第20章 友情
意識空間から戻った後、眠りに落ちてから数分しか経っていないことに気づいた。
[リネアの状態は?] ナイラが不安げな声で尋ねてくる。
[一時的に安定した。あとは待つだけだ] まだ抱きかかえているリネアの姿勢を整えながら答える。
[そう...]
[予防策として、私にリネアの状態を診察させて] ナイラの小指——先ほどまで昆虫化していた部分がリネアの首元に近づく。
[あなたの言った通りね。回復は遅いが、確かに進行は見られる]
[少なくとも危険な段階は脱したようだ] 彼女が付け加える。
[よかった...これで成功か] 生物学に精通したナイラの分析に胸をなで下ろす。
[でもハジメ、どうやってリネアに力を分け与えたの?] ナイラが探究的な眼差しで詰め寄る。
[知ってたのか!?]
驚く。話した覚えはないし、意識空間での出来事は共有できないはずだ。
[彼女の体内にあなたの遺伝子痕跡を発見したの。だから推測しただけよ]
[む...その件は——]
言葉を切る。説明すれば意識空間の秘密を暴くことになる。頭の良いナイラに嘘は通用しない。
[それは...内緒だ] 最終的にごまかす。
[ふーん...怪しいわね。いいわ、後で直接リネアに聞くから]
[ところでハジメ。あなた本当に平気なの?] ナイラが微かに皺を寄せた額でこちらを見る。
[大丈夫だ]
彼女の心配は当然だ。力を分け与えれば副作用があるはずなのだから。
[多少の力を提供したけど、高山病による軽い吐き気程度で済んでる]
ナイラは黙ったまま、まだ不安げな表情を浮かべている。「どうして?」と聞かれれば、もちろん体調と発言に矛盾があるからだ。
[だから大丈夫だって。心配しすぎだよ] 優しくたしなめる。
[別に心配なんてしてないわ] 顔を背けながら返す。そんな彼女の態度に薄笑いが漏れる。
登山を再開するにつれ、険しい地形が増え、登攀に集中を要した。リネアが無力な状態でどれだけ経ったか、彼女がゆっくりと瞼を開いた時には太陽が高度を上げていた。暁に出発したから——つまり約四時間ほど意識を失っていた計算だ。
リネアの頭にあった猫のヒゲと雪虎の耳は消えていた。弱々しく呻く彼女の体は、死闘を繰り広げた後のようにぐったりしている。抱擁を強め、馬の速度を上げる。後方でナイラとシカ(鹿)が追従し、三つの影が山肌の冷気を切り裂いていく。
「今回だけは...感謝するわ」
意識が戻ると同時に、リネアは俺の記憶にアクセスしてきた。感動の色が彼女の表情に浮かぶ。
「こっちこそ悪かった。感謝されるところじゃない。自制できなかった俺が悪いんだ」
「実は...全部があなたの責任じゃないのよ」リネアが顔を赤らめて俯くが、突然ツンデレオーラが硬化する。
「つまり...私が意識を失ってる間、この全部あなたの仕業なのね?」震えるような声。
全身の毛が逆立つ。リネアの服のボタンが外れ、俺の掌がまだ彼女の上下する胸に触れていた。
「そ、それは...緊急事態だったんだ」俺は言葉に詰まりながら答える。
「ふん...?」彼女の短い舌打ちが突き刺さる。
「落ち着け!お前が転落しそうになったからな。安全な体勢を探ってただけだ。服や手の位置は偶然だ!それに馬の制御も同時にしてたんだぞ!」
「なら早くその不埒な手を離しなさい!」そう言われても、彼女の腰を抱く腕の位置とこの体勢は様々な理由で都合が良かった——もちろんリネアを落とさないための初期の困惑はあったが。
「リネア、あと少しだけ我慢しろよ」突然彼女の耳元で吐息を交えながら囁く。
「あんたっ!ナイラみたいな真似しないで!」声を震わせて叫ぶ——どうやらここが彼女の急所らしい。
「むきー...今回は特別に大目に見てあげる」
「改めて質問ね、ハジメ。タイ旅行の誘い、まだ有効よ?」ナイラが悪魔的な笑みで割り込んでくる。
「行かない」「一度だって承諾しないわ」俺とリネアが同時に拒絶する。
横で状況を見守るシカ(鹿)は苦笑いを浮かべる。『もし立場が入れ替われたら...』と内心呟く。
一つ気になる点があった——道中、三人は頻繁に無言になるのに表情がコロコロ変わり、まるで会話しているかのようだ。シカは秘密があると察しているが、質問せずただ首を振りながら時折謎の微笑みを浮かべる俺たちを見つめる。
気づけば山を下り、国道2XX1号線の真っ直ぐな道に出た。携帯の電波が満格に。以前は通話しかできなかったが、4Gの電波が煌々と灯る。三人そろってスマホを取り出す。
「LINEのID交換しようか?」ナイラがスマホを振りながら提案する。
「了解!」
指先で互いに番号を打ち込む。だがフレンド登録が完了すると戸惑う:記憶が共有されているのに連絡先交換する意味ある?
「まあ...形式上ってことで」俺が淡々とコメント。
「それは大事じゃない!ねえグループ写真撮ろう!ストーリーにアップするの!」若者らしいナイラのテンションが爆発する。
馬から降りる。緑の山肌と青空、綿雲を背景に、スマホのシャッター音が鳴り止まない。ふざけたポーズ、モデル風のスタイル、シカを赤面させるようなラブラブアピール——全てがフォトギャラリーに刻まれる。
いつの間にか、幸せな笑い声に包まれていた——未来の重荷を忘れ、嵐の中の黄金の泡のように儚い自由を刹那楽しんでいた。
ベストショットを選び、アップしては繰り返す。すぐに「いいね」とコメントの通知が投稿を埋め尽くす。
「美少女過ぎ!紹介してよー」
「隅っこの子可愛い!連絡先教えて!」
「銀髪の猫耳コス...たまらん!」
「中央の女王様オーラ!紹介プリーズ!」
「まったく...俺のハーレムだと誤解されてる」下品なコメントにイラっと舌打ちする。
「ふふ~ハジメ様のモテ期到来ですか?」ナイラが悪魔的な笑みで目を輝かせる。
ナイラの誘惑を無視し、クラスメートからのDMを確認する:
「兄弟、この女神級の子ら誰?紹介しろよ!」
「ハジメ、独占するなよ!いつからこんなサークルに?」
明らかに変身中の俺を認識できていない——せいぜい「美形の男友達」と思われてるらしい。厚かましく一律返信:
「彼女たちは俺の嫁。諦めろ」
「はっ!? よくも勝手に私の名前を使ったわね!」リネアが腿を真っ赤になるまで捻り上げ、鼓膜が破れそうな声で怒鳴る。
「落ち着け...『俺の恋人』って悪くないだろ?」悪戯っぽく眉毛を動かしながら甘えた声。
「むっ!今回だけよ!」頬を紅潮させながらも、怒りを装った瞳の奥に甘い恥じらいが覗く。
コメント欄は総攻撃の様相に:
「畜生!ぶっ殺す」
「ナイフ持って待ってろ」
「リアルで会うまで覚えてろ」片思いの子まで参加してる。
俺:「...」
「『偽カップル作戦』って言ったのアンタでしょ?」ナイラとリネアが声を揃え、クスクス笑いながら指さす。
SNS騒動の後、肩の荷が軽くなった気がした。この狂った冒険には、若者らしい無邪気さが必要だ——そうでなければ、正気を保てない。
国道2XX1号線を進み続ける。残り100km——街ナトラが道の先で待っている。
お疲れ様でした~、第20章はいかがでしたか?
今回の「SNS騒動」、書いてて「現代っ子あるあるでファンタジーをぶっ壊す!」と一人ニヤニヤしつつ、ハジメの「俺の嫁発言」には自分でツッコミ入れてました(笑)。キャラ同士の化学反応が楽しくて仕方ない回でした!
いつも応援本当にありがとうございます! キャラ達が「早く書け~!」と鞭打ってますので、頑張って生還します!次回更新でまたお会いしましょう~
(※現在AM2:51。リネアのツンデレ顔を妄想しすぎてノトに落書きした自分が哀れすぎる…!)