第42章 洞窟の状況
監視室を離れた三人は、部品が散乱する組立工場へ向かった。突然の襲撃で作業員たちは生産ラインを止める間もなく惨殺され、至る所に半完成の武器が累積していた。
リネアは機械の前で足を止め、目を見開いた。
「これ…3Dプリンター...?」
最新鋭の機種でも特定パーツしか製造できないというのに、ここにある装置は完成品の武器を量産している。正確な生産数は不明だが、崑崙山脈に幽霊のように現れる武装集団の正体がこれで判明した。『Uディスク』に武器パラメータを保存すれば、この機械で密かに非合法兵器を製造できるのだ。
洞窟最深部の豪華なオフィスでは、高級傭兵たちの死体が札束を握りしめたまま転がっていた。リネアはデスクのコンピューターをハッキングし、数千件の契約書を解析する。
「命より報酬が大事だったのね」
リネアは無造作に契約書を開き、条項を速読した。
二年前、謎の雇い主に崑崙山脈の警備を委託された傭兵たち。秘密保持条項により任務内容の漏洩は契約解除=死を意味する。年俸5000万ドル(前金1000万ドル)の二年契約。任務中に死亡した場合は遺族に全額支払われるという条件に、彼らは簡単に100万ドルを手に入れる夢に酔った。前金を受け取って逃亡しようとした者もいたが、すぐに消された。
拠点到着後、傭兵全員に1億ドル入りの銀行カードが支給され、疑念は霧散した。一年以上もの間、この警備任務は無リスクに近かった。雇い主は時折彼らを秘密パーティーに招待さえした。
【哀れに思うわ。最後まで忠実に働いてたのに】
【あと三日で任務終了なのに...】
【12歳で傭兵を始めた私の貯金は1000万ドル。金の価値も知らぬ愚か者】
リネアはため息をつき、死体が握る銀行カードを見下ろした。素早い手つきで硬直した指を折り、カードを奪い取る。
【リネア、遺品を奪うのは非道だ】優しいハジメの声が脳裏に響く。
【ハジメ!私を倫理観のない犯罪者だと?】リネアのツンデレ気質が爆発した。
【そうじゃないが...】
【馬鹿ね!資金源を追跡するための行為よ!】
銀行口座から資金流れを追跡する合理的手段を、ハジメは死者略奪と誤解した。リネアはもう議論する気も失せ、深いため息をついた。
【……呆れたわ】
ナイラが銀行カードを鞄にしまう手が震え、数枚を床に落としてしまう。彼女の顔が一瞬青ざめた。
「あっ……!」
赤面しながら不器用に拾おうとするナイラの背後で、ハジメとリネアの視線が火柱のように燃え上がった。
【ナイラ……!】
二人の怒りがテレパシーで直撃する。無言の圧力がナイラの背筋を凍らせる。
「待って、説明できる――」
リネアとハジメの非難の念が洪水のように押し寄せ、数分間に渡る罵倒の嵐に耐えかねたナイラは遂に全てのカードを元の場所に戻した。肩を落とす彼女の姿に、ツインテールは無言でコンピューターに接続。諜報データの転送を開始した。
探索再開から五キロ進んだ先には、冷戦時代の戦闘機や錆びた戦車が無数に並ぶ兵器庫が広がっていた。腐食した装甲車の隙間を抜ける三人の足音が、洞窟に不気味な反響を起こす。
「1950年代のソ連製戦車……冷戦時代の兵器か」
リネアが眉をひそめる。謎の組織がこれほどの兵器庫を築いた経緯が計り知れない。
隧道の突き当たりに現れたのは火山岩で形成された三叉路だった。ツインテールが壁に掌を当て、青い瞳が高速点滅しながら地質分析を開始する。
「遅いわね!正面トンネルが正解よ」
リネアが舌打ちした。AIの解析完了を待たずに結論を出した彼女は、意識内で人工知能を嘲笑う。
「推奨経路:中央隧道」
ようやくツインテールが平板な声で告げる。
「所詮機械は人間の代用品に過ぎないわ」
高笑いするリネアが真っ先に暗闇へ踏み込む。背後でナイラの小指が光る蛾へと変形し、岩肌に張り付いて偵察を開始した。三人のシルエットが闇に溶け込む直前、蛾の複眼が微かに輝いた。
今回の話はちょっと短めになっちゃいました、すみません!
リアルの方が少し忙しくなってきたので、次の更新はいつもよりちょっと遅れるかもしれません。
それでも、物語はちゃんと続いていきますので、のんびりお付き合いいただければ嬉しいです!
次回もよろしくお願いしますね!(´︶`)ノ