第74章 帰路
「待って、リネア。偽造体作成の副作用で、死んだみたいに過敏になってるんだから」ナイラが照れくさそうに言った。
「そんなの関係ないわ。あんたが私をいじめたんだから。これがお仕置きよ」リネアはきっぱり断り、ナイラをもっと強く抱きしめた。
「仕方ないわね、ハジメ。ごめんなさい」ナイラはオレの方を一瞥した。
オレの能力のおかげで、オレの体は完璧に彫琢されていた:整った顔立ち、欠点のない理想的な筋肉質の体格。それに、戦闘でボロボロになった服が、汚れたダイヤモンドのような体をさらけ出していた。そういえば、ヘリコプターであんなに大出血したのはナイラの仕業だったな。
リネアは動きを止め、オレとナイラを何度かチラリと見比べてから、鋭い目つきでオレを睨んだ。
「近づくな!何をするつもりだ?」オレは手を伸ばし、危険な眼差しで近づいてくるリネアを遮ろうとした。
しかし、無力な状態では当然、止められるはずもなかった。結局、オレは彼女に抱かれるのを許した。
「先に告白しなきゃ、お前の彼氏にはならない。命がかかっててもな」オレはきつく警告した。
だが、オレは彼女の決意を甘く見ていた。リネアがオレの耳に何か囁くと、オレはすぐにうなずいて承知した。
リネアは息を吸い込み、それから照れくさそうにささやいた。「帰ったら…」
オレの頬が赤くなった。オレは顔をリネアの胸に埋め、「ああ、約束する」ともごもご言った。
キャビンの中で、リネアはオレの膝の上に座っていた。片手でジョイスティックを握りながら、オレの胸にもたれかかっている。この親密さはもう日常茶飯事で、オレは彼女の一つ一つの触れに応えるしかなかった。この感じ…幸せだ。
乗客席に座っているナイラは、損傷した体の修復に忙しくしながら、オレとリネアの様子を見て抗議したが、無視された。
リネアが安らかに横たわるのを見つめながら、オレはここ数日間の出来事の記憶を反芻した。
魔族の子孫、真理教団、ラスト・ディフェンス・ライン、特殊作戦部、「扉を開く者」派閥、「扉を閉ざす者」派閥、それに牙狼組織…まったくもってめちゃくちゃな状況だ。
それに、オレが異世界に注入したエネルギーが、次元間の通路を世界中のあちこちに散らばらせた。きっと大問題を引き起こしているに違いない。
だが、オレの心を最もかき乱しているのは…異世界でエレシュとオレの間に起きたことだ。
彼女に深い感情はなかったが、名目上結婚し、子供まで持った。それに、彼女がどうやってそこにいたのかもわからない。
そして、オレの弟(明)の人生経験…魔族の子孫たちが彼に接触していないはずがない。もし弟が敵になったら、オレはどう対処すればいいんだ…考えるのも恐ろしい。
「リネア、例のアンドロイドを事前に止められなかったら、どんな結果になった?」山の裂け目に近づいた時、オレはその質問を口にした。
「はあ、考えてなかったわ」リネアはオレを救うことだけに集中していて、その結果なんて考えていなかったのだ。
当時の祭壇のエネルギーを計算したリネアは、顔色を失った。ツァーリ・ボンバ数十発分に相当するエネルギーがユーラシア大陸の交差点で爆発すれば、世界的な地質学的災害を引き起こす。
災害後の死者は確実に数億人に達し、人類文明は少なくとも20年後退。疫病と戦争が続発するだろう。想像を絶する損害だ。
「マグニチュード8〜9級の地震がユーラシア全土を襲う。世界中の火山が数ヶ月間噴火を続けるだろう。アメリカ大陸、アフリカ、オセアニアの東海岸と西海岸は、範囲300キロの津波に飲み込まれる」
「そうなると…我々、とんでもないことを阻止したみたいだな」三人は苦笑いを浮かべて互いを見つめた。
[フッフッフッ…] 無音の笑いが山の裂け目に漂い、ヘリコプターの爆音にかき消される。
「おい、待てよ――何か忘れてないか? 猟サンはどこだ?」最初のキャンプ地が見えてきて、突然、祭壇に入ってから彼の姿を見ていないことに気がついた。
あの時、猟サンは叔父のヘリに運ばれたはずだ。叔父と合流したなら道理だが、全く見かけなかった。
「まさか…?」嫌な予感が襲う……
ーー
高原にある山荘の一室で、猟サンはベッドからゆっくりと起き上がった。その視線は、まだ深い眠りについている少女に向けられる。この時まで揺らいでいた決意が、一瞬にして崩れ落ちた。彼はそっと少女の耳たぶに口づけし、白い布の上の赤い染みを満足げに見つめた。
猟サンは寝室のドアを開け、静まり返ったリビングに入ると、一人の中年の男性に深々と頭を下げた。
「考えはまとまったか?」男性が問う。
「はっ。私猟、心を入れ替えて貴方様に尽くします」
[古来、美は英雄を陥れる罠となるものよ] 中年男性は内心で嘲笑った。
誰もが心の奥に闇を抱えている。ほんの少し餌を与えれば、どんな誠実な人間でも、欲望の虜となるのだ。
「特殊作戦部での君のポジションは整えてある。いつでも赴任していい。君とメイは新婚だ、数日休みを取れ。だが…夫婦といえど、節度は守れよ」
「承知しました…ディレクター…長老」リョウは無邪気な笑みを浮かべた。
ーー
アメリカ軍基地地下20階。培養槽がゆっくりと開いた。黒髪の鹿角を持つ人影が一歩踏み出す。
「他の分身は全て壊した。これは? 自分の本体とはいえ、やはり好きにはなれんな」
その人影は、虚ろな自分の体をしかめ面で見つめた。
「ああ、そうだ。今日は俺の500回目の誕生日だ。活力溢れる日だな」
彼女はお気に入りの黒いガイアロリータ服を身にまとい、絵筆をくわえながら外へ歩き出した。
「閣下、もしあの三人が我々を止めていなければ…皆、死んでいました」執事長に似た影がひざまずき、冷や汗がこめかみを伝っていた。
「それで良かったんじゃないか?」
その人影は筆をくわえたまま、執事頭の頭に手を置いた。
「やめて!閣下、私は…あぁっ!きゃあああっ——!」鋭い悲鳴が響く。
「ふむ…今回はなかなか良い色だ」少女は手の血を舐め、筆を赤い水溜りに浸すと、私設アトリエへ向かった。キャンバスには三人の少女の肖像画が描かれている。アトリエの片隅には、数十枚の似た肖像画——全てが血の赤いバツ印で消されていた。
ーー
中華魔都。一人の若者が飛行機から慌てて降り、照れくさそうな温かい笑顔を浮かべていた。階段の下では、純真なオーラをまとった少女が待っていた。
「ダーリン…失敗しちゃった」彼の声は力なく沈んでいた。
「大丈夫。第二回目もあるじゃん?」少女は慰めるように言った。
「うん…次はもっと頑張るよ」感謝に満ちた微笑みを返した。
しかし突然、若者の身体が痙攣した。意識が遠のく中、彼は「自分を深く愛している」はずの少女が甘く微笑むのを見た——その指の間からは鋼の針が覗いていた。
「片付けたか?」老いた声が電話越しに響く。
「終わったわ、お祖父様」少女の声は優しいままだ。
「お前はもう十七だ…そろそろ縁談を進める」
「え? まだ嫌だよ!」
「駄々をこねるな——」