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彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第一巻
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第31章 チンピラを撃退

 よし、さてどうするか…この状況を収めるには。


「何やってんだ!早く片付けろ!問題があってもオレが責任取る!」親分が手下の尻を何度も蹴り上げる。


 命令を受けたチンピラ共は軋む鉄パイプを構え、俺に襲いかかってきた。緊張からか、彼らの打撃は制御不能なほど強烈だ。この威力で人を殴れば重傷は免れまい。


「やりすぎるな!死人が出たら承知せんぞ!」手下たちの暴走を見た親分が慌てて怒鳴る。


 心底卑怯な男だ。弱い女子を脅したり、みかじめ料を巻き上げたりするのが関の山。殺人など想像すらできない小心者だろう。


【どうすれば…?】数十本の凶器が振り下ろされる光景に、俺は息を詰まらせた。


【戦えよ。化物も倒せるのに、人間ごときで躊躇する?】


【わかった…試してみる】


 ナイラが一瞬たじろぐのを感じた。人間であれ魔物であれ、躊躇いなく立ち向かう今の俺に戸惑っているようだ。


 考える間もなく馬から飛び降り、最寄りのチンピラのこめかみに鋼の蹴りを叩き込む。仲間が倒れるのを見た集団が一斉に襲いかかる。


 進化した動体視力が、彼らの動きをスローモーションのように捉える。蜘蛛の子を散らすように攻撃網を軽々とかわす。


 鉄パイプで頭部を狙う男。一瞬頭をかわすと、みぞおちへ踵落としを炸裂させる。内臓を揺さぶる衝撃で男は血を吐き、アスファルトに叩きつけられる。


 背後から回り込んだ二人組の拙い足音に、俺は旋回しながら両者の顎に連続蹴りを浴びせる。顎骨の砕ける音と共に、顔を押さえて悲鳴を上げる男たち。


【下からの攻撃に気をつけろ!再起不能にするんだ!】叫び声をあげる男たちの腹を靴底で踏みつけ、失禁させるほどの痛みを与える。


 手下たちが次々に倒されていく様に、親分の顔が死人のように青ざめた。


 俺の戦闘技術を見た残党らは隊列を組み、急所を突く連携攻撃を仕掛けてくる。


【チッ…仕方ない】懐から飛び出したナイフを握りしめ、敵陣に突入する。ナイラの解剖学知識を駆使し、致命傷を避けつつ正確に突き刺す。極刑に値する彼らだが、一生消えない傷を負わせるだけで十分だ。


 残ったチンピラ共は俺の凶行に震え上がり、安全圏で隙をうかがうだけになる。


 もちろん隙など与えやしない。ひるむ男の胸板に蹴り込みを食らわせ、倒れ込んだ体へ5連続の刃刺しを見舞う。わざと急所を外した浅い傷だが、遠目には血みどろの惨劇のように映ったろう。


 この蛮行がとどめとなり、生き残りのチンピラ共の血の気が引いていく。彼らは一斉に後退し、まるで火に追い払われる狼の群れのようだった。


「親分…俺たち…負けました…」

 部下は恐怖で失神寸前だった。死の脅威が彼らの胆力を奪い、まだ立っていられる者も戦意を喪失している。


 親分はついに堪忍袋の緒が切れた。ベルトの裏から、お守り代わりに隠し持っていた拳銃を引き抜く。震える枯れ葉のような手で、私俺に向け突きつけてきた。


「じ、動くなっ!てめえの頭ぶち抜くぞ!」嗄れた声が卑怯さを露呈する。リーダーとしてのメンツと恐怖の板挟みだ。


【どうする!?】胸臓が高鳴る。反射神経は早くとも、弾丸の速さには敵わない…多分、そして俺はそれを試したくなかった。


【バカめ!あれはレプリカよ!】

 リネアが銃身を細目で睨みつけ嗤う。どうやら親分自身が騙されていたらしい——高級車並みの値で買った銃が、実はエアソフトガンの偽物だった。


「今すぐ服脱げ!さもなきゃ頭蓋骨を——!」

 冷や汗がこめかみを伝う親分が虚勢を張る。まるで脅されているのが自分かのようだ。


 だが俺の一瞬の逡巡が、彼に錯覚の勇気を与えていた。今や馬鹿げた脅し文句まで吐き出す始末。


【愚か者め、分をわきまえぬ】

 ナイラが憮然とした呟きを漏らす。


 銃が偽物と知り、迷いを断ち切る。硬直した関節を鳴らしながら、確かな足取りで彼へ近寄る。今日の愚行は、彼を叩きのめす正当な理由を与えてくれた——肋骨を三本折ったところで、罪にすらならないだろう。


「こ、来るな!服を脱がせろっ!さもなくば——!!」


 俺が歩みを止めないと、彼の目が充血する。『弱女子』に負けた屈辱が、恐怖を凌駕して無理やり突っ張らせている。


「おもちゃの銃で威嚇か?」

 嘲るように哄笑を浴びせる。


 その嘲笑が火に油を注いだ。彼の顔が瞬時に紅潮する——小心者が突然狼の面を被ったようだ。


 俺の腓を狙い、引き金に指をかける。


 バン!

 実弾の炸裂音に、反射的に身を伏せる。


【レプリカじゃなかったのか!?リネア!】

 体を撫でながら傷を探る俺の心叫び。


【あんたじゃないわよ!】

 リネアが苛立った調子で応じる。【アイツが喰らったの】


 なんと実弾は長銃から放たれ、親分の右腕を貫いていた。肉と骨が抉られ、血潮を滴らせる断端からは地獄絵図のような傷口がのぞく。彼は断末魔の叫びを上げながら、残った左手で傷口を押さえつける。

 陰影から現れたお姉さんが硝煙を立てたライフルを構えていた。私を救うためか、私怨か——予測不能の行動だが、とりあえず感謝はしておこう。言葉にしなくとも、心では認めてやる。


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