第17章 出発
その後、俺は外へ出た。当然ながらナイラとリネアの反応は凄まじかった。装備を準備中だった二人は数秒間硬直したまま動かなかった。
「フンフン……どうしたんだい? 突然凍り付くなんて」得意げな笑みを浮かべながら声をかける。
「ハジメ、調子に乗るんじゃないわよ。ところでシカに頼んで——馬を三頭用意してもらわないと。すぐ出発するの」ナイラが小首を傾げながらたしなめる。
「待てよ、ここには道路も車もあるだろう? なぜ馬を使う必要が?」
「幹線道路は目立ちすぎるわ。追跡されやすくなるの。昨日の列車での事件を忘れたの?」
「奴らは交通網を通じて位置を特定してきた。チベットの国境検問所が多すぎるのに、なぜか我々のデータが筒抜けだった」
「そうよ! 待って、まだ問題が残ってるわ。片付けていないことがいくつかあるの。適当に出発できる状況じゃない」
そしてシカとの"事件"の後始末も未解決だった。
「心配しないで。あなたはまだ何もしていないし、童貞のままよ。保証するわ。だから責任を感じる必要なんてないの。」
さすがナイラは生物学の知識で昨夜の出来事を推測したのか?
ナイラは実際、言葉を失っていた。確かに昨夜のシカと俺は危うく一線を越えるところだった。
「昨夜寝る前、あなたの様子がおかしいと感じたの。……心配になって、確認しようとしただけ」
「待て、つまりお前が俺の部屋に侵入したのか? でも何もなかったなら、なぜベッドに血痕が?」
「当然よ。私が入った時、あなたはもう少しで越えそうだったから。腹が立って……つい頭を壁にぶつけてしまったの」
「つまりあれは俺の血だと?」
「そうよ」彼女は甘い笑みで答えた。
蹴られたことに若干むっとしたが、大事に至らなかっただけマシだ。トラブルがなかったと知って安堵する反面、どこか漠然とした喪失感が胸をよぎった。
「シカ、お願いがある」この献身的で美しい少女に対し、正直になるのが最善だろう。
「ご命令ならこの身を捧げて。できる限り完璧に成し遂げます」
「ああ。俺と仲間二人で長旅に出る。お前の部族から馬を三頭貸してもらえないか?」
「かしこまりました、ハジメ様。最良の馬を手配させます」
しかしシカは動かなかった。突然俺の胸に飛び込み、瞳を潤ませた。
「ハジメ様……どうか私もお連れください。この身の存在意義は神々様への奉仕にあります。あなた様なしで、私の生きる意味が……」
【どうすれば……? こういう感情の処理が苦手なんだ】慌ててナイラに助けを求める視線を送る。彼女こそこうした複雑な問題を解決する策略家だ。
【そろそろハーレムを正式に始める良い機会じゃない? 従順で可愛いシカちゃんは完全にあなたに惚れてるわよ。理想的な選択では?】ナイラは私の困惑を悪戯っぽい笑みで見つめる。
【ふざけるな!】頬を赤らめながら心で叫ぶ。
【いいじゃない。実は簡単な解決法があるわ。空約束をして——いつか必ず戻ると言いなさい。彼女の忠誠心ならきっと待つわ】
【バカ! それでは問題先送りだ!】
【計画……卑劣ね】突然リネアが腕組みして割り込んできた。【純粋な想いを利用するなんて……あきれる】
【残念ながら賛成できないわ】リネアが冷たい声で切り込んだ。
【君たち二人は甘すぎる。なら、家族を口実に使えばいい。 血縁の絆があれば、彼女も簡単に離れられまい】ついにナイラが現実的な案を提示する。
震えるシカの肩に手を置く。「聞けシカ。今回の旅は危険が伴う。ついて来るなら、一族と家族を捨てる覚悟がいる」
「ハジメ様…」声が震える。「私は赤ん坊の時に孤児になりました。八年前に祖母が亡くなり、ガべ叔父は生贄にしようとし、ダンバは…私を犯そうと…他の者は見て見ぬふりを…」嗚咽が身体を震わせる。
【道理で餓死寸前だった。ここの人間は獣以下だな】
リネアがナイフの柄を握りしめる。【この魔窟に置き去りにするわけにはいかない】
シカの告白に胸が締めつけられる。【ナイラ、彼女の安全な居場所を用意できるか?】
シカの運命はナイラに委ねられた。情けない、——俺はまだ親の仕送りで生きる普通の学生だ。彼女を守る力も資源もない。
ナイラが優雅に足を組む。【ええ、丁度私の百合ハーレムに可愛い子が足りないところよ。別荘の住人たちも彼女を可愛がるでしょう】
【狼の巣に放り込む気か?】
【選択はあなた次第】肩をすくめる彼女の赤いマニキュアが朝日に輝く。
【わかった…】深いため息をつく。
【だが彼女を変態プレイに巻き込むなよ!】
【心配ない。しおれた花には興味ないわ】唇が妖しく歪む。【私にも美学があるの。少女の涙なんて…食欲をそそらないわ】
実際のところナイラは明らかにシカを狙っている。百合ハーレムの蒐集家が、こんな美味しい獲物を逃すはずがない。
「シカ」冷たい手を包み込む。「外の世界は想像以上に残酷だ。それでもついて来るか?」
「ハジメ様となら…どんな困難も乗り越えます」涙ぐみながらも瞳は強く輝いている。
「なら泣くのを止めろ。一族に別れを告げて来い」優しく頬の涙を拭う。
「はい、ハジメ様!」頬を赤らめながら笑顔を見せるシカが部族の者を探しに走り出す。伝統衣装の裾が蝶のように翻り、解放された生き物のようだった。
ただいま地獄の課題から生還しました~!第17章、いかがでしたか?
今回のシカさん涙の同行劇、書いてて「百合ハーレムの闇が深まる…!」と一人ドキドキしつつ、主人公の銀髪イケメンパワー炸裂シーンでは「これで女性読者を陥落させるぞ」と野望を燃やしてました(笑)。
【お詫び&報告】
先日お伝えした大学課題の地獄、無事に脱出しました!遅れた分のエネルギーを17章にぶち込みましたので、どうか銀髪ハジメの騎士道(?)をお楽しみください~!
いつも応援ありがとうございます!
(※現在AM4:11。変身後のハジメを妄想しすぎて現実の自分の散らかった部屋を見て絶望中。銀髪イケメンなら片付け魔法使えるはずなのに…!)