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彼女たちの記憶を共有した俺の異常な日常  作者: るでコッフェ
第一巻
12/94

第12章 俺VS魔物

[……待った。喜ぶのは早い。まだ終わってないわ。ダンバという男の表情がおかしい]

 リネアが念話を送ってきた。


 視線の先を追うと、確かにその男は怒りを滲ませている。左手に何かを隠し持ったまま、獲物を狙う狩人のような構えだ。


[視線を逸らせ。直視するな]

[了解]


 俺たちはさりげなく反撃の策略を練り始めた。油断したふりをして[隙]を作ってやる。


「用が済んだら中へ案内しなさい。客を立たせておくとは何事か?」

 ナイラがわざと軽はずみな口調でガべに命じる。


「かしこまりました、お主様」


 ガべが慌てて部下に指示し、キャンプ最大の建物へ向かう。リネアが入口を通過した頃、ナイラはまだ戸口に残り、俺は完全に取り残された格好に。


 人混みで身動きが制限される状況──ダンバが動くには絶好のチャンスだ。


 彼は隠し持っていたナイフを握りしめ、人々の注意が逸れた瞬間、背後から急接近。


 俺が足を踏み出そうとしたまさにその時、前方の人間を押しのけ、急所を狙って刃物を突きつけてきた。殺意は本物だ。


 復讐魔ではないが、命を狙う輩は許さない。


 刃が肌に触れる直前に素早く回避。右足で左膝を蹴り上げた。若干の私怨もあってか、蹴撃は思いのほか強烈に炸裂。脛が折れ、大腿部が痙攣する音が響いた。


 バランスを失ったダンバが地面に叩きつけられるより早く、俺は足を上げて彼の背骨(胸椎部分)を踏みつけた。


 バキッ!

 鈍い骨砕音が広場に響き渡り、場が水を打ったように静寂に包まれた。


[一撃で脊髄を断絶か。肋骨も粉々でしょうね]ナイラが冷静に分析する。

[あぁ……やり過ぎた]

 この身体の筋力は予想以上だった。戒め程度のつもりが……。


[殺される寸前だったんだぞ? 反撃は当然よ]

 リネアは俺の態度に苛立ちを隠さない。彼女が動いていたら、ダンバは即死していただろう。


[そもそも面識もない。なぜ命を懸けてくる?]

 最近理不尽な襲撃が多すぎる。


[単純よ。恋愛沙汰だわ。あの少女を抱きしめた時の、彼の眼光を観察しなかったの?]

 ナイラが紅玉のような唇を歪ませる。[ダンバは彼女に恋していたのよ]


[……そうか。大切な人を奪われたら、俺だって逆上するかもしれない]


「早く処分しなさい!」ナイラがゲイブに冷たい声を投げつける。

「は、はい……!」


 青ざめたガべが呟く。「今日は警察を呼びつけておいて、今度は暗殺未遂か……この野郎、棺桶に生き埋めにされたいのか?」


 護衛たちがダンバを運び出そうとした瞬間、苦々しい笑い声が地獄の底から這い上がるように響いた。


「お前らが……お前らが俺を追い詰めたんだ……! ハハハ! 皆道連れだ……!」


 素早い手捌きで狼の牙を模した尖った物体を首筋に突き立てる。次の瞬間──


 ドゴォォン!


 黒煙が胴体から迸り、周囲の護衛たちを飲み込んだ。濃密な闇の霧が瞬く間に周囲を支配する。


「ぎゃあああ───!!」


 黒煙の中から肉の裂ける音と悲鳴が共鳴した。第六感が警鐘を鳴らす──この霧には死が充満している。迂闊に近づかず、安全圏から状況を伺う。


「ハク、これ!」


 リネアが投げたナイフを空中でキャッチ。[お前が最速。まず囮で突撃。ダメなら右の建物の隙間へ逃げろ]


 犠牲作戦ではない。俺の機動力なら仮攻撃後の撤退も可能だ。


 霧が薄れると、三メートル級の魔物が現れた。三つの狼頭を持ち、岩肌のような筋肉をした巨体。下半身には不気味な物体がぶら下がっている。


「ははは! 遂に復活したぞ、このジュエル様が! 今度こそ貴様らではこの俺を討てぬ!」


 意味不明の台詞を吐く魔物。周囲の民衆は恐怖に震え、地面にひれ伏している。


 リネアが目配せ。魔物が完全覚醒する前に隙を突け、との指示だ。


 下肢の筋肉を極限まで緊張させる。稲妻のような加速で突進する。一歩ごとに地面が軋むほどの爆発的推進力。


 瞬時に魔物の懐へ侵入。胸元で構えたナイフを右頭部の頸動脈へ向け、跳躍と同時に致命傷を狙って振り下ろす。


 刃が目標まであと数センチのところで、だが魔物が右腕で俺のナイフ跳ね返した。切り払うはずの一撃が逆に衝撃波となって跳ね返され、体勢を崩す。


「無礼者めが──!!」


 魔物の怒号。巨足が俺の転がった地面を蹴り上げる。間一髪で側転し回避──魔物の爪先が髪の毛を掠める。


 這うように起き上がり、右側の建築物の隙間へ全力疾走。だが魔物の追撃は容赦ない。左爪が足首を狙って襲いかかる。


 本能的に左へ飛び込む。爪の一撃は回避したが、勢い余って再び転倒。


(くそっ……このままでは捕まる!)


 俺の体が地面に叩きつけられ、すぐに起き上がれない。魔物の爪が迫る寸前──


 ブオォン!


 ナイラの超低周波攻撃が炸裂。魔物が一瞬ひるんだ隙に、俺は側溝の狭い水路へ身を転がした。


 高さ四メートルのコンクリート水路が墓穴のように魔物の体を拘束。魔物は巨体が塞がれて身動きが取れない。


「喰らえ!」

「もう一撃!」


 短剣で魔物の脚を盲滅法に突きまくる。稚拙な戦術だが、これしか手段がない。


 [あのぶら下がってる部位を切断しろ]リネアの念話が焦り気味。

 [どこだ!?]

 [脚の間の忌々しい物体よ]ナイラが舌打ち混じりに補足。

 [お前ら…それは鬼畜すぎる…]


 俺の息は乱れるが手は止めない。魔物の股間を掠めるように滑り込み──スパッ!


 刃物が根元まで深々と食い込む。


「やめろォォ!! この下等生物がァァ!!」


 絶叫が大気を震わせた。恨みと後悔と絶望が渦巻く、生き物としての尊厳を喪った断末魔の叫び。


「貴様を骨まで溶かしてやる!!」


 魔物の暴走が始まった。暗黒のオーラでコンクリートが崩壊。赤い眼光を煌めかせ、竜巻のように突進してくる。


(クソ! 逃げ場がなくなった!)


 爪が左腕をかすめる寸前で体を捻る。鼓動が喉元まで上がってくる。


 [走れ! 水門が見えたら飛び込め!]リネアの指示が頭に響く。

 [おい! いつまで見てるんだ!?]水門が近づくにつれて俺は叫んだ。

 [準備中よ! あと5秒我慢!]ナイラの声に苛立ちが滲む。


 遠方でナイラが左腕を異形化させている。皮膚が剥がれ、翡翠色に輝く神経毒の槍へと骨格が再構成される──生体兵器の完成だ。


お疲れ様でした、第12章いかがでしたか?

今回の戦闘シーン、書きながら「ダンバさん可哀想だけど…でも魔物化デザイン楽しいな」とか矛盾した感情に囚われてました(笑)


主人公の「戒めのつもりが脊髄ブチ折る筋力」とか、リネアとナイラのコンビネーション、あとナイラの生体兵器化描写が個人的にツボです。暗黒オーラ炸裂の魔物VS下水道での死闘、映像的にカオスでしょ? 執筆中にコーヒーこぼしそうになりながらキーボード叩いてたのは内緒です。


ところで魔物の「脚の間の忌々しい物体」切断シーン、知り合いから「これは過激では?」と言われましたが「いやいやこれは魔物の弱点ですから!」と熱弁した結果生き残りました。読者の皆様の反応がちょっとドキドキ...


次章はいよいよナイラの毒槍と魔物の最終決着! ついでに謎の「ジュエル様」発言の伏線もちょっと顔出します。ではまた来週、水道管に詰まった魔物の断末魔を聞きながらお会いしましょう!


いつも応援ありがとうございます。


(※現在AM3:25。魔物の叫び声が脳内リピートされて眠れないので、俺そろそろ逃走します)

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