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妹女将は中二病!幼なじみ仲居はヤンデレ!料理長はサイコパス!癖だらけの温泉宿に傷や秘密を抱えた旅人がふらりと訪れ笑って心だけ置いて帰っていく

心をほどくのは、癖しかない人たちでした。

《※アルファポリス・第8回ほっこり・じんわり大賞エントリーの為、アルファポリスで先行して公開しています》

舞台は、茨城県の最北端──北茨城市・平潟温泉。
太平洋を望む小さな港町の外れに、ひっそりと佇む一軒の宿がある。
その名は、「椿屋(つばきや)」。古びた木造建築に、赤い椿が咲く石畳の玄関。
一見、ごく普通の昔ながらの温泉宿。だがその実態は、ちょっと──いや、かなりおかしい。

宿主を務めるのは、元銀行マンの郷原悠真(ごうはら・ゆうま)、29歳。
激務に心を擦り減らし、社会から逃げるようにこの地へ帰ってきた男だ。
女将は実妹の郷原 灯(ともり)。だが彼女は、成長してなお“中二病”をこじらせたままの和服美少女。
仲居の斎木 咲良(さくら)は悠真の幼なじみ。天真爛漫な笑顔の奥に、病的なまでの執着を隠している。
料理長の雪村 柚葉(ゆずは)は、寡黙で天才肌の料理人。料理は正統派なのに、
「白身魚の塩焼き」に『孤独に濡れた魚の最期』と名付けてしまう詩人めいたサイコパス。

そんな一癖も二癖もある彼らが運営する椿屋に、今日もまた一人、旅人がふらりと現れる。

人生に迷った者、何かを失くした者、誰にも言えない痛みを抱えた者──
この宿に来る客は皆、どこか「何か」を引きずっている。
けれどこの宿は、それを暴こうともしないし、癒そうともしない。

女将は唐突に「その魂、前世では海に沈んだな」と呟き、
仲居は「悠真くんの前で涙なんて……あんまり好きじゃないな」と刺すように笑い、
料理長は“なぜか刺さる”名を持った料理を無言で差し出す。
それでも、宿の朝は優しく、風呂の湯はあたたかく、誰かが黙って隣にいる。

ここは何も解決しない宿だ。だけど、たしかに心を軽くしてくれる宿だ。

帰る朝、客たちは決まって言う。
「……なんかよく分からないけど、来てよかった」と。

そして、少し笑って、心だけをそっと置いて帰っていく。
第一章 『妹は帰ってこなかった──記憶と湯の底に沈むもの』
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