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ストルゲー・フォレスト殺人事件  作者: 北村 清


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推理(2)

「どういう意味だ?」

「エルフォード卿は、昨日の夜スーリン夫人が何色のドレスを着ていたか覚えていますか?」

「白だろ。」

とハウエルは即答した。


「じゃあ。ご自分があのドレスを着ているところを想像してみてください。」

「想像できるかあっ!」

「思考に柔軟性の無い人ですね。だったら同じ色のシャツとトラウザーズを着ているところを想像してみてください。あの色の服を着て、人間の右手を切り落とすことはできますか?」

「何色の服を着ていたって、落とせねーよ。」

「今、問うているのは、勇気や良心の問題ではありません、白い服に返り血を一切飛ばさずに、人は人の体の一部を切断できるか?という技術の問題です。」


ハウエルは、アゴに手を当てて考え始めた。


「やった事がないから何とも言えないが無理じゃないのか。血飛沫がけっこう室内に飛んでいたし。壁の方にも飛んでいただろう。」

吐きそうな状態になって、床にうずくまっていたのに、けっこう室内の様子を見ていたようだ。


「私もそう思います。しかし、昨日の事件後のスーリン夫人の服に血飛沫はついていませんでした。」

「何とか、つかないように工夫したんじゃないのか?デライラ夫人の上着をクローゼットから出して羽織ったとか。」

「たとえ、そうであったとしても、どこかに血がついているかも?と不安を感じるのが犯人の心理です。もし、彼女が犯人だったら、本館へ帰る時渡り廊下でアーチーボルト氏とエディス嬢と会話などせず、素早く側を通り抜け自室に戻って別な服に着替えたでしょう。あるいは、アーチーボルト氏とエディス嬢がいなくなるまで、西館に待機したはずです。」

「・・・。」

「だけど、スーリン夫人はそうしなかった。それは彼女が犯人ではなかったからです。そもそも、スーリン夫人は行きはトレイを持っていたけど帰りは手ぶらだったと、アーチーボルト氏が証言しています。スーリン夫人は『切断した右手』を持っていなかったのです。ちなみに、捜査官達が徹底的に西館の全ての部屋と西館の周囲を捜索しましたが、切断された右手はまだ見つかっていません。なので『右手』は間違いなく犯人が西館から持ち去ったんです。」


薄気味悪くなったのだろう。ハウエルは自分の右腕を左腕でさすりだした。


「スーリン夫人は、自分は犯人ではないって言っているんだよな?」

「はい。認めておられません。警察署に連れて行かれ、更なる取り調べを受けているそうですが、認めておられないそうです。」

「スーリン夫人が、九時にハーブティーを持って行った時にはデライラ夫人は生きていたのだろうか?」

とハウエルが言った。私は呆れてしまった。


「生きていたに決まっているでしょうが。死んでいたら『死んでる』と談話室に言いに来ますよ。」

「それもそうだな。でも、スーリン夫人は九時ちょっと前に談話室を出て行った後談話室には戻って来なかった。どこに行っていたのだろう?」

「ナサニエル君の部屋に行っていたそうです。」

と私はメモ帳を見ながら言った。


「スーリン夫人がデライラ夫人の部屋に九時に入った時、デライラ夫人は爪にマニキュアを塗っていたそうです。その時デライラ夫人はスーリン夫人に『別に今日は何も用事はないから下がっていい』と言ったそうです。スーリン夫人は、その発言に違和感を覚えたそうです。」

「普通の発言じゃないか?」

とハウエルは言った。


「エルフォード卿は、ご自分の指にマニキュアを塗った事ってあります?」

「あるわけないだろうが!」

「私もないのですが、マニキュアというものは利き手の爪に塗るのは至難の業なのだそうです。理由は言わなくてもわかりますよね。」

「そりゃあまあ、利き手の爪にマニキュアを塗る為には利き手じゃない手を使わないとならないからな。」

「若者と違って年寄りは手がプルプル震えたりするから、尚の事大変なはずです。そんな大変な作業中に下僕扱いしているヨメが部屋にやって来たのです。右手にマニキュアを塗れ。と命令しそうなものじゃないですか。なのにデライラ夫人はスーリン夫人を素早く追い払ったんです。」


ハウエルは「ふむ」とつぶやいて考え込んだ。

「後からメイドが来る事がわかっていたから、何も言わなかったんじゃないのか?メイドに塗らせようと思っていたとか。メイドが来た時、右手の爪はどういう状態だったんだ?」

「それはわかりません。右手は行方不明ですので。」


ハウエルの、右手をさするスピードがパワーアップした。


「ようするに、君はスーリン夫人の白いドレスが血で汚れていなかったから夫人は犯人ではない。というんだな。」

「その通りです。私の記憶にある限り、スーリン夫人のドレスは汚れていませんでした。」

「となると、君は犯人は赤い服を着ていた人間と思っているわけか?」

「もしくは黒ですね。」

「ミス・トーラー(新聞社社員)が真っ黒な喪服を着ていたよな。」

「ええ、そしてミス・ロビン(オペラ歌手)が緋色、ミス・アンブローシア(ハワード氏の従姉)が臙脂色、サイキ嬢が朱鷺色、そしてキャロル嬢がタータンチェックの赤のドレスを着ていました。マデリーン嬢がラベンダー色、エディス嬢は若草色のタータンチェックでしたね。そしてメイド達の着ていたメイド服は薄いブルーです。」

「君はネズミ色だったな。」


灰色と言え!

と心の中で私は叫んだ。


「男性のトラウザーズは半分紺、半分白でしたね。ハワード氏が黒に白い線の入ったピンストライプでしたが、ハワード氏は談話室を一歩も出ていません。」

「・・・・。」

「さては覚えていませんね。」

「別に男は何着てようが着ていまいが・・・・。」

「何も着ないで歩き回っていたら絶対許しませんよ。」

私はハウエルを睨んだ。

「確かに僕も許せんな。」

とハウエルはうなずいた。


「だけど手の切断なんて女性には無理だろう。犯人は男じゃないのか?」

「手の切断に使われた凶器は、デライラ夫人が自室の壁に飾っていた斧です。五歳のナサニエル君ではとても持てないでしょうけれど、大人なら女性でも普通に持てるでしょう。実際、デライラ夫人は持っていたはずです。」


「あれには、いろいろ疑問があったのだけど。」


ハウエルが蒼ざめながら聞いて来た。


「デライラ夫人の部屋って、あれ何?何であんなに武器とか拷問道具が置いてあったんだ?」


「そういう趣味の方だったのですよ。」

「そーゆー趣味って?」

「実際の拷問や処刑に使用されたアイテムの蒐集家だったんです。右手を切断するのに使われた、壁にかけられた斧は某国で罪人の首を切断するのに本当に使われていたものだそうですよ。オークションで十人以上と争って競り落としたと自慢していたので、そういう趣味の方は意外と多いのでしょう。ちなみにデライラ夫人の殺害に使われた銃も彼女自身の物です。」


ハウエルが何とも言えない表情で自分の首の後ろをさすった。


「暴力的でサディスト思考の人だったんです。昨日もあなた達が来る前にもこんな恐ろしい事件があったんですよ。」

面白いぞー、頑張れよ

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