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彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第一巻
25/94

第25章 特殊作戦サービス(2)

「……とりあえず言葉は信じるとして、核心的な問題だ」王玉が顎を上げながら俺を鋭い視線で射貫く。「君の仲間二人が現在、地上から姿を消したも同然だ。どうやって君の言葉の真実性を証明する?」


 ふむ、この質問から察するに……どうやら最初に尋問した連中とは別の部署かグループのようだな。


「俺だって今の彼女たちの居場所は知らないぞ?君たちの組織すら追跡できないものを、牢獄のこことを往復する俺にどうやってわかれ?」


【確かに嘘は混じってるが、現在地の正確な座標を知らないのは事実だ】


「なら最後に会った場所を教えろ」找が再び詰め寄る。


「悪いが、NDAを結んだばかりだ。これ以上の情報は出せない」


 勝ち誇った笑みと共にそう告げる。確かにライネアとナイラの存在を漏らさぬよう、秘密保持契約が交わされていた。


 二人の尋問官は手詰まりの様子。国家機密の壁に阻まれ、思うように核心に迫れないもどかしさが滲む。


「お嬢さん、そのNDAの書類を見せてくれるかな?我々にも低レベル機密ならアクセス権が――」


「お嬢さん?俺のプロファイルも読まずに尋問するとはね」俺は找 の言葉を遮り、舌打ちする。「『特殊』作戦部隊のくせに、ただの看板じゃないか」


「何だって?」找の眉間に怒りの皺が寄る。


「找先輩……彼、男性です」王玉が耳打ちすると、找 の耳が真っ赤に染まった。


「はァ!? でも……」途端に顔面から血の気が引き、幽霊でも見たような表情に。


「疑うなら身体検査でもすれば?今すぐでも構わないが」相変わらずの余裕笑みを崩さない。もはや找 のメンツはズタズタだ。


「……結構だ!法的権限があるなら協力的に対応する」


 事前に準備されていた軍の秘密保持契約書(法執行機関による情報漏洩を防ぐための布石)を找に突き出す。


 表紙を開いた瞬間、找の顔色が変わる。震える手で書類を閉じ、顔を背けた。


「……撤退する」渋い声で王玉を呼びつける。


「でも手がかりがようやく……なぜ引き下がるのです?」王玉の声には不満が滲む。


 彼ら連日徹夜で調査を続けてき。今朝ようやく公共安全システムが「列車事故の失踪者3名が特別管轄区で確認」との情報を得て、チームを二手に分けて追跡。国境検問所から軍に確保されたとの報を受け、苦労して軍部の許可を得た矢先だった。


 找の焦りも分かるが、王玉はまだ諦めきれない様子。


「命令だ。即刻撤退!」找は机を叩きながら怒鳴った。


 王玉は不機嫌な顔で上司の後を追う。「一体何があったんです?」


「『五芒星の黒い封印』だ」找が呟いたコードネームに、王玉は凍りついた。


 黒い封印の形状は機密レベルで異なる。五芒星は国家最高機密を意味し――いかなる組織の階層をも超越する絶対の壁だった。


 この部署に配属された初日、找は先輩から厳命されていた。「五芒星の封印を見たら即時撤退」。噂では、あの印章が捺された文書は数時間で戦闘部隊を動員できる権限を持つらしい。


 找は昨年起きた事件を思い出す。300人の護衛に守られた外国人容疑者が、黒い封印を見せた私服の男に「引き渡し」されたあと、痕跡すら消えたという記録。誰も抗えなかった。


 この黒い封印の効力は中国の特殊機関のみならず、世界中のどの国の治安組織にも通用する。調査中止はもちろん、場合によっては他機関の作戦に協力すら要される。


「では上層部に報告して事件をクローズしますか?」王玉が唇を噛む、歯痒さがにじむ。


「報告はする。だが調査は…密かに続ける」找が腕を組んで指を叩く。「あの男、明らかに何かを隠している。正面突破が無理なら側面から揺さぶる」


 部屋で数分待たされた後、中尉とシカが壁にもたれかかるハジメの元へ向かう。


「ハジメ様、ご無事で…!」シカが俺の胸に飛び込み、顔を押し付けるように抱きつく。


 役所仕事の疲れが、少女の無邪気さで一瞬で癒される。


「使者たる俺が簡単に斃れるか」小さな頭を撫でながら苦笑する。


「コホン」中尉がわざとらしく咳払い。


「シカ、人前だ」ゆっくりと抱擁を解きながら背中をポンポン叩く。


「失礼いたしました。列車事故に関し、ナトラホテルに宿泊手配を。しばらく休養いただければ」中尉が形式ばって頷く。「旅行費用は一ヶ月分を補填します。疲れておられるなら、今夜は当基地の宿舎もご利用いただけますが」


「軍宿は結構。今夜中に街へ向かう。明日の予定が詰まっている」中尉が眉をひそめるのを横目に言い放つ。「列車の件は不可抗力として、水に流そう」


「ご寛大に感謝します。公用車を手配いたします」中尉の耳が赤らむ。軍と『特別賓客』のトラブルを丸く収めたことが、彼のキャリアにプラスになるのは明らかだ。


「ところで、俺の仲間たちは?」安堵を隠しながら質問を挟む。完璧な芝居を続けなければ。


「申し訳ありませんが、それは私の権限を超えております」中尉がため息。「ただ、厳重に保護されていることは保証します」


 彼の仕草に、核心情報へのアクセス権がない下っ端であることが透けて見える。


「了解。協力感謝する」相手の理性を狂わす必殺の微笑みを炸裂させる。


 中尉が喉を詰まらせる。ほんの一瞬、頬を染めて放心状態になった隙に、人差し指で彼の唇を押さえつける。


「ハジメ様、電話番号を教えていただーー」中尉の震える手がスマホに伸びる。


「中尉、善意は嬉しいが」シカの手を強く握りしめながら、「性別が同じだし」、そして胸に手を当て、「ここは既に埋まってる」


 足音高く部屋を出る。背後で中尉が黒い封印の書類を握りしめたまま硬直しているのが感じられる。


【いつからこんな性格に?】リネアの声が意識に滑り込む。嫌悪と…感嘆?が混じった震え。【以前は詐欺師というより実験用マウスだったくせに】


【変化じゃない。一時的適応さ】恥ずかしさを押し殺しつつ返す。【君たちの記憶共生の副作用だ――ナイラの狡猾さとリネアの傲慢が神経系に浸透してる】


【狡猾?それは戦術的知性と呼ぶの!】恥辱を受けた女王のようなナイラの声。【それに『彼女』を狡猾呼ばわりするなんて!】


【以前は『彼女』の肩書を拒んでたはずだ】心の中で笑う。【都合の良い時にだけ『恋人』のフリをするくせに】


【意味がわからないわ】ナイラは知らぬ存ぜぬを通す。


【静かに!】リネアが冷ややかに遮る。異次元から放たれる氷の矢のような視線を想像する。【任務に集中。それと…】一瞬だけ声が柔らぐ、【新しい役柄を楽しみすぎるな】


【了解】笑みを浮かべながらジャケットを手に取る。リネアの中に高慢とツンデレ以外の新たな属性が芽生えそうな予感がした。


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