第60章 第二種元素
「ナイラ、この大きな箱の中身は一体何なんだ?なんでこいつら(エイリアン)はこれを食べるとこんなに巨大化するんだ?」俺は異常に巨大化したエイリアンを見つめながら訝しげに尋ねた。
「私もよくわからないわ。材質的にはこの黒水晶はただの石英の石に過ぎないのに、内包するエネルギーは想像を絶するものなのよ」
ナイラも困惑した様子だった。エイリアンの成長は本来、炭素系有機栄養を摂取することで進むはずだ。石を食べて進化するなんて、生物学の基本法則に明らかに反している。
「第二種元素」俺たちの会話を聞いて、リネアは任務ブリーフィングで見た第二種元素に関する報告書を思い出した。
「元素って水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム、ホウ素…あれだけじゃないのか?それらは物質を構成する基本元素だろ?第二種元素って何だ?」
元素周期表が俺の脳裏に鮮明に浮かんだ。突然出てきた「第二種元素」という概念に、俺の化学知識は揺らいだ。あの周期表を覚えるのに随分苦労したのを今でも覚えている。
「違うわ。この世界での物質分類方法は一つだけじゃない。原子核の電荷数による分類はその一つに過ぎないの。この世には特殊な性質を持つ物質が存在し、普通の元素種別だけで分類することはできないのよ」
リネアは幾つかの大型研究所のローカルネットワークをハッキングしていた。彼女は多くの最新科学概念を掌握しており、物質分類の詳細をより理解していた。
「第二種元素の報告書を見れば全てわかるわ」ナイラはリネアのリュックの紐を解き、あの神秘的な第二種元素報告書を取り出した。
「待て、むやみに開けるな!」任務ブリーフィングでは、報告書は緊急時以外開封禁止だと強調されていた。
「ふふっ、でももう開いちゃったわよ」ナイラは器用に最初のページをめくり、内容を俺たちの前に差し出した。
第二種元素報告書種別:
「物質は二つの基本特性を持つ。第一は既知の物理特性:重力、電磁相互作用、強い力、弱い力がその基本構成要素である。第二は超感覚特性と概括できる。
超感覚特性はあまりにも抽象的であるため、以下に事例を用いて説明する」
「超感覚特性も物質間相互作用の一形態である。基本原理:ある物質が変化する時、その影響は当該物質が存在する全空間に普遍的に適用され、時空間に束縛されない。最も単純な例:鏡の前で人が震えると、鏡は必ずその震えを映し出す」
「超感覚特性が単なる物質間相互作用なら、何が特別なんだ?」最初の段落を読んだ後も、俺の心はまだ動いていなかった。しかしリネアとナイラは非常に驚いた様子だった。
読み進めるうちに、俺は完全に呆然とした。
「全ての物質は生物の意識波動を記録し、無限に保存できる。同時に、物質内に記録された意識波動は他の生物に影響を与え得る」
「例えば、幼児や子供が屠殺人を見ると突然泣き出したり不安がったりするのは、その者が動物を屠殺した事実を物質(屠殺人の身体や衣服など)が記録しており、その波動が子供に伝わるためである」
「動物の恐怖と怨恨が屠殺人に付着し、周囲に深刻な干渉を生む。乳幼児は環境変化に最も敏感であるため、ストレス反応を示すのだ」
「人間が思考する時、その意識波動も環境に記録される。複数の類似した意識波動が遭遇すると互いに影響し合い、徐々に集合意識を形成し、最終的に全ての人々に影響を及ぼす」
「文献研究によれば、宗教史上で繰り返される奇跡はこの理論と深く関連している」
「物質ごとに記録能力は異なる。生物の意識波動記録に関しては、ポジティブ感情を捉えるのが得意な物質もあれば、ネガティブ感情に敏感な物質もある。ただし大半の物質は影響力が微弱で、生物に影響を与えるのは困難だ」
「強力な記録能力を持つ物質は現在二種類のみ。大部分はヴァチカン地下宮殿と華厳寺に保管され、残りは宗教的遺物として世界中に散らばっている」
「物質内に記録された意識波動は――何らかの方法で――一部の人間が直接利用可能なエネルギーへ変換される」
報告書には内容を裏付ける多数の実験結果が添付されていた。
(※注:簡単に説明すると第二種元素の本質は、人間・動物・環境の「ポジティブ/ネガティブ」感情変化を記録/保存できる物質である)
全ての神話と伝説には現実的基盤があったのだ。科学では説明不能だった人類史の謎にも、科学的根拠が存在する――ただ人類の探求が未だ及んでいないだけだと。
「この黒水晶こそ、人間の意識波動を記録する物質に違いない」
「エレシュがここから人間の負のエネルギーを直接吸収できた。つまり伯父はこれを使い悪魔界の扉を開けるつもりだ」分析しながらリネアの表情が険しくなった。
「じゃあこの黒水晶をどうする?」
「とりあえず持って行こう。別の道を探す。絶対に伯父一味の手に渡してはならない」
決断を下し、俺たち三人は三叉路へ向かった。ほぼ到着という時、暗闇の向こうから熱感知視界に三叉路で待機する集団が映った。明らかに伯父のグループではなかった。
[どうする?]
[連中、重火器を大量に抱えてる。突破は不可能よ]
[ならばいつもの手を使いましょ――エイリアンで強襲] ナイラが狡黠に微笑んだ。掌から小さな蛾が警備集団へと飛び立つ。
蛾は男の後頸部に着地し肉体と融合した。だが数秒後、周囲に設置された自動機関銃が一斉射撃を開始し、哀れな男を粉々に砕いた。
全員が最高警戒態勢! サーチライトが点灯し、鋭い眼光が四方八方をくまなく捜索する。
[ダメだ、この手は通じない。連中はエイリアン検知装置を持ってる!]
[別のエイリアンを送って火力を試させて] リネアが提案した。
「了解よ!」
ナイラが一匹のエイリアンを操り三叉路へ走らせた。だが隠れ家から現れた瞬間、敵の集中砲火で粉砕された。
[くそっ…このままじゃ突破不可能だ!]
[もう一度考え直そう]
圧倒的火力に阻まれ、俺たち三人は一時行き詰まった。敵は明らかに左側三叉路に俺たちが潜んでいることを察知している。奇襲も不可能だ。
[あっ、名案があるわ!] ナイラが突然閃いたように、狡知に光る表情を見せた。
彼女が操るエイリアンが彼女の横で静止する。その形態は制御下で変容を繰り返し、ついに…巨大なラッパのような警笛へと変貌した。
[超低周波砕波器、完成よ] ナイラがニヤリと笑い、その喇叭を三叉路の先端に向けた。
ナイラがゆっくり口を開く。超低周波衝撃波が巨大喇叭の先端小孔から放出された。目に見えない波動は洞窟内に閉じ込められ——外部に漏れず——敵を襲う際に破壊的なエネルギーを保持した。
ナイラが超低周波の振幅を増幅させ続ける。敵の耳、目、鼻、口角から流血が迸る。間もなく彼らは生命を失い、恐怖に歪んだ表情で凍りついた。
人的脅威は消滅。残された機関銃座はさほどの脅威ではない。エイリアン三匹を犠牲に破壊し、俺たちは三叉路を制圧した。
ナイラとリネアが地上の遺体を調べると奇妙な事実が発覚した:全員が同一の顔をしていた。説明は一つ——彼らはクローン体だった。
彼らの武器も未来的な様相を呈し、明らかに闇市製品ではない。壁に貼り付けられていた核爆弾も消えていた——敵が持ち去ったに違いない。
反応する間もなく、洞窟入口側から別の集団が高速で接近しているのが視認できた。ここの異変を察知した増援部隊だ。
[超低周波砕波器を再使用できるか?] 俺がナイラに問う。
[無理よ。ここは空間が広すぎて超低周波が集束できない。効果が激減するわ] ナイラが首を振る。
[中央分岐路へ!] リネアが即断し、俺たちを中央通路へ向かわせた。「行くわよ!」