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彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第一巻
18/94

第18章 隠された企み

 彼女はただの純粋な娘――たとえ我々が悪党扱いされても、微塵も恐れる様子はなかった。


「ナイラ、あなたの前で彼女を他人に威嚇させないで!」リネアは溜息混じりにたしなめた。


 しかしナイラはシカ征服作戦を頭の中で楽しく練り上げており、返事をする余裕などなかった。


「彼女は本当にハーレムの女王な…」俺は諦め顔で首を振った。


 シカはまだ昨夜何もなかったことを知らない。彼女の反応が気になるところだ。そもそも俺に彼女への想いなどなく、結婚する可能性もほぼない。ナイラの百合ハーレムに加わるのが彼女にとって最良の選択かもしれない。


 しばらくしてシカが部屋に戻ってきた。


「ハジメ様、馬の準備が整いました。今すぐ出発なさいますか?」


「急がなくていい。まず荷物をまとめろ。すぐに出る」


「お気遣いなく。私はいつでもハジメ様にお供できます」


「よし、それじゃ出発だ」


 リネアたちと合流後、キャンプの入口に到着すると、集落の者たちが総出で見送りに来ていた。


 我々の到着を見るや、群衆の中から三人の屈強な馬が豪華な鞍と金糸刺繍のクッションを備えて連れ出された。リネアとナイラが手綱を取り、鐙を踏んで颯爽と乗り込む。


「早く乗りなさい!何ぼーっとしてるの!?」まだ呆然としている俺をリネアが急かした。


「あの…俺、乗馬できないんだ」照れくさそうに答えると、


「しょうがないわね。私の馬に乗りなさい。まずは移動してから教えてあげる」リネアが左手を差し出し、俺を馬の後部座席に引き上げた。


「私の腰をしっかり抱きなさいよ。落ちないように…っ!別、別にあなたのことが嫌いだからって変な想像するんじゃないわよ!」


「でも――」


 躊躇う俺を見て、リネアは自ら俺の手を自分のウエストに押し当てた。


「シカは乗馬できる?」ナイラが迷うシカを見て尋ねた。


 シカは俺と同じ馬に乗りたかったが、既にリネアが占拠している。その瞳にかすかな失望の色が浮かぶ。


「いいえ、尊き方。私は乗馬ができません」元気のない返事。


 実は彼女の一族はほぼ全員乗馬ができた。しかし彼女は幼少期から病弱だったため、長老たちが転落を恐れて乗馬を禁じていたのだ。今でもそのままになっている。


「それでは私の馬にお乗りなさい。三頭目は休ませておきましょう」


 返事を待たず、ナイラはシカを掴むと背後から抱き寄せた。


「あ、神使様、私――」シカは顔を赤らめた。同性とはいえ、こんな扱いに慣れていない。


「静かに。おしゃべりはお預け。すぐ出発よ」ナイラはわざとらしく暖かい息を吹きかけながらシカの耳元で囁いた。


「んっ…神使様――」シカの敏感なポイントである耳朶が甘く反応した。


「おいナイラ!気持ち悪がってる相手には触るなって言っただろ!」俺が再度釘を刺す。


「ふぇ~?聞こえな~い」ナイラは満足気に笑い、わざとらしく抗議を無視した。


「これでもう二度目よ!」リネアは歯軋りし、顔を真っ赤にしていた、ー彼女お怒りだ。


「この人…私に好意があるくせに、目の前でハーレムなんて作りやがって…この最低!」


 ナイラの女の子いじりに業を煮やしたリネアは、むしゃくしゃと鞭を振るい、馬を風を切る勢いで走らせた。


「待て、スピード落とせ!落ちそうだ!」鞍に必死にしがみつきながら俺が叫ぶ。

 馬の激しい上下運動に体がバラバラになりそうで、背中が軋む。


「ほら見なさいハジメ!ジェットコースターよりスリリングでしょ?」リネアがツンデレらしい張り切った声で言う。

「そ、そうかも…でも今にも放り出されそうだ!」目を固く閉じながら答える。


 後方ではナイラが余裕たっぷりに手綱を操っていた。狡知に長れた動きで三頭目の馬を制御しつつ、恥じらうシカを抱き続けている。


 村に残ったガべは、我々の立ち去った塵の舞う空を見上げていた。

「ようやく出て行った。長老たちの計画が昨夜の件で台無しになりませんように」震える手で懐から狼の牙を取り出す。


「お前がシカに惚れてるのは知っている。別の生贄を選ぶこともできただろうに、あの狂人に預けられた以上、手を出すな!」


「もうすぐ閣下の計画が実を結ぶ。今更邪魔しようものなら、お前の命はないと思え」


 ヒマラヤの僧院で、百歳に近い修道士が瞑想から目を開いた。荘厳な動作でゲサル王伝来の黄金椀を取り出すと、単身北へ向かって急ぎ足で去っていった。


 一方ラサ近郊の秘密軍事基地では、提督が人事書類を皺だらけの額で睨みつけていた。


「全員揃ったか?」


「あ…あと二人、不足しております」将校が震えながら答える。


「所在は?連絡は?」


「作戦区域がテロ攻撃で封鎖されております。特殊部隊が我が軍の着陸を許可しません。指揮系統ネットワークでの連絡は遅延が酷く…最終手段は空爆のみと」


「テロだと?!いったい何の戦いだこれは?!」提督が鉄製コップを凹むほど机を叩きつける。


「司令、これは真理教関連です。関与しないが宜しいかと」


「原因究明は?」


「未だに。例のごとく霧散しております」


「今回は平穏裡に終わればよいが…」割れた茶碗を見つめながら呟く提督の胸中は渦巻いていた。


 世界の裏側、アフガニスタン山脈の洞窟では。

 暗い祭壇を囲む白黒の集団が古書を開く老人を見つめていた。最初の頁が開かれた瞬間、全員の瞳が白く濁り――憑依が始まった。


 ハジメたちが去ったチベットの洞窟では。

 暗闇に不気味な輝きが瞬く。古代祭壇に恐怖のオーラを纏った水晶が突然出現し、まるで虚空から生まれ出るかのようだった。


 ーーー

 針のように肌を刺す冷たい雨。

 クラクションの咆哮と慌ただしい足音に喘ぐ都心で、煤けたフードの人物が渦中の墓石のように佇んでいた。透き通るほど青白い月のような手には古革の本が握られ、角の亀裂から黄金の微光が脈打っていた。


 本が開かれた瞬間、時間が止まった。


 雨滴は空中で固化し、液体水晶のように浮遊する。都会の喧噪は消え、代わりに地球の息遣いが軋む。銀のペン先が紙面に触れ、文字の一画ごとが暗闇を切り裂く流星のように輝いた。


「神と人が互いに喰らい合う世界では…」

 エメラルド色のインクが霧となり、禁呪のような文字が大気に刻まれた。


「…生存こそが唯一の法だ」

 この囁きが凍り付いた人々――傘を差す母親、アイスを落とした子供、歩みを止めたビジネスマン――の頭蓋に反響する。無意識の涙が凍った雨と混じり合う。


「だが選択すべき陣営が分からぬなら――」

 突然ペンから鮮血が滴り、文字の谷間を伝い落ちる。血の池は渦巻くポータルへと変貌した。


「光か闇か、愛か裏切りか?」

 風が過去の笑い声を運ぶ――少女の笑い、悪魔の哄笑、末端で砕ける嗤い。


 人影は最後の文句を眺め、崩れゆく星雲のような瞳を細めた。


「答えは笑いの中に潜むかもしれぬ」


 眩い閃光と共に本が閉じられる。その身体は風食われる灰のように分解し、外套は這い去る影へと縮む。落下する本はスローモーションで地面を打ち、頁が広がる…空白だった。


 雨が突然解け出す。


 都市が再起動した機械のように動き出す。人々は何事もなかったように日常へ戻り、水溜りの本はただの古ぼけた物体となる。


 しかし覗き込めば――濡れた頁の隅に、雨滴が小さな笑いの模様を形成し、ゆっくり蒸発していく。残された問いは雨粒より重く空中に漂った。


第18章、いかがでしたか?

馬上のドタバタ劇から世界規模の陰謀まで、まさに「日常と非日常の綱渡り」な回でしたね~。リネアのツンデレ騎乗指導にナイラのシカさん狩り、そして謎の勢力の蠢き…書きながら「これで1巻の中盤クライマックスだ!」と自分で盛り上がってました(笑)。


【重大発表】

ついに第18章で第1巻の折り返し地点に到達! ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!キャラ達も「銀髪イケメン化」「百合ハーレム疑惑」「世界の闇勢力登場」と大忙しですが、これからもっと熱い展開が待ってますよ~。


今回の「世界を跨ぐ陰謀」の伏線、書いてて自分でも「あ、この老人と軍人の関係どうなるんだっけ?」とメモ帳と格闘してました。

馬旅編の次は「雨の都市で起きた時間停止事件」が全体のストーリーにどう絡むか…?


いつも応援本当にありがとうございます!また皆様と物語の世界でお会いできる日を楽しみにしています!


(※現在AM3:09。)

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