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彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第二巻
39/94

第37章 これが射撃というものよ

 POV: リネア

 意識を失うと同時に、共有意識空間へ放り込まれた。そこではハジメが椅子に腰かけ、くつろいだ姿勢で待ち構えていた。


「ハジメ、何を考えてるの?今は時間がないんだから…こんなチャンスを逃がすわけにはいかないのよ!」私は苛立った口調で詰め寄る。


 ハジメは黙ったまま。俯き加減で立ち上がり、ゆっくりと近づいてくる。


「ハジメ…?」


 警告もなく、彼の手が私の頬を掴む。次の瞬間、唇が突然襲いかかってきた。抗う間もなく、深いキスに固まる。


『ハジメ…!何するのよ…!あっ!力を分与してる?でもこのキス…』


 普段なら触れた者など即座に叩きのめすところだが、ハジメとなると…どうも抵抗できない。むしろ、心地良いとすら感じている自分がいる。


 数秒後、彼はゆっくりと手を離し、一歩下がる。微妙な緊張感が漂い、いつもなら烈火のごとく抗議する私の言葉が、喉元で石化したように出てこない。


『何か言わなきゃ…』


 私が口を開く前に、ハジメは踵を返してこの空間から消えた。ただ、彼の耳朶がかすかに赤らんでいたのは見逃さなかった。


 気付けば、悪戯っぽい笑みが唇に浮かびかける。パン!と頬を叩いて正気を取り戻す。


「集中。任務を完了しなきゃ」


 なぜだか、あの出来事の後は心拍が落ち着いている。失敗などあり得ないかのような確信が漲る。まだ熱を残す唇に触れながら、自然と笑みがこぼれるのを感じつつ現実世界に戻ると、時間はほんの数秒しか経っていなかった。


 間もなく、異常者戦闘チームが到着。仙人のような老人が洞窟から現れ、数十人の戦闘員が彼らの武装を解除し中へ連行する。


 完璧。最大の脅威は無力化した——しばらくは邪魔されない。


 朝日が昇り、テロリストの潜伏する山肌を照らす。突然の朝陽に敵の目がくらむ一瞬。


 敵の機関銃陣地は巧みに偽装され、黒い銃口だけが覗いている。だが私にとって問題ではない。


 弾丸の重量、風速、弾道への重力影響、自身の呼吸リズム、そして敵狙撃手の息遣いまですべて計算。ハジメの進化の力で視覚を鋭敏化し、脳内に完璧な射撃経路を描く。


「さあ、狩りの時間だ」


 一発目の銃撃が炸裂する。間髪入れず次の弾丸を装填、照準を合わせ、再び引き金を引く。バン"! バン"! バン"!バン"! バン"! 6発の弾丸が6秒で放たれた。

 

 一方十秒前

 敵陣営では、無造作に周囲を見回していた機関銃手が、遠く6時方向の丘の隙間からかすかに光るものに気づき硬直した。反射的に安全装置を外し、銃口をその方向へ向ける。


 何年もの戦闘経験が、彼に「そんな距離からの射撃は不可能」と思わせた――どのスナイパーライフルの有効射程も超えている。


『望遠鏡の反射か? 囮作戦か?』

 理屈では正しい。しかしリネアの位置は最大射程の限界点――常識外れの領域にあった。機関銃手は3秒間息を止めたが…何も起こらない。


「気のせいか。緊張しすぎたな」安堵の息を吐き、体を預け直す。


 その瞬間! 彼の銃が激しく振動した。左目が突然暗転し、地面に叩きつけられる。何が起きたか理解する間もなく意識が霧散した。


 1秒前に遡れば――超高速の弾丸が銃身を貫き安定装置を破壊し、左目に跳ね返っていたのだ。


 残る5つの機関銃陣地も同様に無力化された。仲間の異変を確認しに来た パトロール隊員は、連続する銃声に凍りつく。悪夢から引き剥がされたような表情だ。


「襲撃だ―――!!」

「熱感知器を起動しろ!」


 ベテランリーダーは即座に熱源を捕捉し、リネアの位置を特定した。


「クソッ! 向こうの丘の斜面を急襲せよ!」


 この距離では反撃不能。唯一の方法は有効射程圏内に突入すること――だが移動中は無防備になる。


 百人以上の戦闘員が3人組の扇状隊形を組み、リネア目掛けて突進する。


『動く的が近づいてくるわね』

 私は一瞥するだけで無視した。真の脅威はRT-20。4000メートルでは弾は届かないが、射撃手が無謀にも長距離射撃を試みたら…


 案の定。RT-20の射手は自己の射撃記録を更新すべく、3000メートルから今回は4000メートルでリネアを仕留めようと躍起になっていた。


 敵スナイパーが銃を構えるのを見て、私の心に慌ては一切なかった――むしろ嗤いが込み上げてくる。狙撃手にとって長距離射撃は単に照準を合わせるだけではない。撃つ「タイミング」が命綱なのだ。


 風が弾道を変える中、気流が安定した瞬間を捉える能力が生死を分ける。だがそんな法則は――凡人にしか通用しない。風速を弾道の放物線計算に組み込めるこの私には無縁の話だ。


『風向きと速度…あと10秒で最安定ポイントに達するわね』

『でも待たない』

 指が既に引き金に力を込めている。


 バン!


 双眼鏡越しに敵スナイパーが嗤う。「間違ったタイミング」で撃った私を嘲笑っている。「青二歳が」と唇が動く。「本物の狙撃を教えてやる」


 正確に10秒後、彼が引き金に指をかけた瞬間――銃声ではなく爆発音が轟いた。RT-20の銃身が爆砕し、破片が彼の胸部を貫通する。


「銃…故障か…!?」

 断末魔の叫びと共に息絶える。彼は知る由もない――私の弾丸が意図的に銃口を塞いだことを。狭い銃身内に閉じ込められた火薬は、RT-20の大口径ゆえの爆発的膨張を起こし…


『これが射撃ってものよ。ハ!』

 勝ち誇った笑みが零れるのを感じつつ、包囲網を縮める戦闘員集団へ視線を転じる。


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