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彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第一巻
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第4章 雪山の三人

「……お前を殺せば、全て終わるのか?」

 リネアの思考が突然俺の脳裏をよぎった。


「待て!予言では俺たちは一つになるはずだ!今ここで俺を殺せば、バタフライ効果を引き起こすぞ!」


 リネアの殺気を察知し、俺は生存戦略を高速で分析しながら必死に抗弁する。


 しかしリネアはこちらの言葉を無視。ブーツからダガーを抜くと、前のめりに体を乗り出し、その刃を俺の喉元へ振り下ろした。


 死を覚悟して目を閉じた瞬間、彼女の足元に小石が落ち、突きが寸前で軌道を外れる。


「落ち着け,お前は俺を傷つけられない」

 俺は平静を装って呟く。


 現実を受け入れられないリネアは次にダガーを心臓目がけて突き刺そうとするが、天井から落下した岩が頭部を直撃。武器を手放すと同時に、記憶共有の影響か俺の頭もズキズキと激しく疼いた。


「クソ!やめろ!洞窟が崩れる!」


 激しい地震が洞窟を襲う。俺はリネアの腕を掴んで引き寄せ、ぐったりしているナイラの体を引きずる。崩落する岩の間を、意識不明のリネアを担ぎながら必死で出口へ向かう。


 脱出途中、リネアが幾度か反撃を試みるが、転んだりくしゃみしたり岩に当たったりで全て失敗。最終的に再び頭に岩が直撃し、完全に気を失った。


 重たい体を運ぶのは厄介だったが、暴れられない分かえって楽だ。こうして三人は辛うじて洞窟の外へ辿り着いた。


 足が外の地面に触れた瞬間、祭壇も通路も跡形もなく崩壊。静寂の雪山に広がるのは、ただ雪原だけだった。


 新たな問題が発生した。前の水没でびしょ濡れの服が、極寒の気温の中で凍りつき、急速に体温を奪っていく。「服を脱げ!」俺はナイラに叫んだ。


「危険だとわかっているのに、ナイラは女の子としての自尊心から、俺の前で服を脱ぐのをためらっていた。俺は素早く上着を脱ぎ、硬直した彼女を見つめた。


「恥じてる場合か! 自尊心より命が大事だろ!?」


 記憶共有のおかげで、彼女の思考は筒抜けだ。リネアはまだ意識がない。俺は彼女の服を脱がせ始めた。


 リネアの裸身は確かに魅惑的だった。17歳の彼女の美貌は天女のようだった。普段なら見とれるところだが、生存本能が他の思考を押し潰していた。


 今はただ一つ、どうやってここから脱出するか?


「すまない……許せ」


 リネアを強く抱きしめたのは、裸の体を利用するためではなく、体温の低下を防ぐためだ。「早く脱げ! ここで死にたいのか!?」


 ナイラは数秒躊躇った後、ようやく服を脱ぎ始めた。


 俺はすぐに彼女を抱き寄せ、リネアと密着させながら両腕で防護壁を作った。科学者としての自尊心が俺の行動を許させたが、共有記憶を通じた憎悪が鋭く突き刺さってくる。


 俺は苦笑いを浮かべた。本当に、こんな状況は望んでいない。リネアを背負い、ナイラに横から支えさせる。


 幸い高度は極端ではなかった。雪線が数百メートル下に見える。30分持ちこたえれば、生き延びられるかもしれない。凍った服も持ち出した——氷のように硬いが、断熱層になる。


 三人は激しく震えていた。容赦ない山風が肌を切り裂く。ナイラはついに俺に抱きつくように近寄ってきた。「動き続けろ! じっとしてたら凍死する」俺は呟いた。


 ナイラは虚ろに頷く。最も危険なのはリネア——体が冷たく硬直しつつある。雪原で止まることは死を意味する。運動で生まれる体温が唯一の命綱だ。


 リネアの体から冷気が伝わってくる。このままでは数分で凍死だ。起こす必要がある——だが強烈な刺激が必要だ。


 ふと閃いた——共有記憶を通じれば、こちらの痛みも伝達できる。


 リネアのダガーがまだ手元にある。迷わず自分の尻を刺した。なぜ太ももでないか? そこには太い血管があるからだ。致命傷になるリスクを避けたまでさ。面倒だが安全策だ。


「ぐああっ!!」三人同時に悲鳴を上げた。リネアが目を見開いて跳ね起きた。


 混乱した表情で周囲を見渡す彼女だが、共有記憶が流れ込むと、静かに頷いて下山を手伝い始める。


 [感謝はする]彼女の念話は平坦で、感謝というより義務的な響きだ。


 [生存優先だ。意識を保て――絶対に眠るな!]俺は警告を送った。


 テレパシーで励まし合いながら、三人は雪山を降り始めた。誰かが反応しなくなると、残り二人が容赦なく揺さぶる。


 15分後、体が完全凍結する直前に雪線を越えた。だが危機は去っていない。


 雪はなくなったが、青海・チベット高原の気温は依然致命的だ。低体温症で死ぬまで1~2時間。この僻地で救助の望みはほぼゼロ。


 [こんな不毛の地で無駄死には御免だ]リネアの念が意識を蹴飛ばす。


 [リネア…私と付き合って?生き延びたら結婚しよう!]ナイラが唐突に提案。俺は唾を呑むのを誤魔化した。


 [私の性癖は普通よ!]リネアが即座に反論。


 [デスフラグ立てるな!]俺が噛みつく。[俺と付き合う約束だったろ?]

 [してない!]


 [記憶は嘘つかない]

 [地獄に落ちろ]


 苦い冗談が一瞬緊張を解いた。だがその影で、死の影は依然我々の踵を噛んでいた。


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