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彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第一巻
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第28章 シカとの別れ

「ハジメ様、どうか私を追い出さないでください。シカに何か間違いがあったら、必ず直しますから……お願いです、ここから離れさせないで……」


「シカ、よく聞け。これはお前が必要ないからじゃない。より安全な場所に移動させるだけだ。全てが終わったら、必ず迎えに行く」


「いいえ、ここがいい。ハジメ様と離れたくありません……」シカはまだ頑なに腕を離さない。今ここで手を放せば、俺が永遠に消えてしまうとでも思っているようだ。


「シカ! 言うことを聞け! 今すぐ手を離さないと、本気で怒るぞ!」


「嫌です……離れたくない……」


「もう、説得は無駄か。ならば強硬手段だ」俺はシカの手を引き、彼女を「お姫様抱っこ」で抱き上げ、屋上へ向かうエレベーターへ歩き出した。


「ハジメ様、やめて……」シカの嗚咽が俺の胸に響く。まるで俺が彼女を捨てるつもりだと信じ込んでいるようだった。


「……まだ疑っているのか? お前ほど価値のある存在を、簡単に手放すはずがないだろう」


 彼女の悲痛な声に、一瞬胸が締め付けられた。こんなに可愛い子を泣かせるなんて、慣れないものだ。


「本当……ですか?」シカは唇を噛み、俺のジャケットの裾をそっと握りしめた。涙に濡れた顔がますます愛らしく見える。


「証明しただろう? 神の使いである俺が嘘をつくと思うか」無意識のうちに、俺は彼女の額に軽く唇を触れさせ、小さな慰めを与えた。


「んっ……!」シカの体が一瞬硬直し、その後は大人しく俺の腕に身を任せた。次第に彼女の感情も落ち着いていく。


 数分後、ホテルの屋上に到着する。すでに百合子という名の少女が待ち構えていた。


 遠目にも、黒いレザージャケットにタイトなパンツ姿の百合子は、サングラスで顔の半分を隠し、ヘリコプターの傍らに寄りかかっている。


 ナイラの記憶によれば、百合子は日本最大の闇組織『山根組』組長の長女。跡取り娘ながら、姉御肌で世話焼きな性格らしく、彼女たち『姉妹ハーレム』の理想的な姉分的存在だという。


 距離が数メートルになると、百合子がこちらの方へ振り返った。一瞬シカの全身を見渡した後、俺へと視線を固定する。サングラスを外し、驚きと疑いの混じった表情で俺を眺めた。


「ハジメ……とシカ?」百合子はスマホを取り出し、ナイラから送られてきた写真と見比べる。


「ああ、そうだ。百合子さんだろう?」


「でも……君本当にハジメ? 写真と別人みたいだけど」彼女の視線は俺の全身を測るように揺らがない。


「変わってないぞ。ナイラの写真の角度が悪かっただけだ」


 仕方なく嘘をつく。この世界の常識では、俺の容姿が明らかに浮きすぎている。


【ハジメ、その言い訳ひどいわ! 私の写真の腕はプロ級なのに!】ナイラの苛立った心の声が響く。


【悪い、ナイラ。他に思いつかなかった】


「まさか写真より魅力的な方がいるなんて……ハジメさん、お会いできて光栄です」


「そして訂正させてくれ――俺は男だ」誤解を放置すれば「女扱い」が確定する。これだけは避けねばならん。


「え……マジで?!」百合子の目が皿になる。サングラスが再びずり落ち、髪の先から靴まで何度も視線が往復する。疑心と驚嘆が混ざった表情が痛いほど伝わってくる。

「信じられなくても構わない。一応の事実確認だ」


「あっ! 失礼いたしました!」深呼吸してから、彼女は改めて礼儀正しく頭を下げた。「山根百合子です。改めて、よろしくお願いします」


「ああ、こちらこそ」


 身元確認を終えると、百合子は丁寧にお辞儀を返す。俺も同じく頭を下げるが、ほぼ触れそうな距離での礼儀交わしに、頬が微妙に熱くなるのを感じた。


「ナイラ・リリーシスターズへようこそ」ユリコはシカの薬指にプラチナのダイヤリングをはめ、意味ありげにキスを落とした。


「な、リリー……シスターズ?」シカは純粋な目で首を傾げる。


「特別な女の子たちが支え合うコミュニティよ。今日からあんたも家族の一員」ユリコの笑顔が満月のように広がる。


「でも……これ……」シカは困惑した様子で俺を見る。


「大丈夫。百合子姉さんは優しい人だ」背中をそっと叩いてやる。


「ハジメ様が信じるなら、シカも信じます」硬くなっていた肩の力が少し抜けた。


「しばらく彼女と一緒に暮らすんだ。いい子にするんだぞ?」乱れた彼女の前髪をかきあげる。


「はい、ハジメ様。シカ、従います」弱々しく頷くシカ。別れを惜しむ表情を浮かべつつも、もはや反論はしない。


「シカを預ける」視線を百合子へ移す。


「ご安心を。ナイラさんから詳細は聞いてます。彼女を傷つける隙など作らせません」百合子の言葉に熱がこもる。


「感謝する」


「ナイラさんの信頼の方へ。これが私たちの名刺です。『リリーシスターズ』はいつでもあなたに開かれています」ユリコは黄金のユリのロゴ入りカードを差し出しながら、わざとらしく手の甲を撫でるように滑らせた。


「……そしてこれは、私のVIPクラブハウスのアクセスカード」去り際に黒いカードを握らせ、含み笑みを添える。


「ハハ……」引きつった笑みを必死に堪える俺。


【まさか……姉妹への裏切り行為だわ!】

 これまで『姉妹ハーレム』の要として頼りにしていた『長姉』が、まさかの奇襲を仕掛けてくるとは――それも男性に対して。ナイラの表情が一瞬曇る。


「そろそろ出発よ」百合子は涼しい顔で手を振り、ヘリコプターの操縦席へと乗り込んだ。エンジンの轟音が屋上の静寂を引き裂く。


「ハジメ様……必ず迎えに来てくださいね!」シカは俺のシャツの襟をぎゅっと握り、名残惜しそうに抱擁を解こうとしない。


「約束する」小指を絡めて誓うと、彼女はようやく重い足取りで機内へと歩み入った。


 窓越しに、小さな手がヘリコプターが水平線の点になるまでずっと振り続けていた。


「ふう……」安堵の息を吐く。シカの件は一段落だ。さて、次は俺自身の使命に集中するとしよう。



 〈注記:ナイラ・リリーシスターズ〉

 ・ナイラと複数のエリート女性が『互助コミュニティ』として発足させたが、次第にナイラの私的ハーレム化

 ・メンバー間の絆は強固で、各々の家系のネットワークにより広範な影響力を持つ

 ・会長であるナイラは新規加入の拒否権を保有

 ・正式加入には全員の承認が必要だが、シカの場合はナイラが特権を行使して手続きを省略


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