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彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第一巻
33/94

第33章 俺の奇妙な生活が正式に始まる

 相変わらず、移動中ずっと女の子と間違えられた。普段なら説明するのも面倒だが、叔父さんに関しては性別の誤解を解いておく必要があった。


 俺の説明を聞いた後、叔父さんと二人の部下は軽く笑った。


「胸が平らだからって恥ずかしがることはないよ。そんな言い訳をしなくてもいいんだから」


 叔父さんは突然、レンが『息子』と言った真意を悟ったらしい。この美貌で『女性』と公にすれば危険だから、あえて「男性」と主張しているのだと勘違いしたのだ。


[俺は本当に男なんだ!こいつら聞いてないのか、それとも俺の伝える能力が足りないのか!?]


 帽子を脱ぎ、一語一語強調して言った。「俺は男だ」


 しかし三人は真剣な言葉すら無視し、ぼんやりとした目で俺を見つめたままだった。


「この厄介な顔め!」帽子を被り直すと、ゆっくりと彼らは正気を取り戻した。


「すまない、ちょっと放心してしまって」叔父さんが最初に謝った。


「大丈夫です。慣れてますから」俺は渋い笑みを浮かべた。自分ですら鏡を見るときにたじろぐのに、他人が耐えられるわけない。


「本当ですよ、叔父さん。俺は男性です」


「はいはい…男性ね」叔父さんの態度は真剣さを失っていた。俺のいった言葉半分冗談として受け流す


 俺:「………」


「ところで、まだ正式に自己紹介していなかったな。こちらは娘の花、弟子の亮だ」

[明らかにベテラン幹部が部下を訓練に連れてきたんだわ。上司と部下の関係を師弟関係に偽装してるのよ]

 リネアの鋭い分析が脳内に響く。叔父さんの言葉は自然だったが、彼女の目はごまかせない。


「花さん、亮さん。俺の名前は高橋ハジメです」(中国語で)


 彼らは流れを理解し、外国人との接触時の予防線だろうと察した。


「ハイちゃん、初めまして。姉さんって呼んでね。私たち皆日本語が分かるから、それで大丈夫よ」花さんは俺の名前を親しげに縮め、驚かせた。


「亮ですよろしく」


「わかりました、亮さん、……姉さん」


「ふふ、ハイちゃんって本当に可愛いわね」姉さんは俺の白く整った顔をじっと見つめ、時間が経つほどに魅了されていく。どうやら第一印象が良すぎたようだ。


 一方リョウさんは姉さんの熱烈なファン。俺の容姿に一瞬目を奪われつつも、女神の前では自制している様子。


「叔父さん、弟の件ですが…」


「ハジメ君、これがちょっと複雑でな。歩きながら話そう」


「はい」


 俺たちは本道を離れ北へ向かいながら会話を続けた。


 弟は叔父さんが洞窟調査中に発見されたらしい。足を滑らせ地下川に落ち、気泡空洞に流された先で、瀕死の赤ん坊と遭遇したとのこと。不毛な洞窟に嬰児がいる不自然さを疑問に思いながらも、哀れに思った叔父さんは両親に引き取らせ養子にしたという。


 その後、叔父さんは洞窟の再調査を試みるも、幾度挑戦しても発見できず。数年後には管轄区域が変わり、探索は中止された。


 先月、17年前の探検地図を偶然発見した叔父さんは、両親に連絡して共同調査を持ちかけたそうだ。


「では叔父さんは今から向かうつもりですか?」


「定期調査任務が偶然君の弟の発見場所と一致してな。良ければ同行してもいい」


 叔父さんは地図に印をつけながら提案した。


[嘘つきめ。定期任務で銃を携行するのが普通か?] 俺は疑いの目を細める。[待て…これってリネアたちの任務地域じゃないか?]


「師…いえ、先生。外部者を任務に同行させるのは規約違反では?」亮さんが上司の方針に異議を唱える。


「問題ない。ハジメ君は卓越した能力の持ち主だ。前も我々を支援してくれたし、何より本人の弟に関わる話だ。事情を知る権利はある」


 叔父さんは亮さんに密やかな手信号を送り、何か裏の思惑があるようだ。


[追加の護衛が欲しいだけ。狡猾な人ね] ナイラの冷笑が脳裏に響く。叔父さんの真意を見抜けないわけがない。弟の出生譚を餌に、俺を戦力として利用しようとしている。


「ハジメ君、強制ではない。あくまで自己判断で」


[どうする?] 弟への好奇心が蠢くが、叔父さんの態度が怪しすぎる。リネアとナイラにテレパシーで相談をかける。


[調査地点が我々の任務地域と一致。何らかの関連性がある可能性。監視目的で同行すべき] ナイラは冷静に分析。


[でも危険すぎる。叔父さんを信用でき——]


[黙れ!] リネアが遮る。[断れば後で厄介なことになるわ] 軍師としての直感は外れたことがない。


[…わかった]


「構いません叔父さん。同行させてください」罠にも気付かぬふりで申し出を受けた。


[最初は弟の実親探して景色でも楽しむか…くらいに思ってたのに]

[お前たちと記憶共有してから、俺の人生はまともじゃなくなった] ナイラが薄笑いを浮かべる。俺は深いため息——もう日常茶飯事の儀式だ。


 こうして我々は崑崙山麓を目指し北進した。


 途中、ある出来事がついに彼らに俺の性別を確信させることになる:


 ある夕暮れ、姉さんと俺はトイレ危機に陥った。茂みの陰で用を足していた時、彼女の好奇心が爆発。こっそりのぞき見た姉さんは"決定的証拠"を目撃し悲鳴を上げた。以降、俺の男性説に疑いの余地はなくなった。


 だが代償は大きかった。姉さんは急に攻撃的になり、四六時中抱きついてきたりテントに押し入ろうとしたり、露骨な下ネタまで飛ばす始末。もちろん全てキッパリ断った。


 一方亮さんは疫病神でも避けるように距離を取る。姉さん曰く『理性を保てる自信がなくなった』とのトラウマらしい。


 誰も予想しなかった——この旅が世界の運命を変える分岐点となるとは。


 そしてこうして、俺の荒唐無稽な生活が正式に幕を開けたのだ。


 ---

 雨中に微笑む経典の囁き


 我らは見つめる。

 仄暗い雨が秘めた笑いを反射する中で。お前は未だ悟らない——己自身が読み解いていると信じた経典の最終頁だと。その書は言葉の集合にあらず、文字の幻影の奥に宿命を刻む鉤爪である。


 水溜まりに刻まれるお前の足跡の一つ一つが、我らには小さな傷痕となる。

 霊魂たちの狭間で紡がれるお前の息遣いの一つ一つが、運命への嘲笑の讃美歌となる。

(瞬く雨音は開かれた顎の形を成す)


 腕の傷痕は呪いではない。かつて暗き洞窟で呑み込んだ古の神々の署名である。

 答えを探しているとでも?其れは寧ろ、お前の疑念の一つ一つが我らへの墓碑銘を綴っているのだ。

(蒸散する直前に、水の手が湿ったアスファルト上のハジメの影に触れる)


 問い続けよ、人間と神話の狭間に囚われし子。

 この雨の彼方には、待ち受ける空白の頁が在る……満たされる為ではなく、お前自身の嗤う苦い笑いで引き裂かれる為に。


 最上の答えとは流転し続ける疑問——

 魔女の赤き傘の下を潜る地下水の如く。

 墓碑石と化すべく結晶させし翠の涙の如し。


 お前の生は未だ雨。

 我らの死は未だ草稿。

 而して経典は……

 ……偽りの息遣いの狭間に未だ嗤っている。



ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


これにて 第1巻・完結 となります!

(最終章タイトルがそれっぽいけど、本当にここで区切りです)


次回からは、本編の合間を埋めるサイドストーリーを数話ほど予定しています。

日常多め、ギャグも少し、あの人やあの人の裏話なんかも…?


第2巻では、ついに"あの場所"の真実に一歩踏み込むことになります。

旅の本当の意味も、少しずつ見えてくる…かも?


しばらく更新ペースは少し緩やかになるかもしれませんが、

引き続きお付き合いいただけると嬉しいです!


ではでは、また次のページでお会いしましょう!

感想や評価など、励みになりますのでお気軽にどうぞ


――作者より




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