SS 第三王子の真実
第三王子からの視点で書いてみました。
私は両親の「真実の愛」の元に生まれた。
子爵令嬢だった母は、王立学園で王太子と恋に落ちた。
だが、王太子は周りの圧力に負け、婚約者と結婚してしまう。
母は子爵家を追い出されるように、修道院で暮らすことになった。
貴族の令嬢が一時避難的に身を寄せるところで、修道の誓いをするわけではない。
だが、王太子が国王になってからも、迎えは来なかった。
前王妃が亡くなり、ある侯爵家に養女として迎え入れられた。
すぐに国王と再会し、結婚することになったという。
結婚式はとても地味だったらしく、不満だったそうだ。
可哀想なお母様。
生家の子爵は潰れてしまったらしい。
学生時代に侯爵家の養女になっていれば、そんなことにならなかっただろう。本当のお祖父様、お祖母様ってどんな方だったのかな。
三十歳目前で結婚したが、幸いなことに私を授かることができた。
そこからは、母上の天下だと言えるだろう。
つまり、時代の立役者は私ということだ。
私は草花を見るのが好きだ。
幼い頃、庭できれいな花を千切ったら、手が汚れた。
「言ってくだされば、お部屋にお持ちします」と言われたけど、そうじゃない。
自分で摘みたいんだ。そして、それをお母様に差し上げたかった。
しかし、そのお母様に禁止された。王子のやることじゃないって。
子爵家は花を作って出荷していたらしく、使用人が足りなくて自分も収穫をやらされたのが嫌だったんだって。
お母様の家系の性質を受け継いだと喜んではいけないのだろうか。何が悪いのか分からないまま、分かったふりをした。
そうしないと、怒られるから。
お父様から愛情を感じないのも、僕が理解できないだけなんだろう、きっと。
お母様以外の女性と仲良くしているのは……偽物の愛って言うのかな。
十二歳になって、王立学園に通い始めた。
王宮を出て、母上の監視……愛情から距離を置ける。なんという開放感。正直言って、とても気分が良かった。
だから、上級生のクラスにいる婚約者が余計にうっとうしく思えたのかもしれない。
私はそこで、運命の人に出会った。
彼女は指先を染めながら、花冠を作ってくれた。
そうだ、私はこういう素朴な幸せに浸りたかったんだ。
こうなると、彼女を愛さずにはいられなかった。
私は感情豊かな彼女に溺れていく。
そんな彼女を馬鹿にする者たちがいるなど、許せるはずもない。
私の側近たちと共に、彼女を守らねば。
宰相の嫡男と騎士団長の息子は、よく働いてくれる。本当に気が利く者たちだ。
宮廷医師の息子が「目を覚ませ」とうるさいことを言ってきた。彼女の悪口を言うから、少々痛めつけた。
そうしたら、宮廷医師長の娘が文句を言ってきたんだ。
「あいつら、図に乗っている」と愚痴ったら、側近たちが「お任せください」と言っていたので、何かしたのだろう。それ以降、静かになった。
父上に押しつけられた婚約者は、自分で花を摘むような経験をしたことはないだろう。
いつも綺麗な服を着て、何でも侍女にやってもらっている。そんな環境なら、誰でも優雅に暮らせるだろう。
「王族の自覚をお持ちになって」だと?
華やかさの欠片もなく、地味な三歳年上の女。
腹いせに、ひどいセンスのドレスを贈ってやった。
私より先に成人しているから、私がまだ参加できない正式な夜会で、一人で恥をかけばいい。
ドレス選びは、母方の従姉妹が協力してくれた。第二王子の婚約者なので、「こうやって社交界を牛耳っていくのですよ」と教えてくれた。実に頼もしい。
私には不釣り合いだと気付いて、自分から婚約者を辞退すればいいのに。
私は国民全てを愛している。
労働することを下に見たりはしないぞ。平民だって、大切な国民だ。
父上は、私と愛しい人の噂を聞きつけたらしい。
若気の至りがいかに愚かであるかを語る。
婚約者を蔑ろにしたことを、とても後悔しているそうだ。
渋々結婚したが、後になって、王妃に相応しいのはこの人しかいないと確信した。
だが、その頃には彼女の心の中には自分の場所はなく、王妃として義務を果たすだけ。どんなに言葉を尽くしても、彼女の心を開くことはできないまま。
彼女が亡くなって、どれだけ胸に穴が空いたかを説明された。
それは、母上と私の否定だ。
「真実の愛」と言っていた貴方は、どこに言ってしまったのか。
なんと無神経な。
母上は父上を尊敬しているようだが、母方のお祖父様からは時々違う意見を聞くことがある。
「彼は選び間違った」とか、「自分が王国を導かなければ」とか、そんなことを呟いている。お祖父様は、私を操るつもりなのかもしれない。母上は養子で、お祖父様とは血が繋がっていないし、要注意だ。
大人たちは複雑怪奇で、なんと醜悪なのだろう。
私は誠実に婚約を解消して、真実の愛を選ぶのだ。退路を断って、愛を貫く。
私の「運命の乙女」。
この国では、十六歳の誕生日から成人として扱われる。
成人したらすぐに立太子をして、結婚式を挙げたい。
誕生日が来る前に、婚約者を呼び出して婚約解消を告げた。
ちゃんと王城の応接室で、礼節を持って伝えたのだ。
いつも暗い顔をしていた彼女が、ほっとした顔を見せた。
「婚約解消、承知いたしました。
いつ、言い出してくださるかと、はらはらしていましたのよ」
ぼそっと、「愚図なんだから」と聞こえたのは気のせいだろか。
「ただ、国王陛下とわたくしの父を説得するのは大変でございましょう?
学園で社交パーティーの授業がありますでしょ。学生以外でも婚約者なら参加できる模擬パーティ。
そのとき、皆様の前で『婚約破棄』を宣言されたらどうかしら。
取り消せない状況にするのが、一番いいと思いませんか?」
彼女は扇で顔を隠していたが、とても楽しそうに目を細めた。
三つ年上の彼女は、大人の色香をまとい始めている。
少しだけ、婚約破棄をもったいないと考えてしまった。
いや、いけない。私は迷ったりしないのだ。




