第68章 異世界との接続
[ちくしょう…!どうしたらいいんだ。]
[落ち着いて、ハジメ!あなたの方法が間違っているのかも。]
人間の脳を通信塔に例えるなら、エネルギーの流れはそこから発せられる電磁波だ。
通信塔は電磁波の振幅・周波数を設定することで初めてエネルギーを発信できる。それがなければ、ただの役立たずの鉄の塊だ。
人間の脳も同じことだ。今の俺は、体内にエネルギーを流すことだけに集中し、脳からエネルギー波を発信するための「振幅」を与えるのを忘れていた。失敗するのも当然だ。
[ハジメ、いくつかの世界——映画でもアニメでも小説でもいいわ——を想像してみて。フィクションの世界で、完成した世界観を持っているものなら何でも。]
[了解!]
「完成した世界観…」
少し瞑想した。さっきの宇宙人トラウマのせいか、まず真っ先に浮かんだのはあの恐ろしい異形の姿だった。映画『エイリアン』の世界全体が、瞬く間に俺の脳裏に構築された。
たちまち、頭を軽く叩かれたような感覚が襲った。エネルギーの流れの一部が出口を見つけ、脳内の圧力が急激に低下した。
[ダメダメダメ!なんで異世界と繋がっちゃうんだよ!?あれ気持ち悪いんだから!]
エイリアンの金属質の外骨格を思い浮かべただけで、鳥肌が立った。すぐに思考をエイリアンの宿敵へと切り替えた。
プレデターの姿が俺の想像を占拠した。『エイリアン対プレデター』の世界が構築された。また一筋のエネルギー流が通路を見つけ、俺の脳から逃れていった。
[どうやらパターンが掴めてきたぞ。]
突破口に触れた俺は、同じ方法を続けた。『パイレーツ・オブ・カリビアン』、『バイオハザード』、『ワールド・ウォーZ』、『デビル メイ クライ』、『ソードアート・オンライン』、『Fate』シリーズなど、様々な世界と接続した。
(※ちなみに作者は上記の全シリーズのファンです。)
なるほど、本当だ:科学の果ては形而上学だ。同じことが形而上学的にも科学的にも説明できる。本質は同じだが、理解の仕方が違うだけだ。
人類の形而上学の歴史は科学の歴史をはるかに凌駕している。だから多くの形而上学理論が最終的に科学的に証明されてきたのだ。今日の実験は、ある科学者のタイムトラベル理論を証明することに成功した。
接続する世界が増えるにつれ、エネルギー流は最低限の強度に制限された。しかし、ある閾値を超えると、どんなに他の世界を想像しようと、最後の一欠片のエネルギーは頑として俺の内側から離れようとしなかった。
[もういい。この程度のエネルギーなら耐えられる。]
エネルギー源の反応が弱まるにつれ、リュックの核タイマーも静かになった。
痛みに呻きながら、俺は眼窩から十字剣を引き抜いた。片目を失う代償だったが、人類滅亡の危機はようやく葬り去られた。
正直言って、この犠牲は割に合っている。何せ俺には損傷した細胞を再生する能力がある。三日もすればこの目は回復する――ナイラが遺伝子改造剤を注射してくれれば、一日で済む話だ。
[ふう~、やっと片付いたか。]
[油断するな!黒霧はまだ消えていない!]
[ちょっと息をつかせてくれよ!?]
エイリアンやロボットの残骸を飲み込んだ黒霧はさらに濃くなり、祭壇のほとんどを覆っていた。ナイラとリネアは残されたわずかなスペースに追い詰められていた。
リネアの身体はあの圧力に耐えられない。黒霧そのものの発生源を破壊しなければ、二人を救うのは不可能だ。
ふと、叔父が黒霧が現れる前に地面に何かを刻んでいたことを思い出した。
十字剣で黄金の鉢を払いのけ、黒霧を退ける方法を探った。すると、五芒星を模したくぼみを見つけた。中には奇妙なヒエログリフが刻まれている。
星の先端は周囲の黒霧を吸い込み、模様の中心へと流し込んでいる。一方、中心部はより濃密な黒いガスを噴出し、小さな渦を形成して黒霧を拡散させていた。
この仕組みを鎮める方法はわからないが、難しく考える必要はなさそうだ。全身の体重を乗せて十字剣を模様の中心めがけて突き立てた。
刃が貫通すると同時に、黒霧の流れは停止した。ゆっくりと剣に絡みつき、しっかりと包み込んだ。
刃が完全に覆われた瞬間、白い光がほとばしり、柄から先端まで黒霧を引き裂いた――祭壇全体をまばゆく照らし出した。
白い光が薄れると、ナイラと俺は目を見開いた。
黒霧は跡形もなく消えていた。五芒星の模様は、液状のアスファルトのように濃く固まった黒い塊に変わっていた。
十字剣の表面も煤の層に覆われ、輝きを失っていた。
[まさか…今度こそ本当に終わったのか!?]
張り詰めた神経が緩んだ途端、俺の体は地面に崩れ落ち、荒い息をした。
緊張の間抑えていた痛みが、一気に神経を襲った。肋骨骨折、左脛骨損傷、脊椎神経挫傷、脾臓破裂、肺挫傷、腸捻転――全てが同時に俺を苛んだ。致命的ではないが、体は一時的に麻痺した。
ナイラがリネアを抱きかかえて近づき、そっと俺の隣に横たえた。
「動かないで。まず鎮痛剤を飲ませてあげる。」
彼女は乱れた俺の髪を整えると、錠剤を口に含んだその唇を俺の口元に近づけた。
[待って、やめて!]
ナイラを拒んでいるわけじゃない。以前にも二人では、いや三人でも(ナイラにしろリネアにしろ)キスしたことはある――だがそれは意識世界の中での話で、今のように瀕死の状態ではなかった。何より俺の口には血の鉄臭さが充満している。錆びた鉄の味のファーストキスなんて彼女に味わわせたくない。正直…情けなかった。
「動くなって言ったでしょ!」
舌先が歯の隙間を滑り込み、粘り気を帯びた彼女の唾液と混ざった錠剤を口腔内に押し込んだ。
今度は遊びじゃなかった。錠剤が溶け始めると、彼女はさっと距離を置いた。
「呼吸を整えて。力を抜いて。心拍を落ち着かせて」
突然のキスで心臓が激しく鼓動し、血圧が急上昇したせいか、傷口から鮮血が噴き出した。
頬が火照る。俺はただ押し黙った。ナイラは単に薬を飲ませてくれただけなのに、この胸騒ぎと赤面する感覚が渦巻いていた。
「…っ」
生唾を飲み込み、耳の先まで熱くなっているのを感じた。