第14章 入浴
俺が浴室を出ると、二人は既に行動を開始していた。
「断るわ!」リネアがナイラの誘いを一蹴する声が響いた。
くそ、やっぱりこうなるか… , ナイラの思考パターンは読めていた。俺が入浴している間にわざとリネアをからかおうとしてたんだな。
「たとえ山から飛び降りて自殺しようと、あんたなんかと一緒に湯船に浸かるもんですか!」リネアの顔は真っ赤になっている。
ナイラはただ狡黠な笑みを浮かべ、ゆっくり近づいていく。リネアの危険感知アンテナがピンと立った瞬間、ナイラの指先が突然彼女の胸元を撫で、太腿へと挑発的に滑り落ちた。
「や、やめなさいっ!」胸の前で腕を組んで抵抗するリネア。
「いいわ。『やめない』って言ったから、続けさせてもらうわよ」
ナイラは太腿で満足するタイプではない。その手はさらに奥へ、リネアの股間の敏感のエリアと侵入していく。
「この…下劣な!」リネアの身体が刺激に震える。壁越しに、俺は抑えきれない衝動に歯噛みしていた。
「もういい!わかったわ!入浴に付き合うから!」ついにリネアが白旗を揚げた。この状況が続けば、じわじわと防衛ラインが突破されると悟ったのだろう。
リネアが女子浴室に飛び込むと、男性用より豪華な広々とした湯船が広がっていた。ためらいがちに振り返ると、ナイラは「どうぞ、ここで待ってるから」と言わんばかりの挑発的な笑みを浮かべている。
赤面しながら衣類を脱ぐリネア。本来なら共同入浴も平気なはずが、ナイラの露骨な『特別な意図』を感じて身構えていた。
右足先で慎重に湯を試す彼女。左足を入れようとした瞬間、ナイラが突然足首を掴み、強引に引きずり込んだ。湯船に放り込まれたリネアが起き上がるより早く、ナイラが背後から覆い被さる。
密着した胸、禁断の領域へと這う手。物理的な刺激にリネアの思考が揺らぐ。
「ナ、ナイラ…私…私の好きなのは男性なの…!」泣きそうな抗議が、逆にナイラの攻撃性を増幅させた。
女子風呂の壁越しに、俺は目を閉じながら…彼女たちの記憶を介した『覗き』を呪い続ける。
ナイラが今度は耳元に息を吹きかける。ハーレム遊戯さながらの攻撃!普通の女子がこの手に耐えられるわけがない。高飛車なリネアでさえ、次第に理性が溶けていった。
最後の防衛線が崩れ落ちようとした瞬間、ナイラは突然体位を逆転させる。滑らかな舌がリネアの口内に侵入し、唇を噛み、支配的な接吻を始める。
「私とのお風呂…気持ちいい?」耳朶を舐めながら囁くナイラ。
「き、気持ちいい…」赤潮が頬を染めるリネアの喘ぎ声。
ナイラの手がリネアの両太腿の間に滑り込んだ。
記憶共有を通じて伝わる欲望に、俺は崩れ落ちそうになりながらも耐えていた。まさにクライマックスを想像し目を閉じた瞬間、ナイラが突然動作を止めた。
「もういいわリネア。身繕いしなさい!」朦朧とするリネアの耳をひねりながら叱りつける。
「え?なんで止めるの…」自らの質問に赤面するリネア。
「下を見なさい」
硬直した表情で湯船を見下ろすと、赤い染みが水面に広がっていた。
「これって…?」
言葉が終わらないうちに、ナイラはタオルを奪うと彼女を抱え上げた。慣れた手つきでリネアをくるみ、ゆったりした着物を着せると布団の山に沈めた。
「な、何するのよ!?」唇を噛みながら抗議するリネア。
「馬鹿め。貴女、生理が来てるわよ」
「は…?」
先程の刺激によるホルモンの乱れが月経周期を早めたらしい。本人も気づかなかったようだ。
男子浴室側では、最初は共有視覚で血を目撃した俺がパニック状態に。だが本当の状況した途端、[ただの生理か…!] と思った
思考を読んだナイラが眉を吊り上げる。「『ただ』ですって?!」産婆さんのような物腰で説教を始める。「いい?生理中は心を清めるのよ。そうしないと…うんたらかんたら」
突然、腸を捻るような腹痛が三人を襲った。リネアの悲鳴、俺が床に転がる音、そして記憶共有で繋がったナイラまでがうずくまる。
「あぁっ…ナイラ、これ何?痛い…助けて…」弱々しく訴えるリネア。
男として初めて体験する子宮の収縮。見えない拳が内臓を握り潰し、骨盤を槍で突き刺すような痛みだ。
「寝なさい。そのうち治まるわ」ナイラの声にも力がない。
彼女の意外にも優しい態度に目を見張る。記憶共有の影響か、それとも…?
考え続ける余裕もなく第二波が到来。子供のようにすすり泣きながら、冷や汗で濡れた頬を床に擦り付ける。
女子クラスメイトが教室の隅で青ざめていた理由、体育教師が特別扱いしていた意味が今ならわかる。地獄の苦痛だ!
「私…間違ってたわね」ナイラが突然呟きながらリネアのこめかみをマッサージする。「無理強いするべきじゃ…」
心温まる言葉に胸が騒ぐ。だが最も腹立たしいのは、痛み止めの漢方を飲んだリネアがすやすやと眠り、女子特有のトラブルと格闘する俺を置き去りにしたことだ!
一夜中腹痛と戦った末、ようやく眠りに落ちた俺たちは共同意識空間へ。しかし何故か胸に引っかかる後悔の念…いったい?
意識空間の広間に着くと、軽い会話が紡がれ始めた。
「もう…あの痛みは正気じゃない。女子は毎月これに耐えてるのか?」腹をさすりながら俺が呟く。
「女性が強靭な存在だと理解できたようね」ナイラが誇らしげに応じる。「決して侮るべきではないわ」
「その通りだ。十代で月経、大人になったら出産…どちらも想像以上の苦痛だろう」
「家族や夫、子供の世話も加わる。この世界は女性に冷酷よ」
「本当に…君たちはすごいな」
「…ありがと」ナイラの声が突然小さくなる。顔を背けているが、耳元が赤らんでいるのが見える。
この中立領域では思考を読み合えず、俺は彼女の冷たい態度の裏にある感情を推測するしかない。
「じゃあ…さっきの入浴シーン続きやらないか?」冗談半分で彼女の反応を探る。
「馬鹿言わないで!男と?ありえないわ!」手が俺の肩を軽く叩く。しかしその仕草…いつもより柔らかく感じた。
「悪かった、冗談だって」
「もう今日は十分よ」ナイラが裾を翻して離れる。「自分の意識空間で休むわ」
「残されたのは俺一人か」
虚無の空間に独り残され、思考が彷徨う。平凡な日常がジェットコースターのように激変してから数日しか経っていない。
死闘の記憶、負傷、迫りくる危険…しかし奇妙なことに、最も鮮明に残っているのは彼女たちとのこの『狂気の瞬間』だ。
長い間夢想した後、眠りにつくため意識空間の扉に向かう。扉を閉じる直前、唇が独り言をつぶやいた。「二人と出会えたこと…後悔はしてない」
瞼にナイラとリネアの幻影が踊る。完璧な存在:圧倒的な力、危険な魅力、謎に満ちた背景。一方の俺は?平凡な顔と凡庸な能力の普通の少年。流れに巻き込まれたただの十代。
だが…いつか対等になりたい。いやそれ以上―彼女たちが頼れる柱に。「きっと…方法があるはず」静寂を切り裂く呟き。
「ああ、せめて彼女たち並みの顔立ちなら…」幻想の星空に向けた自嘲。苦い笑みを浮かべたまま、睡魔が俺を夢の世界へ引きずり込んでいった。
お疲れ様でした~、第14章はいかがでしたか?
今回の入浴シーン、書いてて「これは完全にサービス回だけど…生理で台無しにするという逆転展開!」と自分でツッコミ入れながら進めてました(笑)。リネアの高飛車な態度がナイラの攻撃で瓦解する流れ、そして「男が生理痛を共有する地獄」というシチュエーション、どうでしょう…? ラノベあるあるのハーレム風呂をぶっ壊した罪悪感と達成感で、深夜のデスク前で一人にやにやしてました。
ナイラの「優しさ」や主人公の「女性の苦しみを初体験」する描写、個人的にはキャラの深みが出たかなと思いつつ、リネアがすやすや寝落ちする一方で男子が悶絶するギャップは書いてて痛快でした。
ところで、この章を書く際、実際にカップラーメンを食べながら「生理痛の共感ってどう表現する?」と友人に相談したら「お前、変態か?」と言われた話は内緒です。ラノベ作者あるあるの悩みですね…!
いつも応援ありがとうございます! 次回は癒しと新たなトラブルの予感が入り混じる