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推理(3)

昨日この別荘に着いたのは私の方がハウエル達より一時間くらい早かった。その間に起きた騒動だ。


「あのユリ畑は、デライラ夫人が自ら世話をしていたそうです。」

私は眼下のユリ畑を指差した。


「その側でナサニエル君がボール遊びをしていました。そしてうっかりボールを畑に入れてしまい数本のユリをなぎ倒したのです。デライラ夫人は烈火の如く怒り、ナサニエル君の背中を血が噴き出すほど鞭で殴りました。ナサニエル君が昨日の夕食の席に来なかったのは、傷の痛みとショックで発熱をしたからですよ。スーリン夫人はその仕打ちに泣いて怒り、ナサニエル君を連れて家を出て行くと夫に告げました。」

「だったら、やっぱりスーリン夫人には動機があるじゃないか!僕と君が結婚して、子供が生まれて、その子供を君の父親が鞭でぶったら僕は絶対に許さんぞ!きっと殺意を覚えると思う。」


意外に子煩悩な人のようだ。ナサニエル君に対しても同情的だし、けっこう良い父親になるタイプなのかもしれない。


「だとしても撃ち殺すだけで、右手を切断して持ち去ったりはしないでしょう。先刻も言った通り白いドレスでそんな事をするのはあまりにリスキーです。」


「でも、それなら犯人はどうやって西館に侵入したんだ?犯行が行われた時間に、この渡り廊下にアーチーボルトとエディスがいたのに。」

ハウエルが首をかしげた。

「アーチーボルト氏とエディス嬢が犯人でないのだとしたら、二人の目をかすめてここを通り抜けたんでしょうね。」

「無理だろ。この廊下、3メートルくらいしか横幅がないのに。」

「お二人は婚約者なんですよね?」

と私は質問した。

「ああ、そうだ。」

「婚約者同士で、二人きりでいたらキスくらいしたかもしれませんよね。」

「・・・。」


途端に、ハウエルがそわそわと挙動不審になった。


確かに今、私達は同じ場所で二人きりだが、こいつ私がいきなり襲いかかるかも、とか思っているんだろうか?


「私はした事がないし、別にしたくもないけれど、キスする時って目を閉じるものなのでしょう。だとしたら、その一瞬に犯人は渡り廊下を通り抜けたんじゃないですか。」


「なるほど。・・・って無理だろ!この渡り廊下この狭さだぞ!いくら何でも気づくって。それにだ。犯人は行きと帰りの二回この渡り廊下を通ったはずだ。二回もキ・・スをして、二人が目を閉じているという可能性がどれだけあるんだよ。それくらいなら、どっかに隠し通路があるとか、そういう方がまだ可能性あるだろ。」


「ま、確かにそうですね。私も本気で言ったわけじゃありませんよ。それに、どうやってこの渡り廊下を通ったかについては私なりに考えている事があるんです。」


「考えって何だ?やっぱり隠し通路か⁉︎」

「違います。そんな物が無いのはすでに、警察の方々が確認済みです。」

「えー!じゃあ何なんだよ。」


ふと、私は何でこいつとこんなにも長話をしているのだろうと考えた。眼下に美しい花畑のあるロマンチックな場所で二人きりで長話をしていると、仲良し婚約者と周囲に勘違いされそうだ。婚約解消がしにくくなってしまうではないか。


「何なんだよ?」

「・・・犯人はアーチーボルト氏とエディス嬢が、ここへ来るより前に渡り廊下を通ってデライラ夫人の部屋に行ったのです。」

「え?」

「だとしたら、デライラ夫人がスーリン夫人をすぐに部屋から追い出した事も納得できます。デライラ夫人は、自室で誰かと会っていたんです。スーリン夫人がハーブティーを持って行った時はカーテンの隅とか、家具の陰とか、拷問道具の中とか、どっかに隠れていたのでしょう。」

「拷問道具の中はないんじゃないのか?」

「・・犯人はデライラ夫人を殺して右腕を切断し、逃げようとしました。ところが渡り廊下にバカップルがいて通れません。早くどっか行け、と思いつつ、西館の中に隠れていたら、メイド達が来て死体を発見してしまいました。それでやっとアーチーボルト氏とエディス嬢がどっかに行ったのです。しかし、現場には一人メイドが残っています。なので犯人はそのまま西館のどこかの部屋に隠れ続けたのです。そして、次々と人がやって来るのにこっそりと紛れ込んで、たった今駆けつけたふりをして見せたのです。」


ハウエルは、美しい顔をぽかんとさせて私の話を聞いていた。


「すごく、あり得そうな話じゃないか!だとしたら、スーリン夫人以外にも犯人がいる可能性は充分ある。何で、それを警察に言わなかったんだよ。無駄に幼児を泣かせやがって!」


「スーリン夫人が連れて行かれた後、警察の方から詳しい話を聞いて、推理してみたんです!」


私達は睨み合ったが、どちらからともなく視線を外した。


「そうなると犯人かもしれない人の幅はだいぶ広がります。」

「赤か黒の服の人間だな。」

とハウエルは言った。


「それもあります。そして、スーリン夫人が九時五分前に談話室を出て行ったのよりも前に談話室を出て行った人で、アーチーボルト氏とエディス嬢以外の人です。具体的には、バーナード氏(医者)、キャロル嬢、マデリーン嬢、サイキ嬢、ミス・アンブローシア(ハワード氏の従姉)ミス・トーラー(新聞社社員)です。」

「けっこういるな。」

「はい。しかし、マデリーン嬢はメイドが談話室に報告に来る前に談話室に来たので除外されます。」

「ドレスの色も紫だったしな。」

「それと犯人は、アーチーボルト氏とエディス嬢がいなくなった後も西館にいたはずです。なので、二人がそれぞれ部屋に会いに行ったバーナード氏とキャロル嬢ではありません。つまり、朱鷺色のドレスを着ていたサイキ嬢、臙脂色のドレスを着ていたミス・アンブローシア、そして喪服を着ていたミス・トーラー。この三人の中に犯人がいる事になります。」

「サイキは違うと思う。」

ハウエルはぼそっと呟いた。


「真犯人が誰か、謎を解く鍵は切り落とされた右手にあると思います。」

「確かに、どうして犯人は右手を切り落として持ち去るなんてマネをしたのだろう?」

「エルフォード卿。重要なのは『どうして』ではありません。『どうやって』ですよ。犯人は『どうやって』西館から逃走する時、切断した右手を持ち出したかが重要なんです。持ち歩いているところを誰かに見られたら一発アウトですからね。」

「でも『どうして』というのも気になるじゃないか?」

「エルフォード卿。動機なんてものは考えたって無駄ですよ。信じられないような動機で罪を犯すのが人間というものなんです。動機なんてものはですね。犯人をとっ捕まえた後に、拷問にかけてゆっくり聞きだしゃいいんです。」

「怖いぞ、おまえ。」

そう言うとハウエルは考え込んだ。


「わかった!」

「何がですか?」

「どうして犯人が、右腕を切断したかだよ。」


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