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彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第二巻
63/94

第61章 またあの高僧と会う

 オレたちは中央の三叉路へと駆け出した。


 [おかしいな、なぜ追ってこないんだ?]追撃兵たちは分岐点で停止し、これ以上追う様子はなかった。


 [前方に生きとし生ける者が避けるべき、極めて怪しい何かがある]リネアは前方を見つめ、足を止めた。


 オレはサーマルイメージングで祭壇方向を確認できた。ある一点が赤く輝き、微かにまた強く明滅している――非常に奇妙だ。この現象の説明はただ一つ:あそこにいる何かが生死の境をさまよっているのだ。


 [入る?こんな怪しい場所に?]ナイラは本能的な嫌悪感から、その場へ足を踏み入れるのを渋った。


 [入る、当然だ]リネアは一瞬躊躇したが、強く言い切った。彼女たちは使命を帯びて来たのだ。怖気づいて退却するわけにはいかない。


 オレたち三人は祭壇へ向かって進み続けた。道中に他の障害はなく、すぐに祭壇の縁に到着した。祭壇そのものが異常な状態にあった――時には洞窟の岩壁環境に、時には荒涼たる砂漠の原野へと変容した。


 [相手はチャンネルを開いており、そのプロセスは臨界点に達している。ほぼ開通寸前だ]リネアはパラレルワールドに関する知識を総動員し、祭壇の状況を分析した。


 [違う。正確には通路は既に開通している。ただ通過が安全なほど安定していないだけだ]より注意深く観察した後、リネアは新たな結論を導いた。


 祭壇周辺には無数の遺体が転がっていた。時空の歪みで詳細は不明瞭だが、そこでいかに激しい戦闘が繰り広げられたか容易に想像できた。


 [オレたち、入るか?]オレたちの任務は叔父が魔界への道を開くのを阻止することだ。早ければ早いほど良い。


 [いや、まだ待て。少なくとも三勢力が祭壇にいる。軽率に入れば混乱に巻き込まれる]


 オレたちは介入前に各勢力の敵対関係を把握しなければならない。不確かな状況での戦いはリネアの信条に反する。計画もなく混沌とした戦闘に飛び込むことは彼女の絶対に避けるところだ。


「小娘、こんな機会を無駄にするな。お前たちがここでぐずぐずしてるのは時間の浪費だ」しわがれた声が突然オレたち背後から響いた。


 オレたち三人は驚愕した。リネアの直感は鋭く、ナイラとハジメの聴覚は微かな物音さえ捉えられるはずだ。しかしこの人物の接近を全く感知できなかったのだ。


「お前は誰だ!?」オレたちは同時に振り返り、かつてハジメとエレシュを縛ってゲームを仕掛けたあの「高僧(こうそう)」が立っているのを確認した。


「老僧が誰かは問題ではない。問題はお前たちが何者かだ」高僧は微笑みながら、衣の内から一冊の本を取り出した。特定のページを開くと、オレたちへ差し出した。


天道予奏(てんどうよそう)」。オレたち三人の背筋に冷たい戦慄が走った。この予言書は以前出会ったものとは違ったが、本質は同じだった。開かれたページにはここ数日オレたちが経験した出来事が記されていた。


「どういうつもりだ?」リネアが警戒して問い詰めると同時に、武器を「高僧」へ向けた。


 高僧は衣の内から狼の牙を取り出した——魔族特有の紋章だ。


「まずは老僧の話を聞け。そうすれば全て理解できよう」


 オレたちが反応する間もなく、彼は臭い靴下三足をオレたちの口に押し込み、縄で手足を縛り上げた。一瞬の出来事で、目すらその動きを追えなかった。


「作業」を終えると、靴下で塞がれたオレたちの悶え声を無視し、高僧は語り始めた。


 彼は百歳と自称するが、実は数千歳。正体は魔族将軍で、当時不可解に失踪した人物だった。


 変装の理由は真理教(しんりきょう)への潜入調査が発端。当初は教義を探る目的だったが、洗脳されて熱心な信者となってしまったのだ。


 真理教の庇護によりゲサル王の追跡を逃れた彼は、次第に教団中枢へ浸透。教義を深めるうち、予言書に記された「真実」を見出した。


 百年前に真理教から離脱し、予言の示唆に従い真実を探究し始める。


 真理教との決定的な差異——彼らが予言を暴力で強制するのに対し、高僧は「自然な流れに任せ、微かに導く」を信条としていた。


 [だったらなぜ縛るんだ!「自然に」任せておけよ!]

 彼の論理にオレたちは吐き気を催した。話し終えると高僧は異形の体内から昏睡状態のエレシュを取り出し、儀式的な動作で彼女の腹を撫でた。


「良し…孕んだな。これでわしの役目もほぼ終わりだ」満足げな笑みを浮かべると、エレシュの体から「見えざる結婚の紐」を引き抜いた。


 [子供だと!?ハジメ、クソ野郎!]

 エレシュの妊娠を知った瞬間、リネアの精神は崩壊。オレへ憎悪の波動が炸裂した。


 [リネア、落ち着け!俺の子だとは限らないだろ?向こうの20年で何があったか…]

 だがもし本当にオレがエレシュに手を出したのなら、責任は取らねばなるまい。問題は、オレ自身が何があったか全く覚えていないことだ。どう反応すれば?どう責任を?


「疑うな、小僧。その子はお前とこの娘の子だ」高僧が突然オレに接近。この対話は記憶空間で交わされていたのに、彼は三人の関係を承知の上で言い放った。


 脇にいたリネアが猛突進し、額でオレの鼻の根元を直撃した。[死ね、このクソ野郎ッ!]


 [オレだってどこから子供が湧いたか分からねーんだよ!]必死に叫ぶオレ。鼻血とリネアの涙が頰で混ざり合う。


 オレにも心当たりがない——二十年前の記憶が空白な以上、あの世界の出来事は今のオレと無関係だ。だが逃げられぬ:現実なら責任は取る義務がある。


 それにあの世界ではエレシュと十年以上夫婦だった。子供がいて不自然か?むしろいない方が不自然か?


「小娘よ、妬むな。すぐにお前も孕む。時間の問題だ」


 高僧は全く気に留めない様子だった。リネアの縄を緩めると、彼女は即座にオレの顔へ三連撃を叩き込んだ。前歯二本が再び脱落。記憶共有で痛覚も共有しないなら、彼女の攻撃は止まらなかったのだろう。


「とりあえずこれで十分。帰ったらじっくり“躾”してやる!」リネアは手の血糊を拭い、高僧を鋭く睨んだ。「お前の目的は何だ?こんなこと全部、単なる話のためじゃあるまい!」


「全てを経れば、それほど複雑ではない」高僧は不可解な言葉を口にした。「老僧の役目は終わった。語るべきことは語った。さあ、発つとしよう…」


 瞬時に彼はオレたちを掴み、祭壇へ飛び込んだ——エレシュはその腕にぶら下がるように抱えられている。箱を担ぐ異形の存在も素早く後を追った。


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