第82章 リネアの新能力
「リネア、落ち着けよ。俺はただ、あのゲームのエンディングが不満だって言ってるだけだ。他のことじゃない」
「ふんっ~好きに言えば?理由が単純すぎるわよ。他の誰かと恋人を分け合うなんて、本気で言ってるの?」
「相手がナイラなら、俺は構わないぜ」
[私たち三人は特別なんだから。普通の人の話をしてるのよ]」リネアが[念話]で囁いた。「[私たちは記憶を共有している。好き嫌いなんて、基準になるわけないでしょう?]
[例えば、カナが、自分と明血の繋がりがないって知った後、他の女の子に兄の愛を奪われるのを、素直に受け入れると思う?]
絶対に嫌がる。妹が真実を知ったら、間違いなく最初から二人の関係を強固にしようとするか、あるいは過激なことまでやりかねない、と俺は確信していた。
でも、彼らがそんなことするとは全く心配していなかった。何せ、血は繋がってないし、法律も認めているし、道徳にも反していないのだから。
「だから、もし他の女の子を好きになる勇気があるなら、足を折って、永遠に私のそばに閉じ込めてあげる」
「じゃあ、これは今のお前からの告白ってことか?」俺は笑った。
「違うわ!ただ、あなたは私にプロポーズした身だって言ってるの。約束した時、最終決定権は私が持ってるんだから!」
「もう、好きにしろってば、はあ~」俺はただ肩をすくめるしかなかった。
朝の時間は、そんな曖昧な会話で過ぎていった。
[このままの生活が永遠に続けばいいのに]端麗なリネアの顔を見ながら、俺はぼんやり考えた。
昼食を作り、家族と談笑し、皿を洗い…時間はあっという間に過ぎた。
午後、カナはクラス会に出かけ、家には俺とリネアだけが残った。
「リネア、何かしないか?家にじっとしてるだけだと、マジで退屈だぜ」ソファでテレビのチャンネルを次々に変えながら、退屈そうに俺が言った。
最近は変な事件ばかりで、もう慣れっこになっていた。でも実家に帰ってからは、何一つ極端なことは起きていない。
「退屈?じゃあ、私と一緒に10キロ走りましょ。絶対に退屈しないわよ」彼女は干物を見るような目で俺を見た。
リネアはスマホの株価アプリを閉じ、トレーナーを俺に投げた――暑さでパンツ一丁だった俺のところへ。
「ちょっと待てよ、今は6月末だろ?外の気温はたぶん37度くらいあるぜ?外に出たら超暑いだろ」俺は信じられないという目でリネアを見た。
「くだらないこと言わないで、靴履いて外に出なさい!」リネアはソファから俺を蹴り落とした。
こうして、俺はリネアに引きずり回されるように走ることになった――もちろん、先導するのは彼女だ。
その午後はリネアと一緒に走って過ごした。最初は街を一周し、そのまま郊外へと走り続けた。
数周した後、リネアはまだ物足りなさそうだった。彼女はさらに郊外へ走り進み、ついに某警備会社の訓練場にたどり着いた。見学客かと勘違いした現地の職員は、俺たちを止めなかった。
この警備会社は軍事化管理がかなり厳しい。
内部組織さえ軍隊式を模している。隊長は皆を「戦士」と呼ぶ。
実質的に正規軍と言っても過言ではない。武器がないだけだ。
地元住民の多くも、彼らを単なる警備員ではなく軍人同然に見なしていた。
走り続け、訓練中の戦士たちの列に追いついた。皆の前で、リネアと俺は平然と先頭の分隊長を追い抜いた。
その瞬間から状況が熱を帯びた。数人の屈強な分隊長たちが追いかけ始めた。レースの始まりだ。
安定したペースで前進していた部隊はすぐに置いていかれ、後方の戦士たちは必死にスプリントせざるを得なくなった。
[リネア、これって反則じゃないか?あの部隊は疲れてるだろ。見てよ、数十キロの装備を背負ってる。ペース落として休ませてやれないか?]
リネアは幼い頃から狂ったように身体を鍛えているし、俺は能力のおかげで疲れ知らずだ。彼らと走るのは不正行為に感じた。
「ふん、確かに」リネアもやりすぎだと認めた。
「じゃあ、私たちも荷物を背負いましょう」公平を期すため、リネアは道端の砂袋を掴み、俺の背中に載せ、自分用にもう一つ取った。俺は25kg、リネアは15kgほどだ。
追っていた戦士たちは俺たちが止まったのを見てほっとし、ペースを落とせると思った。しかし砂袋を背負い、再び走り出した俺たちを見て――彼らの口がぽかんと開いた。
砂袋は重量リュックではない。背負うだけでも地獄だ。理論上、それを背負って走れば数歩でへとへとになるはずだ。
現実には、砂袋を背負ったせいで我々の速度は確かに大幅に落ちた。だが先頭の分隊長たちでさえ、我々のペースに追いつくのがやっとだった。
5キロ後、後方の戦士たちが次々と脱落し始めた。記録は5キロ19分――軍事訓練基準では驚異的な数字だ。
「リネア、まだ続けるのか?」体力は桁外れでも、彼女の体はあくまで人間だ。この恐ろしいトレーニングにさすがに負担がかかり始めていた。
「んっ」走るのは意志の鍛錬だ。リネアは完全に崩れ落ちるまで止めない。
さらに10キロ走ると、残っていたのは体力最強クラスの分隊長ほんの一握りだけだった。
彼らの目には畏敬と決意が宿っている。脱落した者も踏みとどまった者も、全員が限界まで走るか歩いていた。だらりと座り込む者など一人もいない。
「これが軍魂ってやつか?」リネアの感覚を通じて、彼らの体がどれほど痛んでいるかがわかった。
全員が超人的な肉体を持つわけではないが、それでも歯を食いしばり、耐え抜き、決して諦めようとしない。
さらに10キロ後、リネアの体が限界に達し、ようやく停止した。振り返れば、残っていたのはたったの六人だった。
気温37℃の中、25kgの荷物を背負い、2時間で25キロをノンストップで走破――普通の人間には不可能だ。
リネアと俺は戦士たちに向けて親指を立てた:「大手警備会社の皆さん、見習うべきだな!」
「褒められても…何の意味があるんだ?」数人の分隊長は頭をかきながら、何と言えばいいか困惑した様子だった。
「……」
こうして我々の「軽く運動」は終わった。その後十日間、私たちは定期的にここに来て走った。
結果として、この警備会社支店の隊員たちの体力は飛躍的に向上した。
次の会社内競技会では、彼らの特殊任務チームが無敵を誇り、優勝を勝ち取ったと聞いた。
「ハジメ、おんぶして。私を家まで連れて帰るのよ。歩けないわ」
「はあ~」想定内だった。
その後、俺はリネアをおんぶして家路についた――これは彼女からのささやかな報酬と言えるかもしれない。
シャワーを浴びた後、リネアはタオル一枚に身を包み、パソコンの前に座った。そして宮城県の3Dモデル制作を始めた。
今日のランニングの主目的は確かに運動だったが、それ以上に重要なのは地理データの収集と、この地域の防衛力評価を同時に行うことだった。
「やっと完成」リネアは満足げに自身の傑作を見つめた。
「USBに保存しておくわ」このモデルが使われるかどうかはわからないが、準備は大切だ。もしここで敵と衝突する事態になれば、このモデルは極めて重要になる。
リネアがUSBをパソコンに差し込んだ瞬間、指先を通じて激しい情報の奔流が彼女の脳に流れ込んだ。
「これ…コンピュータ言語?」リネアは即座に思考を侵すこのデータを認識した。
無意識のうちに、彼女は情報を整理し始めた。ハードウェアのスペックからファイルの保存場所までが、彼女の心の中に明瞭に映し出された。
リネアは一片のコードを書き換えてみた。そしてシャットダウンのコマンドを送った。瞬時に、パソコンの電源が切れた。
「これは…電子制御だ」