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彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第一巻
21/94

第21章 最後の防衛線(1)

「……ところで、今回の湘州行きの目的は? お前たちの記憶にも明確な説明はないようだが」馬に揺られながら、ふと重要な質問を思い出した。


「私も気になってたの。上司はラサで情報屋と接触せよという指令だけ出して、今朝突然ナトラ・シティの軍用支区に集合せよとの連絡が……」ナイラが応じる。


「それにリネアのシステムと私は別物。前もって顔合わせもしていないのに、全く同じ指令が来るなんて不自然すぎるわ」彼女は眉をひそめて付け加えた。


 ナイラも同じく困惑した表情だ。通常なら任務前のブリーフィングがあるのに、今回は集合地点だけの不可解な指示。


「いずれにせよ、まずはナトラへ。到着してから作戦を立て直せばいい」リネアがきっぱり割り込んだ。


「ならば、ナトラ・シティ到着後は俺は単身で洛索市へ向かう。ここで別れることになる」


 突然の別れ話に一瞬の沈黙が流れる。この数日間の共闘で築かれた絆は予想以上に強く、その終わりを意識すると虚しさが胸を締め付ける。


 リネアが俺の腰をぎゅっと締め、名残惜しそうに身を寄せてきた。ナイラはすぐさま姉妹の一人に連絡し、シーカ(鹿)(鹿)を迎えに私有のヘリをヴィラへ向かわせる手配を始めた。


 西へ30キロ進むにつれ、国道の車両が増え始める。所々に乗馬のハイカー集団が見えるようになった。


 俺が虎の毛皮を羽織り、シーカ(鹿)(鹿)がチベット民族衣装をまとっているため、地元民と誤解されたらしい。若い容姿を見た男連中が、明らかに下心満載で話しかけてくる。


 リネアがサッと短剣を構えると、不埒者どもは青ざめて逃げ出した。時折通り過ぎるチベット遊牧民の集団には、シーカ(鹿)(鹿)が陽気に「tashi delek!」と叫び、温かい返礼を受ける。


 長老格の者たちは舌を出しながら合掌——貴賓への礼儀だ。私たちも彼らの温もりに触発され、まるで地元民のように「tashi delek!」と挨拶を交わした。


 老婆がカタ(儀礼用スカーフ)を渡そうとしたが、シーカ(鹿)(鹿)が急ぎの用事を説明すると、遊牧民たちは警護を申し出てくれた。


「この土地の人の温かさには……胸が熱くなるな」彼らが去る後ろ姿に呟くと、


「使者が訪れる限り、どこでも歓迎されるものですよ」シーカ(鹿)(鹿)が微笑んで返した。


 俺達は顔を見合わせ、苦笑いを漏らす。この派手な出で立ちでは目立つのは当然だった。


 さらに数キロ進んだ時、リネアが突然目を細めた。「前方に国境検問所」俺の強化視力を借りて囁く。


「迂回するか?」


「手遅れよ。こっちに気付いてる。流れに任せなさい」


 検問所に着くと、馬から降りて平静を装って歩き出す。しかし数歩進んだ瞬間、黒づくめの覆面集団が素早く俺を包囲した。


「何のつもり?」リネアがフードを脱ぎ捨て、鋭い声で詰め寄る。


「落ち着け。害はない」覆面の男が懐からバッジを取り出し、ナイラに提示した。


「内部の連絡係よ。文書は本物だから心配無用」ナイラが目を細め、用紙の隅にある封印を確認する。彼女が密かに接触を求めていた相手らしい。


「ついて来い。お前もだ」リボルバーを構えたリーダーが俺を指差し、部下に合図する。


 抵抗する間もなく、黒塗りの車両に押し込まれた。検問所を離れ、車列が速度を上げて疾走していく。


 沈黙のまま2時間が過ぎる。夕闇が迫り始めた頃、車は見知らぬ施設の門前で停まった。黒いシルエットの集団がドアを開け、分厚い目隠しを被せて暗闇の中を移動させる。


 三十分後、ブレーキの唸りが響く。荒っぽい手で引きずり出され、十分間冷たい廊下を歩かされた後、鉄の椅子に放り込まれた。荒縄が手首を軋む。


 [はぁ……また面倒な芝居か]胸元で嘆息する。


 別室ではナイラが「親族」を名乗る人物と向き合い、リネアとシーカは別ブロックへ連行される——彼女たちの運命は今、この拠点の暗躍にかかっている。


「出ろ」冷たい女声がリネアの鼓膜を震わせる。


 目隠しを乱暴に剥がされる。眼前にはプラチナブロンドの女が机にもたれかかり——黒のボディコンドレスが淫らな曲線を強調し、胸元は意図的に深く開けられている。


 [うう……下品すぎる]


 [ハジメ、後で話があるわ]脳内に響くリネアの声は澱んでいた。


 [しまった、思考読まれてた!]


「ようこそ、リネア軍曹」


「何者だ? どうやって私の素性を」リネアが防御的に腕を組む。


「ミス・Mよ、お嬢ちゃん」


 [ミス・M……どこかで聞いた名だ]


 危険だ。この女はリネアの最深機密——殺し屋でもハッカーでもない「特殊連絡将校」という、ごく一部しか知らない真の肩書を知っている。


 [リネア、奴は全て把握してる!]


 [軽挙動くな。静観だ]


「信用できない?」女が嗤いながら金庫から赤いファイルを引き出す。表に『極秘』の刻印。


 [偽名の契約書……第七級保安紋……これは本物]


「これがあなたの任務ブリーフィング。読みなさい」


 [ファイルの暗号パターンが私のIDコードと一致]震える指で文書を開くリネア。


 最初のページに、黒い五芒星の焼印が燦然と輝いていた。


 [五賢人会の紋章!?]


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