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01 - 断罪

 華やかなドレスや礼服を纏った男女がオーケストラの生演奏に合わせて華麗な舞を踊っている姿が見える。その大きなホールと隣接する会場に置かれた大きなテーブルには諸国では貴重な牛や豚と言った家畜をふんだんに使った料理が並べられている。


 このマル・ルガール王国では畜産治術が発達しており、肥育に手間のかかる牛は王宮や神殿で繁殖が比較的容易な豚は市民たちが気軽に食しているとはいえ、年始の祝いでも建国記念の日でもこれほどの量や種類の手間暇をかけた晩餐を見かける事はない。


 この饗宴がことさらに豪勢であるのは、人々の生活を脅かす厄介な魔物たちが住む未踏の地と境界を接する国々との合同遠征軍の凱旋祝賀会(パーティー)だからである。諸国の中でもその畜産技術のせいもあり何度も何度も魔物たちに狙われることの多いマル・ルガール王国が中心となって主導した今回の合同遠征では、少ない犠牲で魔物を想定以上に撃退できた為、当分の間は奴らも大人しくしているだろうという事でより一層浮足立った華やかな祝いの席となった。


 各国の重鎮や遠征軍に参加した将軍たちは、国王と論功行賞や今後の防衛体制などについて会談中でそれが纏まり次第彼らもこの宴席に参加する予定だが、すでに祝いの宴は始まっている。遠征軍に参加した兵士や補助兵、彼らの奮闘のおかげで訪れるであろう平穏への感謝を捧げるために。


 優雅な曲は一旦終わり、さらに新たな曲をオーケストラが奏で始めようというそのタイミングで、主催であるこの国の王家の末子である第13王子のデビッドが護衛を従え、数人の取り巻き…おそらく今回の戦で戦功をたてたのであろう庶民の友人たちを連れて会場の中央に立った。


 彼はこの国の聖女バーバラと婚約しており、聖女バーバラは神殿の奥にある本殿で祈りを捧げて国を守護しているともっぱらの噂だ。この遠征で今後しばらく情勢が落ち着くため祈りを捧げる聖女の仕事もひと段落するであろうから、そのことについての発表があるのかと…つまり、王子と聖女の婚約関係の進展といった内容だろうとその場にいた殆どの者が思っていた。


 バーバラの姿を見た者は少ないことと聖女は質素な装束を好むことが多い、きっとその取り巻きの中に聖女がいるのだろうと思って見守っていると、恐らく民兵であろう装束の誰か…デビッドの取り巻きと思われる…が、貧相なみすぼらしい少女を乱暴に引っ張りながら会場の中央…デビッドと取り巻き達の正面に投げつけるように放り出した。


 みすぼらしい少女は足取りも悪く、つんのめったのか体全体で会場の床にべターン!と張り付くかのように投げ出された。


 黒く長い髪は腰を超えて膝まであり、そのせいで顔は良く見えない。身に着けているワンピースはシンプルと言えば聞こえはいいが孤児の方がよほどよい服を着ている。それは薄汚れていくつかシミがあり、所々がほつれているからだ。肌は荒れていてうっすらと生臭い匂いさえし、身だしなみも最低限しかされていない様子が伺え、やや骨ばった姿は貴婦人たちが扇子で顔を隠し眉をしかめてしまうような、そんな容貌だ。


 わざと目立つように投げ出された少女が辛うじて手をつき顔を上げると、デビッドは少女を指さし居丈高にこう言い放った。


「バーバラ!今回の遠征でお前が何もしていないのは知っている。何の役にも立たないお前など聖女ではないし、この国にも必要ない。僕との婚約も破棄の上聖女という地位もはく奪し、この国からも追放だ!」


「当然神殿からも…そう、わかるか?世間の状況など知らずに安穏と過ごしている今の住処からお前は解放だ、お前の居場所などこの国にはないからな!」


 デビッドはさらに少女に向かって踏み込んで告げると、取り巻き達と歓声を上げる。


 そんな突然のアクシデントのような出来事に祝賀会(パーティー)の参加者は驚きと戸惑いを隠せないでいると、恐らく連れてこられた聖女を追いかけてきたのだろう神殿の神官がその発言を聞き、ああ…という声にならない声を発したながら膝をつき、警護の衛兵たちが慎重にだが息を飲んで様子を伺っている。中には、会談中の国王たちへ連絡に向かったものもいたようだ。


「お前のような、貧相でみすぼらしく世の事に何の関心も無い者が聖女を名乗っているなど度し難い。だが慈悲の心を持って神殿からの解放と国外追放で許してやろう。何処へなりとも行け!」


「ここにいる遠征軍の前線で騎士や兵士たちの為に、衛生部隊の一人としてその知識と知恵を活用し身を粉にして働いていたこのカーラの方がよほど聖女だ!」


 と、彼は取り巻きの中の一人の少女を抱き寄せた。


「デビッド、あたい別にそんな崇高な志とかじゃなくて、ただ皆を助けたくて…。」


「カーラ、謙遜はしなくていい、君のそんな心が僕は崇高だと思ったんだ。」


 二人は見つめ合うと、お互いに微笑んだ。そしてデビッドは聖女に向き直ると吐き捨てた。


「こんな、神殿の奥で何をしているか判らないような女などよりな!」


 貧相な少女は身体全体をがくがくと震わせた。


「あ、あ…あ゛、あ゛あ゛あ゛ーーー」


 絞り出すような声を上げた少女はまた這いつくばって震え出したかと思うと長い艶の無い髪がうごめき、デビッドの横を鋭い黒い影のようなものが切り裂いた。


 ヒュゥッ


 声にならない声が聞こえたと同時になにか重いものがゴトンとその場に落ちた。


「キャアアアアーーーーーーー!」


 デビッドの横で見つめあったはずの少女の顔は無かった。顔のあった場所からは生臭い匂いが吹きだし、祝賀会(パーティー)に参加していた婦人の誰かが痛切な悲鳴を上げた。


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