第40章 ブルーレイIII型II式ツインテール
熾烈な戦闘が繰り広げられる中、一方のナイラとツインテールは高所から状況を監視していた。
異常者チームが事前に暴露した敵防空システムのデータにより、ナイラの輸送機は防衛ラインを滑らかに突破し、ついに任務区域に到達していた。
スカベンジャーチームの輸送機は夜明け前から謎の洞窟上空で静止していた。
「おい、ツインテール!なぜ降りて支援しないんだ?」
ナイラはリネアの視界を通じて戦場の両側を照らした。仲間の安否への焦りが、彼女にツインテールを急かさせる。
「データ上、スノータイガ一号は危機的状況に非ず。介入不要」
ツインテールは単調に応答した。
「ではいつ降下する?空中浮遊は任務解決戦略とは言えんが」
この対話でナイラはツインテールのプログラム化された論理パターンを看破した:システム制限ではなく、資源効率と任務優先度の計算が支援拒否の原因だと。効率性を覆さねば介入は叶わぬと。
「地上敵部隊殲滅まで待機」
「この任務にタイムリミットは?」
「確認」
[やった…これで自爆任務を解除できるチャンス!] ナイラは戦術的な微笑みを心に隠した。
「時間超過したら?」論理の罠が仕掛けられる。
「任務失敗と認定」
「カウントダウンは開始済み?」
「プロセス起動済み」
「貴方のデータ分析モジュールにアクセスできる?」
「アクセス許可。データ分析モジュール起動。パラメータ入力待機」
ツインテールの瞳が輝き、計算用ホログラムインタフェースが出現した。
「下面戦場のリアルタイムデータを取得」
「データ収集完了。シミュレーション段階へ移行」
「外部介入シナリオを活性化し、シミュレーション結果を比較」
「外部変数入力」
「機雷処理要員27号とブルーレイIII型II式を変数として使用」
「比較分析結果を表示しろ」ナイラが迫る。
「戦場データ処理中。ロード時間要する」
「5分遅れた介入では救助活動の猶予が1分しかないわ」
「時間遅延が任務成功率へ与える影響を分析」
「計算プロセス:1、2…」
「エラー:優先順位衝突。弾薬効率と作戦時間、主要パラメータの再設定が必要」
ナイラの多重論理操作により、ツインテールはアルゴリズムのパラドックスに陥った。システムから脱出するには手動オーバーライドが必要――ナイラにとって絶好の隙だ。
「作戦時間を最優先パラメータに設定」ナイラの唇に薄笑いが浮かぶ。硬直したプログラムを欺くのは簡単すぎる。
「優先順位更新。システム再起動中」
「再計算…」
ツインテールのAIは人間との相互作用で適応論理を発展させるよう設計されていた。しかしプログラマーが新旧論理の衝突を想定していなかったため、システムは予測不能なグリッチを発生させた。
開発者はこの弱点を認識しながらも、唯一の解決策として近接オペレーターに手動優先順位オーバーライド権限を与えていた。結局このAI技術はまだプロトタイプ段階:新規論理生成は可能でも、人間介入なしでは矛盾を解決できない。
ツインテールのコアプログラミングには『弾薬効率=任務成功の』という単一パラメータしか存在しなかった。
ナイラが作戦時間を追加パラメータとして強制挿入したことで論理衝突が発生。ツインテールは二つの異なるシナリオを並列計算し、今やナイラの承認待ち状態に陥っている。
「機雷処理要員27号、スノータイガー一号への緊急支援を即時実行せよ」パラメータオーバーライド後、ツインテールの声質が変化した。
「待ってたわ!次は?」
ツインテールの右こめかみの青いランプが点滅。金属製の卵型ポッド二機が機体から分離した。
「緊急降下ポッドへ移乗」
「なぜ直接着陸しないの?」ナイラが眉を寄せる。戦場降下ではなく、この死のカプセルを使うとは。
「作戦時間優先パラメータにより、自由落下ポッドは従来着陸より37.2秒短縮。成功率15%上昇」
ナイラは唇を噛んだ。逆効果だ。冷静な様子とは裏腹に、高所恐怖症と狭いポッドでの自由落下への恐怖で冷や汗が流れる。
「地雷処理27号、緊急ポッドへ10秒内に移乗。発射プロトコル作動開始」
[ナイラさん…まさか高所恐怖症?]突然ハジメの通信が神経接続に侵入し、ナイラの頬が青白くなり、その後赤く染まった。
[黙れ、ハジメ!] 歯を食いしばって念話を遮る。
「さあ…やるだけよ…リネアのために」震えながら、普段は計算高く冷酷なナイラが着陸カプセルに這うように入る。その顔は予防注射に直面する子供のように皺くれていた。
10秒後、「リリースプロトコル作動」
二機の金属製カプセルが機体から弾き出され、流星のように急降下する。
ナイラは手の平で口を押さえ、喉まで込み上げる吐き気を必死に抑えた。カプセルが地面に激突した瞬間、息が詰まる――無傷だが、膝がゼリーのように震えている。
下では戦闘が一瞬停止した。民兵たちとリネアが、大地を貫いた二つの『巨卵』から舞い上がる土煙と亀裂を茫然と見つめていた。
[礼は言うが…やり過ぎだ]リネアは苦言を呈したが、皮肉の裏に安堵の色が滲む。実際のところ、自分一人で敵を殲滅できると確信していたのだ。
敵が反応するより早く、ツインテールがポッドハッチを開放。砂塵の中から現れたロボットアーム搭載のガトリング砲が、民兵めがけて弾幕を浴びせた。
バリバリバリ!耳をつんざく銃声。反撃しようとする敵の弾丸は、ツインテールのエネルギーシールドに阻まれ、当たる度に青い閃光を放って跳ね返る。
「殲滅効率:98.7%。残存目標:2体」ツインテールが機械的に移動し、逃亡を図る二人の民兵の頭部を正確に狙い撃つ。ババン!両者同時に倒れる。
リネアは言葉を失い、目を見開いた。ベテラン兵とはいえ、この無機質な殺戮――雑草を刈る芝刈り機のような光景は初めてだ。
「スノータイガー一号、負傷状況を報告せよ」ツインテールが砲身から湯気の立つガトリング砲を携え近づいてくる。
「うん…大丈夫…」リネアは喉を詰まらせ、無意識に後ずさる。その瞳に映るのは、無貌の処刑人と重なるツインテールの姿だった。