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彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第一巻
27/94

第27章 俺たちの想い

[チッ、口では否定してるくせに、心は正直なのね。気づかないうちに心決めてたじゃない] ナイラが茶目っ気たっぷりにからかってきたが、胸の奥では失望の波が渦巻いていた。


 リネアは黙ったまま。小さな顔を真っ赤に染めながら、ゆっくりと現実を受け入れるように頷く。


[リン、俺は...] 俺の言葉が途中で止まった。どう続ければいいのかわからなかった。


 たぶん俺はリネアが好きだ。彼女も俺の気持ちに応えてくれている。理屈で考えれば、この境界線を越える勇気さえあれば、二人の関係は恋人へと発展するはずだった。


 だが、本音を伝えようとするたび、ナイラへの未練が邪魔をする。リネアを選べば、ナイラとの可能性を閉ざすことになる。


 もう一つの問題——リネアの思考パターンが俺と酷似していたこと。俺を想いながらも、彼女の中にナイラへの曖昧な感情が存在しているのだ。


 さらに複雑なのはナイラの思考回路だ。彼女は二人とも好きながら決断できず、むしろ無関心を装って騒ぎを起こすことで、自分自身の迷いを楽しんでいるように見えた。


 というより、ナイラは単に俺の女性的な顔貌に夢中なだけかもしれない。


「二人とも選んだらどうだろう?」この狂った考えが三人の脳裏をかすめたが、すぐに否定した。世間がこんな概念を受け入れるはずがない。


 まったく面倒なことだ。もし記憶を共有しているのが二人きりだったら... 俺は深くため息をついた。


 異なる二人の記憶が各々の意識に流れ込んでくる。彼らの存在感はますます強まり、もはや抑えきれないほどだった。


 その影響か、三人の間の吸引力は加速度を増している。このままでは本当に恋に落ちるのも時間の問題だ。


 二人だけなら完璧な関係が築けるかもしれない。だが三人となると、これは複雑な感情の蜘蛛の巣になる。


 今のところ絆はまだ浅い。自制可能な範囲だ。


 しかし深くなりすぎたら? 予言通り文字通り『融合』してしまうかもしれない。


 そんな思考に囚われている最中、ナイラがメッセージを受け取った。シカを迎えに来るという連絡だ。


「ハジメ、シカを屋上まで連れて行って。ユリコのヘリが数分で到着するわ」


「了解」


 そっとシカを起こすと、眠そうだった瞳がゆっくり開いたかと思うと、突然獲物を見つめたような貪欲な輝きに変わる——幻の美味を見た時のような目付きだ。


「ハジメ様...」 肩を掴んだ手に力が込められ、俺はベッドに押し倒されそうになる。


「シカ、落ち着け!」 宥めるように声をかけると、彼女は徐々に正気を取り戻した。


「申し訳ありません... ハジメ様が... あまりに魅惑的で... 理性が保てなくて」 頬を朱に染めながら、恥ずかしそうに俯く。


[俺の顔に何か異常でも?] 確かに今の俺は男らしさと女らしさを併せ持つ顔だが、昨日と変わりはない。人が理性を失うような要素などあるはずがない。


 シカの反応に違和感を覚える。確かに俺の外見は並外れているが、ここまで強い反応を引き起こす要素はないはずだ。


 確認するため、部屋の鏡で顔を見ることにした。


 しかし鏡の前に立った瞬間、これが今日最悪の判断だったかもしれないと悟った。


 鏡に映った完璧すぎる姿に、俺は釘付けになった。肉体の奥から湧き上がる激しい衝動を抑えるのに、全身の意志力を振り絞らなければならない。


 時が経つにつれ、この変化は加速している。危険な域に達した美しさが、今や周囲を脅かすほどの輝きを放っていた。


 もはや顔の男性性と女性性の境界は完全に消失している。短髪でなければ、完全に少女と見紛うだろう。実際、髪は知らぬ間に伸び始め、柔らかな曲線を描きつつあった。


 震える手で鏡から視線をそらす。息遣いが荒くなっているのが自分でもわかる。


[ハジメ、今後は鏡を禁止よ!] ナイラが半笑いで宣言したが、その声には本気の焦りが混じっていた。[普通の女性の顔が霞んで見えるじゃない!]


[男のくせにここまで美しくて...] リネアが俯きながら呟く。耳朶まで真っ赤に染まった二人が、明らかに俺の新たな容貌に動揺している。


[いったいどうなってるんだ?なんで俺がますます...] 俺自身もこの異常な変貌に戸惑いを隠せない。


[進化の影響よ。] リネアが髪の先をいじりながら説明する。[周囲の人口密度に適応して外見が最適化されてるの。シカの村は数百人規模だったけど、ナトラシティは数万人。遺伝子が吸引力を最大化するように調整されてるってわけ。]


 つまり北京や東京のような大都市に行けば...


 リネアの笑みが突然苦くなる。[ええ、あなたの美貌は指数関数的に上昇するわ。] この『天然整形』能力への嫉妬が声の端に滲んでいた。


[ハク、後で話があるわ。] ナイラが細目になり、頭の中で悪巧みが始まっているのが伝わる。二人とも明らかに、この能力を美容に転用する算段をしている。


[おい、俺の能力を整形に使うなんて考えるなよ!] 背筋が寒くなるのを感じながら強く抗議する。[それに二人とも十分すぎるほど美しいだろ?これ以上何が必要なんだ?]


 男からすれば理解しがたい執着だ。彼女たちならどんな美人コンテストでも優勝余裕なのに。


[ハジメには一生わからないわ!] ナイラが歯を見せて笑う。[女性は誰だって美を追求するのよ。]


[とにかく、後でじっくり話し合いましょう。] リネアが意味ありげな視線を投げかける。[まずはシカを屋上に。ユリコが待ってるわ。]


[わかった。]


「シカ、ついて来い」小さな手を握ると、俺たちは屋上へ向かって部屋を出た。


「ハジメ様、どこへ行かれるのですか?」


「シカ、重要な用件があって… しばらくの間だけ——」


 俺が言い終える前に、シカが俺の体を強く抱き締めた。肩が嗚咽で震えている。


「お追い出ししないで! シカ、もっと頑張りますから! 一人にしないでください!」


「落ち着け。安全になったらすぐ——」


「イヤです! ここにいたいの!」 根を張ったように制服の裾を握る手が、これが最後の別れになるという恐怖から離そうとしない。


[はあ…] 深いため息が零れた。最近の俺は、嘆息することが日常茶飯事になっているようだ。


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