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彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第二巻
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第45章 予期せぬ裏切り

 翌朝早く、オレたちは不要な装備を置き去りにし、食料と測量用の地図作成道具だけを携えて山へ向かった。


 今やリネアは明らかに苦戦していた。洞窟内の空間は彼女の想像を超えていた。大小200以上の分岐路が洞窟内に広がり、一日探索しても成果は得られなかった。


 かつて崑崙山脈南麓の測量チーム責任者だった叔父は、この地域の地理に精通している。オレたちは移動中ほとんど障害に遭わず、急速に目的地に近づいていた。


 渓谷を通過中、叔父が突然手を挙げて全員に静止と地面への緊急伏せを指示した。


 ブーンという轟音が空気を震わせる。


「茂みに隠れろ!」叔父が突然叫んだ。


 問いかける間もなく、オレたち四人は即座に茂みに飛び込んだ。30秒もしないうちに、三機のヘリコプターが渓谷上空を通過し、土煙を舞い上げた。


[Mi-24が二機、Mi-26が一機] リネアがオレに情報を囁いた。[調達困難な軍用機だわ]

(Mi-24:ソ連製攻撃・輸送ヘリ)

(Mi-26:量産ヘリ史上最大最強の重量輸送ヘリ)


 ヘリの航路は明らかに目的地を定めている。望遠鏡で確認すると、彼らはオレたちから約10キロ離れた丘に着陸した。着陸後間もなく、大爆発の衝撃が襲った。数分の沈黙を経て、三機のヘリは針路を反転し、再びオレたちの頭上を通過していった。


「叔父さん、さっきのは何ですか?」オレは慌てたふりをして尋ねた。


 叔父がリョウさんに合図を送ると、彼は頷いて革のケースから三挺の小銃を取り出し、叔父と姉さんに配った。


「ハジメ、ここは危険だ。説明している暇はない。オレたちの一挙一動に従え。絶対に離れるな」


 そう言いながら、叔父はわざと銃口をオレの方へ向けた──『逃げたら撃つ』という明らかな警告だった。


「パパ、ひーちゃんを一旦帰したらどう?」姉さんは叔父の銃身を下げさせながら、オレにウインクした。


「ダメだ。任務完了まで下山は許さん」叔父は冷たく一喝した。


「でも──」


「『でも』は聞きたくない。今後、オレから30メートル以上離れた者は誰でも撃つ」叔父は姉さんを押しのけ、今や隠すことなくオレに狙いを定めた。


「ひーちゃん…叔父さんを責めないで。仕方なくそうしてるの」姉さんは動揺した声で囁いた。


「オレ、叔父さんを信じてるよ」オレは見せかけの笑みで頷いた。


[銃口を向けといて、信じろってか?]


 叔父はオレを威嚇していたが、抵抗すれば間違いなく撃つだろう。できれば衝突せずに済ませたかった。


「了解だ。ハジメ、ニイとリョウの後ろにつけ。リョウが先頭、ニイが二番、ハジメ三番、オレが最後尾だ」叔父が隊列を指示した。


 巧妙な戦略だ。彼が後ろにいることで全員を監視下に置き、逃亡しようとする者は即座に狙撃可能だ。さらに動きを制限するため、わざと追加の荷物二つをオレの背中に背負わせた──この状態で素早く走るのは不可能だった。


「ヒィちゃん、心配しないで」荷物を渡す時、姉さんが突然オレの頬にキスした。唇が耳元にかすれながら囁く。「左から三つ目の箱を確認して」


 叔父が氷のような視線をオレたちに向けたが、銃口は微動だにせずオレの胸を狙い続けている。


「荷物は厳重に管理しろ」リョウさんは短く言い残し、先導を再開した。


 不自然な隊列で、オレたちはヘリ着陸地点へ向け進んだ。


 山稜の曲がり角で──叔父が追いつく直前──オレは姉さんのリュックを一瞥した。左から三つ目の箱に、小型拳銃が仕込まれていた。


 5時間の歩行を経て、日没前にようやくヘリの着陸した丘に到着した。


 丘頂上には小規模な軍事拠点が静かに佇んでいた。十数体の傭兵の死体が通路に転がり、後頭部の銃創は集団処刑を示唆している。武器や装備は保管庫に封印されたまま──抵抗らしい痕跡はなかった。


 地形から見て、この拠点は偽装用に設計されていた。遠目には普通の岩壁にしか見えない。黒煙が立ち上っていなければ、発見は不可能だっただろう。


 内部の倉庫には山外へ通じる広い通路があり、三台の破壊されたミサイル車両が転がっていた。


 待って、これは!SA-6ゲインフル自走式防空システム!

(ソ連製地対空ミサイル。四輪車両に搭載され高い機動性を誇る)


 オレはこの残骸を知っていた。伝説的な対空ミサイルで、武装勢力のプロパガンダ映像によく登場する。どうやらリネアが遭遇したミサイルは、ここから発射されたらしい。


「司令部に連絡、状況を報告しろ。リョウ、外で衛星電話の電波を確認。ニイ、無線周波数をセットしろ」拠点の状況は叔父の予想を超えていた。


 敵の行動速度を甘く見ていたのだ。彼は次の作戦立案を始めた。リョウさんは衛星電話をリュックから取り出すと、電波を探しに外へ向かった。姉さんは無線機を降ろし、地面に設置し始める。


 リョウさんが十分に離れたと見るや、叔父がオレに近づいた。「ハジメ、今夜はここで野営だ。テントを張れ」


「はい、叔父さん」


 姉さんとオレが作業する間、叔父は監視者のように背後から鋭い視線を向けていた。


 安全保障の視点で見れば、この判断は明らかな愚策だ。敵の軍事拠点にはいつでも援軍が来る可能性がある。ここでの野営は、狼の巣で眠るウサギ同然だった。


 生存術のベテランである彼が、こんな初歩的なミスを犯すはずがない。可能性は一つ──彼はわざと問題を仕込んだのだ。


 だが姉さんとリョウさんは疑問もなく従い、リスクは雪だるま式に膨れ上がっていた。


 テントの骨組みを組み立てながら、オレは姉さんの鞄から拳銃を抜き取り、ジャケットの内側に隠した。


 テントから出た瞬間、殺気がこちらを射抜いた。チラリと叔父を見る──[違う!姉さんを狙ってる!] オレは姉さんへ飛び込んだ。


 叔父が姉さんの背中を狙い、指が引き金に掛かったまさにその時だ。


[止まれハジメ!無謀はやめろ!] リネアとナイラが脳内で叫んだ声は、恐慌でかすれていた。


[守ると誓った。死なせるわけにはいかない]


 体内のエネルギーを集中させ、オレは姉さんの体をかわすように飛び込んだ。同時に銃声が轟いた。


 バン!


 視界がゆっくりと白濁する。体がよろめき、胸に温かいものが広がる。瞼に血がたまり、網膜に染み入っていく。


[畜生…!]


[ハジメ!]

[ハ…ジメ!]


 振り返った姉さんの眼前に、叔父の銃口が向いていた。


「副…副所長…あなた…!?」姉さんは声を詰まらせ、最も信頼していた人物に銃を向けられた事実を受け入れられない。


 その時初めて、血溜まりに倒れるオレの姿が彼女の視界に入った。


「ひーちゃん…!起きて!こんなのやだ…!」


 オレの瞳は虚ろに浮かび、死体のようだった。弾丸は左肺──心臓の直撃を避けたものの──大きく抉れた傷を残している。


 姉さんは絶望で崩れ落ち、叔父を空白の表情で見つめた。


「なぜハジメを殺そうとしたか、知りたいか?」叔父は焦らず、姉さんの精神的崩壊を残酷に見届ける。


 姉さんは反射的にうなずく。


「違うな。アイツを殺そうとしたわけじゃない」冷たい声。「『お前』が標的だ。アイツがお前の盾になっただけさ」


「でも──」


「チッ。クソ…飼い犬の分際で役立つとはな」皮肉な嘲笑。「まあ、アイツの生死は計画に影響しないがな」


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