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彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第二巻
37/94

第35章 続報任務

【はっ…?】

 手紙にはこう記されていた。


『11世紀、魔界が人間界への扉を開いた。13匹の強大な魔獣が軍勢を率いて人類を襲撃し、一時は世の秩序が崩壊。人間の大半が奴隷と化した。


 魔獣どもは人間の負の感情をエネルギー源とし、虐殺と拷問で力を増大させていった。


 人間の英雄・ゲサル王は反旗を翻し、12魔獣を倒して狼の牙12本に封印。魔界との通路も断ち切った。しかし1匹だけ狡猾な魔獣が人間に化け、人間界へ逃亡。現在も行方は謎に包まれている』


 文末には『12本の狼の牙を同封』との但し書き。


【そんなバカな…】過去のリネアならこの話を童話と一笑に付しただろう。だが今、ラスト・ディフェンス・ラインの任務資料として提示された以上、神話の再検証を迫られている。


【くそ!】唇を噛むリネア。三人は精神結合で記憶を共有していた。

【そうね、この狼の歯】ハジメが先日倒した魔物から得た牙を取り出すリネア。任務書の図面と見比べる。

【完全一致!】三人同時に息を飲む。遺物の実在が証明された今、伝説の真実性は疑いようもない。


 ページを捲ると「上記内容は未検証の参考情報」の但し書き。

 リネア、ハジメ、ナイラ。【......】


 資料末尾には洞窟の詳細座標と構造図。

「スノータイガー1号、指示に従い洞窟内部の実態調査を実施せよ。極秘任務のため外部接触禁止。スカベンジャーチーム遭遇時は彼らの指示に従うこと」


 注記:「作戦中に敵の潜入を確認した場合は、他チームメンバーとの接触を避けること」


 これを読んだリネアは、なぜ新参者に重大任務を任せるのか訝しんだ。だが逆に、経歴が真っ白な彼らこそスパイの可能性が低いと判断されたのかも知れない。


 文書の最後に「第二種要素研究報告書―必要なしに開封するな」との封書。


【曖昧な指示!この野郎!】リネアが歯軋り。「必要」の判断基準を誰が決めるのか、その曖昧さが気に入らない。問題が起きなければ良いが、万一の場合は任務発令者の全責任――彼女の美学はそう告げていた。


 その頃

 リネアたちの降下とほぼ同時刻、スカベンジャーチーム集合地点に未来型輸送機が着陸。その機体が『X-Men』のミュータント用輸送機に酷似しているのが威圧感の理由か。


 スカウトレンジャーチーム同様、スカベンジャーチームも全面防護服に巨大なガスマスクで頭部を覆っていた。


 二つ結びの少女が降り立つ。

【これ...まさかアンドロイド?!】

 生物学の権威ナイラですら、本物の人間との差異を当初見抜けなかった事実に愕然とする。


 その少女は大理石像のような完璧な顔立ちをしていたが、瞳に光の反射がない――アンドロイド特有の欠陥だ。


 整列した隊員の前で首を機械的に左右に振り、人差し指を不自然に直角に折り曲げてナイラを指す。

「機雷処理要員27号、他チームの撤収待機を解除し準備せよ」


 周囲の隊員たちが安堵の息を吐き、先ほど到着したジープに乗り込んで本部へ撤退していく。去り際、一人がナイラの肩を叩く――かすかな哀悼の意を示して。


 スカベンジャーチームの任務は常に理不尽だ。隊員には作戦直前に概要が伝えられるだけで、真の目的は秘匿される。ベテラン隊員の経験則によれば、参加人数が多ければ生存率は上がり、単独任務ならば…


『デスロット』当選確定。頑張って生き残れ。


 不幸にも初任務のナイラはこの不文律を知らない。


 モナリザの微笑みを思わせる常に冷静なナイラが、今や思考の歯車が狂い始めていた。


 隊員が全員撤退すると、アンドロイド少女は核兵器入り金属箱を開梱。機械的な動作でバスケットボール大の小型核弾頭を取り出し、制御パネルに起動コードを打ち込む。


 カチリ。

 強制的にナイラのリュックに押し込まれる核弾頭。

【このクソ野郎ッ!!】

 罵声は脳内に響くも、この狂気を表現する比喩が見つからない。


 不承不承アンドロイドに飛行機へ押し込まれ、鉄製座席に拘束されるナイラ。無人輸送機のエンジンが唸る。対面に座るアンドロイド少女は瞬きもせず、感情のない瞳で凝視してくる。


「任務内容を説明してください」震える声。大量破壊兵器を背負った状態では、過呼吸寸前――人生最大の恐慌状態だ。

「核弾頭の起爆」マニュアルを読むような平坦な返答。



 唾を飲むナイラ。「場所は? タイミングは? 詳細な指示は?」

「アクセス拒否。権限外情報です」


「ならば…あなたの名前は?」最後の理性を絞った質問。

「ブルーレイⅢ型Ⅱ式ツインテール」


「Ⅰ型は…?」不吉な予感に目を細めるナイラ。

「核爆発で破損」


 ナイラが凍り付く。機内の空気ごと時間が止まったように感じた。


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