアーナは、私を追い詰める状況を楽しんでいるかのように口元をわずかに緩め、ルシアン様は疑わしげな視線を向けていた。王太子様と王妃様だけが、私を案じるように静かに見つめていた。
(前世の記憶があって薬の声が聞こえる、と言っても良いかしら? いいえ、だめね……どうすればいいの?)
私が戸惑っていたその時だった。
「確かに、セシリアは王太子様にお茶を作って、突然持って行ったことがあります。薬草に詳しくなったのは、その時からですよ。それ以前は、薬草を摘んでいるところでさえ見たことがないです」
こういう時にリリアーナの味方をするのは、決まってルシアン様ね。本当にこの人はリリアーナに忠実で、どんなに裏切られてもめげないのだわ。そこは素直に感心してしまった。けれど気づけば、 周りの貴族たちの眼差しが、どんどん冷たくなっていた。
「セシリア。こんな夜会は不愉快だ。さぁ、私と一緒に部屋に戻ろう」
王太子様がそういったところで宮廷医長が口を挟む。
「お待ちください、王太子様。念のため、我々にセシリア様を調べさせてください。王太子様や王妃様の安全のためです。専門家の調査は必要ですよ」
宮廷医達は相変わらず私を意地悪そうな眼差しで見ていた。貴族達の中には頷く者も多い。専門家、そんな言葉を強調されて王太子様も王妃様も一瞬沈黙した。王族とはいえ、お二人は医学に詳しいわけではない。反論することができなかったのよ。今夜は王妃様主催の夜会のため、王様もこの場にはいない。
私は彼らに拘束され、宮廷医の研究塔に連れていかれた。その中の一室に閉じ込められる。生活に必要なものは揃っていて、部屋は清潔に整えられていた。けれど、明かり取り程度の小さな窓があるだけで、外を見ることはできなかった。




