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彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第一巻
15/94

第15章 俺の中の変化

 俺は昨夜、ぐっすり眠っていた。


 いつものように、目覚めたときにストレッチをしようとした。でも、何かが体にのしかかっている。なぜか背中が痛くて力が入らず、起き上がるのも一苦労だった。


「待てよ、思い出した! 酒を飲んだあと、眠ったんだ。」


「でも……なんで胸がこんなに重いんだ?」


 俺はゆっくりと毛布をめくった。するとそこには、シカが裸でぐったりと俺の胸に横たわっていた。生々しい匂いが空気を満たしている。


「何があったんだ……?」

 思考が一気に加速する。隣の部屋ではナイラとリネアもまだ眠っているはずだ。


 少し落ち着いてから、昨夜の記憶を手繰り寄せようとした。


 寝る前、俺は用意された部屋で痛みに耐えていた。深夜になって、不意の来客があった。ドアを開けたかったが、体が動かず、客に中へ入るよう声をかけた。


「どうぞ……入ってくれ。」


「失礼いたします、尊き方。」


 扉が開き、シカが料理と飲み物の乗ったトレイを手に立っていた。優雅な動きで部屋に入り、テーブルに料理を並べながら俺に勧めてくる。


 だが、俺は食欲がなかったので断った。でも、ワインの瓶を見たとき、ふと思った。もしかして、これで痛みが和らぐかもと。


 深く考えず、俺は一本まるごと飲み干してしまった。


「尊き方、それは一気に飲むには強すぎます……」

 かすかに、シカが止めようとしていた記憶がある。


「おお〜そうか?」

 もうその時には、舌がうまく回っていなかった。


 酒があまりに強かったせいで、俺は洗面所に向かい顔を洗った。戻ってくると、シカはすでに全裸でベッドにいた。


 俺は目を逸らしながら頭痛をこらえ、確かに断ったはずだ。だが、シカの方が動いてきて、素早く俺に身体を絡めてきた。


 この時点でも、俺はまだ踏みとどまろうとしていた。隣で横になるだけで、何も起こさないつもりだった。少なくとも、俺の意志はそうだった。


 だが、体を横にしたときに、膝が偶然シカの太ももに触れてしまった。彼女はそれを合図と勘違いし、すぐに脚を俺の腰に絡ませてきた。


 押しのけようとした手は、誤って彼女の胸をつかんでしまい、シカは艶っぽく喘いだ。残っていた理性も、その瞬間に崩れた。――何かが起きた。


 でも、問題はここからだ。――俺はどこまでやった? 具体的には? 本当に最後まで? 何も覚えていない。


 待て、正確な経緯は? 本当に起こったことは? まったく思い出せない。


 シカが目を覚まし、潤んだ瞳で俺を見つめてきた。


「シカ、俺たち…昨夜は?」震える声で問いかける。


「うん…」彼女は恥じらいながら頷き、小さな指でシーツの茶色い染みを指さした。それは処女の血の痕。


 えっ?!まさか本当?いや待て──単なる傷の血か?そもそも俺にはっきりした記憶がない。クソ、アルコールのせいだ。もし本当なら、せめてその感触を覚えていたかったのに…


「尊き方、髪とお顔が…」シカが突然口を押さえた。瞬きを交わしながら目を逸らす様子は、憧れの人を目撃した少女のようだ。


「俺の髪がどうかした?普通だろ」肩まで届く髪の先を触る。


「どうしてこんな──!?」


 昨夜までは確かに3センチの真っ黒なショートヘアだった。今や絹のように滑らかな白銀の長髪が指の間から異様に感じる。


 記憶を必死に辿るが、この異常な変貌の手がかりは見当たらない。一夜にして生える長髪?普通の夜ならあり得ない。


 だが心は妙に冷静だ。ここ二日の荒唐無稽な出来事を経れば、この程度の身体的変化など些細な追加事項に思える。


[ナイラに聞くべきだ。彼女の知識なら説明できる] 心で決断する。


「シカ、ここで待ってろ。確認することがある」



「はい、尊き方」

「ああ、『尊き方』はやめろ。ハジメと呼べ」


 言い終えると適当に服をまとい、ナイラとリネアの部屋へ突進する。鍵はかかっていない。ドアを蹴破った瞬間、横合いから見知らぬ影が襲いかかってきた。


「誰だ!?」不意を突かれた俺が体勢を崩す。


 しかし視線を定めた瞬間、息が止まった。眼前の人物はギリシャ神話の神像の如し──均整の取れた肢体、陶器のような肌、鷲のように鋭い瞳。窓から入る朝風に靡く肩までの長髪が神秘的なオーラを放つ。最も衝撃的なのは…この顔が妙に馴染み深いことだ。最高に洗練された鏡像を見ているようだ。


 人生でこれほどの混乱を味わったことはない。抑えきれぬ衝動に駆られ、一歩近寄る。


「俺はハジメ。君の名前は?」躊躇いながら手を差し出す。


 相手は恥じらいと困惑、若干の恐慌が入り混じった表情で俺を見つめる。唇が震え、言葉にならない。


「怖がらなくていい。ただの…」言葉がリネアの叫びで遮られる。


「侵入者よっ!!」


 目を覚ましたナイラとリネアが警戒の眼差し。リネアは枕元のナイフを握りしめている。


「俺だ!ハジメだってば!」二歩下がりながら叫ぶ。


 しかし返ってきたのは虚ろな視線。ナイラが眉をひそめ、俺の全身を舐めるように見る。「外見的特徴不一致。だが声とオーラは…」


 リネアが野良猫のように近づき、鼻をクンクンさせながら。「体臭は似てる。でも見た目が…」


[あり得ない!あなたハジメじゃない。ハジメは普通の男性で、こんなイケメンじゃなかったわ!] 二人の思考が懐疑的に交錯する。


[二人ともぼーっとしてるのか?他人がテレパシーで会話できるわけないだろ] 余計に混乱する俺。


[本当にハジメなの?] ナイラが瞼を細め、こめかみを叩くスキャンするような仕草。


[そうだよ!いったい何が問題なんだ?]


[そこの鏡を見てごらんなさい] ナイラの頬が突然赤らみ、視線を逸らす。


 リネアは目撃したアイドルに動揺する少女のような表情で俺を見つめる。震える手でベッドカバーの端を握りしめている。


[鏡?それよりこの部屋の客人は誰だ?] 俺が横に立つ人物を指さす。


[…客?ここには大きな鏡しかないわよ!] リネアが枕で顔を隠しながら返す。


[鏡?] 世界がぐらりと傾くような感覚。もしこれが鏡ならつまり…


 思考が完全に停止する。ゆっくりとガラス面に顔を向ける。大理石像のようなプロポーションの男がこっちを見つめ返していた。肩まで届く銀髪、陶器のような肌、完璧な顎のライン――全てが鏡面にくっきり映っている。


[これが…俺?] 声がかすれる。鏡の両頬を指でつまむ。映った影が同じ動きをする。


 突然恐ろしい考えが頭をよぎる。右手が即座に股間を確認。


[ある……!] 安堵の息が喉から漏れる。[男のままだ!] 。いや、最初から疑うべきじゃなかった。特にこの理想的な体型では。


 ナイラが失望混じりにため息。その表情から明らかに「もっと劇的な変化」を期待していたようだ。リネアは俯き加減で下を向いている。


「変な妄想してる場合か!何が起きたか調べるの手伝え!」


「待って!」リネアが突然布団を首元まで引き上げる。


 リネアは自分がまだ裸だということを忘れていたらしく、慌てて布団を体に巻きつけると、顔を真っ赤に染めて俺を睨む。


「あんた…一旦出て!着替えなきゃ!」


「今さら照れるなよ?前々からもう全部見た――」


 バン!


 羽毛枕が顔面直撃。乱れた髪のカーテンの向こうで、リネアが甲高い声で叫ぶ:

「でていきなさいっ!!」


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