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彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第二巻
59/94

第57章 世界の時間差

 計画通り、俺はリングの脇に身を潜め、ナイラがエレシュをリングへおびき出す。その間、リネアは既に機械のスロットで黒水晶を握る準備を整えていた。


 エレシュはナイラを追ってリングへ向かう。ナイラは自身を運ぶエイリアンを操り、リングへ飛び込ませた。俺はナイラが入る前にまず彼女を掴み、手前に引き戻した。しかし、エレシュがリングへ放り投げられた瞬間、彼女は俺をも巻き込んで捕らえた。


 最後の瞬間、ナイラは俺によって救われたが、俺はエレシュに引っ張られて反対側の世界へと落ちていった。リング中央の光のスクリーンは一瞬にして消え、エレシュと俺は共にあの世界に閉じ込められた。


[ハジメ、どこにいるの!?返事して!] ゲートの光のスクリーンが消えた時、リネア、ナイラ、そして俺の間の記憶共有が突然途切れた。


 ________

「リネア、早く再起動して!ハジメが出てきてないの!」ナイラがパニックに陥り叫んだ。


「私じゃない!機械のスロットにある黒水晶を動かしていない。向こうで扉が独りでに閉じたのだ」リネアはスロット内で微動だにしない黒水晶を見つめ、同じく困惑した様子だった。


「まさか…このゲートリング、もう開かないんじゃ…」ナイラは非常に動揺していた。子供の頃以来、これほどパニックを感じたことはなかった。


 今まで感じていた三人の記憶。彼女が人生の美しい一部だと思っていたものが、一瞬にして消え去った。この現実を突然受け入れるのは、彼女にとってあまりにも辛かった。


「慌てるな、方法を考える」リネアも今はパニック状態だった。ハジメのいない生活など想像もできなかった。


「…ん?待て。ハジメとの記憶共有は途切れてはいない。ただ…」


 リネアの心に共有された記憶は、大量の断片的な記憶の欠片だった。スーパーコンピュータ級の能力を持つリネアでさえ、一瞬圧倒され、それらの欠片を少しずつ繋ぎ合わせるしかなかった。


 ナイラは短時間にそれほどの記憶を保持できず、ハジメとの記憶共有が終わったのだと誤解してしまった。


「ただ何よ!?」


「反対側の世界の時間の流れが…同じではない。そしてハジメはあそこに…」


 激しい感情の波が記憶を通じてリネアの脳に押し寄せ、彼女は一瞬めまいを感じた。


「…あそこではもう一年が経過していて、多くのことが起きているの!」リネアは涙を浮かべてナイラを見つめた。その一年の間に、多くの悲しいことがハジメに降りかかっていたのだ。


 今ハジメがいる世界とリネアの世界では時間の速度が異なり、世界の波(波動)はいつでも変化しうる。長い歴史の中で、二つの世界の時間速度が一致するのは、ほんの一瞬の瞬間だけだ。


 その瞬間だけが、二つの世界をつなぐゲートが開くチャンスだ。そして時間の波動が同期している時だけが、ゲート回線を維持できる。


「一年?冗談でしょ!?」


「二つの世界の時間速度比率はますます開いている。たった十秒で、ハジメのいる場所では五年が過ぎた」


 今回リネアはもう耐えられなかった。苦しくも幸せな記憶に打ちのめされ、彼女は頭を抱えてうずくまり、涙が地面に落ちた。


「ハジメ…私たちを置いていかないで…」


 十年目、時間速度の比率は最大に達した。リネアはもはやハジメの記憶を完全には受け取れず、いくつかの重要な情報だけを拾い上げるしかなかった。


「あの二人は結婚して、今まさに結婚式場に向かっているの!」リネアは記憶の重みに押し潰されそうになり、涙声で言った。


 短時間に膨大な異なる感情体験を受け入れる者は、リネアほどの精神力の持ち主でも容易に崩壊してしまうのだ。


「何を言ってるのよ!」ナイラはリネアの思考内容に少し苛立ちを覚えた。


 十年目を過ぎると、速度比率は徐々に低下し始めた。ハジメの記憶はもはやリネアの脳神経を圧迫せず、その記憶は日常の生活や続く様々な甘い出来事に集中していた。リネアも適応し始め、ゲートが開くタイミングを計算し始めた。


 二十年目、時間の速度比率はほぼ同等になった。ついにゲートを再び開く時が来た。リネアは黒水晶を取り出し、起動の準備をした。


「ナイラ、エレシュを傷つけるな。さもなくば後悔することになるぞ」最後の瞬間、リネアは真剣な口調でナイラに警告した。


 ナイラはリネアの表情が一晩中変わり続けるのを理由もわからず見ていた。リネアの突然の発言はナイラに彼女が生意気だと感じさせた。敵を逃がす?ありえない。


「3…2…1!」リネアは黒水晶をカードスロットに押し込んだ。ゲートリングに光のスクリーンが再び現れた。二つの人影がその中から現れた――エレシュとハジメだった。


 ________________


 飛び出した瞬間、エレシュと俺は親密な姿勢でしっかりと抱き合っていた。俺は国防軍ヴェーアマハトの軍服を、エレシュは武装親衛隊(ヴァッフェンSS)の軍服を着ている。階級章の星の数を見れば、我々二人の地位が非常に高いのは明らかだった。


(※ヴェーアマハト:ナチス・ドイツの国防軍 1935-1945)

(※ヴァッフェンSS:欧州中で恐れられたナチスの精鋭部隊)


 突然、多くの記憶が消え去った。俺とエレシュ、そしてリネアは、直近の出来事を思い出せず、ましてやあの世界での二十年の記憶など思い出せなかった。


(※注:ハジメとエレシュの異世界での物語は、スピンオフ『第二次大戦の指揮官』で詳細に描かれる予定。本編の流れを乱すため、ここでは割愛する)


「なんだ?なんでこんな軍服を…?」俺は慌ててエレシュから離れ、自分の服を困惑した様子で見つめた。


 二体のエイリアンが駆け寄り、エレシュを地面に押さえつけた。なぜかエレシュの力は極度に弱まり、普通の人間とほとんど変わらなかった。


「ハジメ、何を見ているの?あの怪物たちを操る奴を殺して!」エレシュはまだ俺とナイラたちの関係を知らず、俺に助けを求めて窮地から脱出しようとしていた。


「すまない、エレシュ。実は俺は…」正直なところ、彼女を憎んではいなかった。むしろ少し好きですらあった。しかし、リネアたちとの関係を彼女にどう説明すればいいか、全く見当もつかなかった。


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