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彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第一巻
7/87

第7章 意識の部屋

 俺とナイラは顔を見合わせ、リネアを不思議そうに見つめた。確かにこの夢は普通じゃないが、寝る前の記憶も鮮明だし、明らかに夢の中にいるはずなんだが。


「そんなに驚かなくてもいいわ。ゆっくり説明するから。その前に、やらなきゃいけない大事なことがあるわ」


 リネアが優雅に歩み寄ってきた。突然、甘い笑顔のまま俺の急所を強烈に蹴り上げた。


 想像を超える痛みにエビのように丸まり、額に冷や汗がにじむ。


「もう一度言っておくわよ。許可なく抱きついたりキスしたりするんじゃない!」


 リネアはこれが夢の続きだと思っていた。あの時キスしたのも「恥ずかしい夢」の延長で、しかも俺への好感から夢の中なら許されると思っていたらしい。


 だが現実と気付いた途端、恥じらいが怒りに変わったのだ。


「うっ…」ナイラでさえ、俺の悲痛な表情を見て目を背けた。


 生理学的な知識に長けたナイラはよくわかっていた。研究によれば、敏感部位への一瞬の痛みは出産の痛みすら凌ぐという。


「よし、これで夢じゃないってわかったでしょ」


 この痛みで一瞬にして現実だと確信した。歯を食いしばって痛みに耐える中、リネアは夢ではない根拠を説明し始めた。


「第一に、ここは継続的に発展し増殖している。第二に、全てが思考と同期している。例えば夢なら『跳ぼう』と思っても体が動かないものよ」


「第三に、認知と感覚が現実的。感情や感覚は自分を欺けないわ」


「これが夢の三原則よ!」


 ナイラと俺はハッとさせられた。夢の特性——断絶性・不協調性・認知の不確実性。今の体験は全てそれに反しており、現実である証拠だった。


 急に居心地が悪くなった。洞窟で眠ったはずが、いつの間ぞ見知らぬ空間にいたのだ。


「ハク、君が最初にここに来たんでしょ? 何があったか説明して」リネアが促す。


「脱出口のない温室にいて、三つの小部屋があるだけだ。ガラスを割ろうとしたが無理だった」


 リネアがガラスをコンコン叩くが、やはり変化なし。


「となると、まだ調べてないのはこの三つの部屋だけね」


 リネアが左端のドアを開けて入ると、突然扉が閉じ、俺とナイラは開けられなくなった。


「リネア! 大丈夫か!?」


「平気! 数分待って!」


 約3分後、無傷で出てきたリネアの左目に、未来的な機械の眼球が追加されていた。


「中で何が?」二人同時に尋ねた。


「ええ…自分で体験した方がいいわ。安心して、危険はないもの。自信を持って入りなさい」


「え、オーケー…」まだ混乱する二人。


 俺は中央のドアを開けて入室。しばらくしてナイラも右側のドアに入っていった。


 扉を跨いだ瞬間、その感覚は言葉に表せない。筆舌に尽くしがたい美しさの天国にいるような気分だ。


 内部は温室よりはるかに広く、真っ白なベッドが中央に鎮座している。本能が「ここに横たわれ」と囁くのを感じた。


 迷わずベッドに横たわった。久しぶりの安らぎに、気付く間もなく眠りに落ちる。謎の光が全身を包み込み、母胎のような温もりを感じた。


 夢の中では、かつて倒した雪虎と再会した。ライオン、鷲、梟など様々な動物も現れる。奇妙なことに恐怖はなく、彼らは近寄り――舐めたり、嘴でつついたり、体を擦り付けたり――最後は星の欠片のように俺の体に融合していった。


 次の瞬間、景色が一変する。賑やかな都心の真ん中に立っていた。先程までの美しさはないが、懐かしさが胸を締め付ける。


 目覚めると、部屋は俺の寝室そっくりに変化していた。細部まで完璧に再現されている。慌てて調べ回るが、貴重品は見当たらない。外に出ると、リネアとナイラが待っていた。


「変化は?」ナイラが訊く。

「説明できないや。君は?」

「言葉を超えてるわ」


「ハジメ、。

 君の顔!」ナイラが突然指差す。

「俺の顔どうした?」

 震える手で触れると、口元に猫のようなヒゲが六本生えていた

(まさか俺、雪虎になっちゃったのか?)胸騒ぎがする。

「リネア、他に変化は?」

「ヒゲだけよ」素っ気ない返事。


(よし。落ち着け、お前はまだ人間だ)安堵のため息。


「どうやら現実でも夢でもないわ。潜在意識の投影ってとこかしら」リネアが分析する。

「どうしてそう言える?」


「三人の記憶が共有されるはずなのに、ここでは不可能。つまり意識が脳から分離してるのよ」

「でも意識は脳活動に依存する。分離なんて科学的に矛盾してる」


 俺はまだ納得いかない。物質を離れた意識なんて現実離れしすぎている。

「要は魂が肉体から離れ、意識が創り出した想像世界を彷徨ってるってこと?」


 ユダヤ教の知識を持つナイラは核心を突く。

「その通り!」


「あり得ない! 非唯物論的すぎる。魂なんて…」

「預言書だって存在するわ。不可能はないの。それに魂の概念だって、議論の余地はあれど科学的根拠はある――唯物論と矛盾しない形で」


 ナイラは優雅に理路整然と反論する。

「わかったよ…」


 二人の女性には敵わないと悟った。



「核心は一つ:どう現実に戻るか?哲学論争は後だ」

「方法は単純よ。来た道を戻ればいい」


「また眠れってか?」疑いを含んだ声で俺が問う。

「理論上ね。現実とは異次元の夢。ここで夢を見れば『現実』で目覚めるの」リネアがまくし立てる形而上学論に頭がくらくらする。


「完全に形而上学の海を漂流してるな」

(形而上学:物理的現実の背後にある存在の本質を探る哲学分野)


 三人で冷たい床に横になった。強引に睡魔を呼び寄せ、まぶたを閉じると意識は暗黒の渦に吸い込まれた。


 むっとした洞窟で飛び起きた。胸が締め付けられるような感覚。自分のかけらが奪われたような恐怖が走る。


 視線がリネアに向く。硬直。

 彼女は静かに横たわっていたが、青い瞳が…どこか見覚えのある眼差しでこちらを見つめている。


(リ…ン?)震える心の声。

(ハク?)


「そ…れは…俺だ」リネアの唇を通して震える声が出る。彼女の目を通して見えるのは、青ざめた「自分」の横たわる姿。


 幻覚でないと確認するため、リネアの腕を赤痕が残るほどつねる。痛い。現実。


 俺はリネアになっていた。


お久しぶりです!今回の章はいかがでしたか?ちょっと意識が宇宙旅行しそうな展開ですが、たまにはこんな謎解き&哲学トークも楽しいでしょ?(笑)


実はここ数週間、大学の課題地獄に引きずり込まれてました…レポートと実験とバイトの三重奏に脳みそがグチャグチャ状態!リネアに急所蹴りされそうなスケジュールでしたわ…(皆さんも無理しすぎないようにね!)


次章からいよいよ異能力パートに突入!ハクとリネアの関係がどう変わるか、ナイラの意外な一面もチラ見えするかも?それではまた、脳内お花畑が銀河規模に広がる次回でお会いしましょう~♪


P.S. 温室でまったりするシーン書いてたら本物の植物欲しくなってきました…観葉植物デビューしようかしら?

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