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ストルゲー・フォレスト殺人事件  作者: 北村 清


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疑問(2)

ジェラルドはサイキの肩を抱いてもらい泣きをしている。アーチーボルトとエディスは怒りに握りこぶしを震わせていた。


「何てババアだ!人を恐喝して物を脅し取り、それで人を自殺に追いやった挙句に、それを告発しようとして来た人間を殺そうとするなんて。」

アーチーの下品な発言を聞いたエメラインが顔をしかめた。


「『殺してやる!』とまではさすがに言っていないと思うわ。サイキ嬢を殺したら殺人犯として捕まってしまうし、我が国では正当防衛以外の殺人はすべからく死刑にすべきとされているもの。だからせいぜい『その可愛い顔を二目と見れないようにしてやる!』くらいよ。あるいは『鼻が無くなったら男にモテなくなるわよ』とか。」

「もっと恐ろしいわ!」


もはや、その場の雰囲気はサイキ同情論にすっかり傾いていた。警察のサイキを見る目もすっかり変わっている。ハワード氏やミス・アンブローシアの方がヒールであり、招待客達は死んだ老婦人の仲間と見られたくなくてじわりじわりとハワード氏やミス・アンブローシアと距離を取り始めていた。


「母がそんな事をしていたなんて、私は全然知らなかった。」

呆然としてハワード氏が言った。


「私も知らなかったわ。」

とミス・アンブローシアが不貞腐れたように言うと

「嘘おっしゃい!」

と鋭い声が飛んだ。


新聞社社員のミス・トーラーだった。

「私が社長を訪ねてこの屋敷に来た時、サイキ様の母親のレディー・クラッケンソープもこの屋敷を訪ねておられました。そしてこの庭のガゼボでデライラ夫人とあなたとレディー・クラッケンソープの三人で話をしていたではありませんか!何を話していたのかまでは聞こえなかったけれど、レディーは泣いておられて、あなたとデライラ夫人は笑っていました。その翌日、レディーが自殺されたと新聞にのって、記憶に焼きついていたのです。その時レディーがつけておられたブローチを、一週間後の夜会でミス・アンブローシア。あなたは恥ずかしげもなくつけていたじゃありませんか!」


「おだまり!使用人の分際で。」

ミス・アンブローシアが目をむいて怒る。


「黙りませんわ。私・・あの日、帰る時この屋敷のエントランスでレディー・クラッケンソープと顔を合わせたんです。私レディーに声をかけようかと思いました。でもレディーは貴族で、私は平民で労働者階級で、だから声をかけられませんでした。でも、かけるべでした。何か言って差し上げるべきでした。話を聞いて差し上げるべきでした。あの時の事を後悔しているから。だから今度は絶対黙りません。どこでだってこの話をして回りますわ!この可哀想なお嬢様の為デライラ夫人とあなたがどんな下劣な女だったか、どこでだって言ってやりますわ!法廷に立てと言われるなら喜んで立ってやりますわ!」

とミス・トーラーは叫んだ。


ミス・トーラーとミス・アンブローシアの間で稲妻級の火花が散っていた。


「まあ、ともかく。」

と捜査官は言った。


「詳しい話は警察本部の方でじっくり聞きましょう。さあ、お嬢さん。行きましょう。」

「サイキに触るな!」

とジェラルドが叫んだ。


「どうしてサイキが、警察になんか行かないとならないんだ。サイキは何も悪くなんかないじゃないか!」


「いや、行った方がいいと思う。」

エメラインが斧を壁に戻しながら言った。


「こんな屋敷にいるより、警察の方が安全よ。私とお父様は違うけれど、他のお客様はデライラ夫人の仲間と手下なんだし、それに捜査官殿はけっこう紳士だもの。魔女裁判をやっていた時代のように、捕まえた容疑者を拷問にかけて自白を強要するなんて事、絶対しなさそう。」

「勿論です。人道に反する取り調べをする事はありません。安心してください。」

と、捜査官が言う側でオペラ歌手のミス・ロビンが

「あたし、仲間でも手下でもないし!」

と怒っていた。


サイキはまだ激しく泣いていたが、捜査官達に連れられゆっくり歩き出した。


「頑張るんだぞ、サイキ。すぐ父上に連絡を取るから。」

とアーチーボルトがサイキに声をかける。アーチーボルトの母親は僕の乳母だが、父親は男爵で法廷弁護士の資格を持っているのだ。


「怖かったわね〜。ハウル。」

と言ってマデリーンが僕の肩にしなだれかかって来た。僕はもう遠慮会釈なくマデリーンを突き飛ばした。


よろけたマデリーンを、エディスもキャロルもアーチーもドライアイスのように冷たい目で見ている。


「ハウルに触ってんじゃないわよ!あなたはもはや、ハウルの友達でも、私やキャロルやアーチーの友達でもないわっ!どこで会っても二度と話しかけて来ないでちょうだい。」

エディスがマデリーンを怒鳴りつけた。全く持って同感だった。



こんな大騒ぎが起きた後である。


もう、見合いとか婚約とか婚約破棄とか結婚とか離婚とか言っている場合ではない。


僕もエメラインも家へ帰る事になった。


ハワード氏が滞在客全員を、家へ送り届ける為の馬車の手配をしてくれている。


僕の荷物はアーチーボルトがスーツケースに詰めてくれている。空き時間がいくらかできたので、僕はさっきからずっと気になっている事を調べてみる事にした。


僕はとある人物の部屋を訪問した。誰かに見られるとまずいので、ドアの前を一回通り過ぎ、周囲を見回してからドアの側に戻りドアをノックした。

一応、女性の部屋だ。ハーグリーヴス伯爵に見つかると怖いからな。


返事は無い。好都合な事に部屋に誰もいないようだ。ドアをそっと開けてみると、部屋の中はむわっと暑かった。こんな季節だというのに、暖炉に火が入っているからだ。

僕は顔の周りを手でパタパタと仰ぎつつ中に入った。額に汗がじんわりと浮かんでくるが、それは暑さのせいではなく緊張の為だ。


僕はベッドに近づいた。


僕の目的のブツがベッドの横のサイドテーブルの上にあったからだ。


手を伸ばしてそれを手に取った時。


「そこで何をしているの?」

開けたままにしておいたドアの方からこの部屋の住人の声がした。

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