表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第一巻
24/94

第24章 特殊作戦サービス(1)

 別の基地に来てしばらく経った頃、リネアとナイラがキスをしているまさにその時。突然光が目を刺し、視界を遮っていたフードを誰かが外した。拘束も解かれていた。


 眼前には若い男性将校が立っている。視界がはっきりすると、中尉の階級章をつけた27歳前後の青年だとわかった。


「お疲れ様です、お嬢さん。先程の拘束と目隠しは予防措置ですのでご理解を」


「お嬢さん?俺は男だ!」俺の言葉に中尉は目を丸くして頭の先から足元まで見下ろした。軍服が分厚いと体型が見えにくくなるから。


「え?でもこの姿は――失礼!このような…美形の男性とは」


 震える手で書類を差し出す。「機密保持契約書への署名をお願いします」


 体が不意に震えた。[ちくしょう!彼女たち勝手に問題作りやがって] この震えは彼女たちのいちゃいちゃのせいだ。


「お嬢――あ、失礼!殿方、こちらに署名を」中尉は慌てて言い直す。


「構わん。昔から女扱いされるのは慣れてる」


 流暢に嘘をつく。面倒でもこの外見を維持しているのは、性別に気付いた時の相手の驚き顔が楽しいからだ。ペンを取ってサインを記す。


「ご協力感謝します」中尉が礼を言う。


 署名を終えた頃、体内の熱が増していた、[糞が]


「ハジメ殿。体調不良ですか?」机の向こうの中尉が警戒の眼差しを向ける。


「平気だ」顎に力が入り、視界がぼやける。


「もう帰っていい?」弱々しい声に中尉は困惑。


「あと少しです。特殊部門の同僚二人が書類準備中です」


 中尉は美しい顔が青ざめていく俺を横目に見る。眉間に迷いが浮かぶ――休ませたいが手順は守らねば。


「こちらでお待ちください。悪化したら医者を呼びます」俺の手の震えが増す。


「大丈夫だ。出て行ってくれ、待つよ」神経が熱い液体に浸される感覚。いつの間にか瞼が閉じ、意識が遠のく。


「こちらは10万元入りのカード。パスコード:8XXXX9」中尉は不自然な動きでカードを置いて退出。


『恋人と情熱中の女の子みたいな顔してやがる…男なのに』中尉の妄想が暴走。『ヤバい……こいつホモか?危険信号だ。早く退散!』青ざめた顔で部屋を後にした。


 あの中尉の思考を知っていたら、ぶん殴っていただろう。


 15分間の苦痛に耐える。[止めろ!中和剤が効いてる!ふざけるな!]


 別室では、ナイラとリネアが赤面しながら服を整え、ラスト・ディフェンス・ラインが用意した部屋を目指して周囲の好奇の目を避けつつ急いでいた。


[自覚のない二人め!]


 怒りが爆発しそうになる。だが彼女たちが『いちゃいちゃ』した時、共有記憶から来る陶酔感を俺も感じていたのだ。許すしかない。


 考え続ける間もなく、鉄の扉が軋む。黒スーツの男女が入室。女性のショートヘアが隣の男性と瓜二つ。


 明らかに特殊部門の人間だ。


 俺の(体を)見た瞬間、二人の目が一瞬細まったが、すぐに平静を装った。


 長年の現場経験でも、彼らはこれほど「女性的な外見の男性」に出会ったことはない。だがプロの技量がものを言う――憐憫の情など微塵も見せない。


 二人は対面の木製椅子に、獲物を狙う鷲のような中腰姿勢で座った。


「找小です。同僚の王瑜王玉。XXX列車襲撃事件の詳細聴取を担当します」找の声は平坦ながら刺さるような鋭さ。


「拒否の選択は?」


 最近の出来事は全て機密事項、特に記憶共有の件は三人で厳守すると誓った。厄介なことに自信が持てない。


「可能です」王玉 が赤い封印の書類を開く找を遮る。「ただし本件は第一級安全保障脅威に分類」指で報告書の盾の紋章を叩く。


 ラスト・ディフェンス・ラインは任務外の干渉はできないが、この部門は超法規的権限を持つ。示された身分証明書に息を呑む。


 XXXX特殊作戦局。


 外国人ながら国家主権を脅かす情報隠蔽は倫理違反。拒めば更なる疑念を招く。手の平に冷たい汗が滲む。


「協力する」


 王玉 がレコーダーを起動し、レンガ大のメモ帳を差し出す。「ロケット砲撃後の経緯を時系列で」


 古代宗派や記憶共有、リネアたちの存在を伏せた偽りの証言。予言書に関する記述は徹底的に削除。


「事前に包括的なデータを収集済みです。『省略なしで』お願いしますね」找が強引に友好的な調子で割り込む。「衛星記録によれば、雪山斜面を降りた際に同行者二名が」


「あ、失礼。忘れていた」ナイラとリネアを組み込んだ新たなストーリーを即興。「極限状態で助け合った仲間です」


「三人で緊急脱出しました」


「待て」王玉 が机を叩く。「六月とはいえ標高での気温は零下十度。濡れた服で十時間以上低体温症にならず生存?」嘘発見器のような細目。


「偶然見つけた洞窟で――三頭の雪虎ウと遭遇しました」呼吸をわざと乱す。「やむなく…仕留めて毛皮を防寒着に」


 找が腕組み。「非武装の民間人が高山の捕食者を倒すのは不可能。第三者の関与?あるいは別ルートでの毛皮調達では?」


「いいえ!彼らは衰弱している状態」嘘を純真な眼差しで投げ返す。


 ダンバとガべとの接触を語りつつ、変身の詳細や『神の使者』の件は曖昧に。超常現象は全て自然の成り行きと矮小化。


 だが尋問は終わりなく続く。[いつまでこの茶番を続けるんだ?]17回目の質問に耐えながら溜息を噛み殺す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ