表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
相克の双星  作者: 篠崎圭介
王国滅亡の章
10/11

第十話、怒りと選択

 殺気立つレイオウは、握りしめた剣を天高く振り上げた。


震撃波(セスミックブレイク)


 渾身の力で地面を斬りつけると、大地が悲鳴を上げるように砕け散る。その瞬間、亀裂が走り、猛然とアーノルドへ向かって進んだ。

 その亀裂はジンの足元を掠め、アーノルドの真下で静止する。


「ーーこれは」


 目を見開いたアーノルドの脳裏に、警鐘のような電流が走る。次の瞬間、彼は直感的に横へ跳躍した。


 ーー轟音がなる。


 亀裂の底から、岩すら砕く爆発が噴き上がった。衝撃波が辺りを蹂躙し、瓦礫が宙を舞う。

 寸でのところで回避したアーノルドは、尻餅をついたまま、爆発した地面を見つめる。


 その隙に、ジンはレイオウのもとへと走り寄り、並んだ。


「下がれ、ジン」

「しかし……」


 レイオウの一言にジンは言葉を詰まらせる。

 しかし、レイオウが顎で示した先を目で追うと、瓦礫の影に倒れ伏す人影があった。


 ジンは迷わず走り出す。


「フレッ……クス。ーー起きろフレックス!」


 瓦礫の間に横たわるのは、血に濡れたフレックスだった。

 ジンは両肩を掴み、何度も揺さぶる。


「おい、起きろよ!」


 しかし、フレックスは応えない。沈黙だけが広がる。

 ジンの手の力が次第に抜け、やがて、彼の体から離れた。


「ピンチの時は助けに行くって……約束、まだ守れてないだろ」


 絞り出すような声で呟くジン。その奥歯がギリリと鳴る。

 震えるほどに握りしめた拳から、治りかけの傷が裂け、血が滴り落ちる。


 その拳で、地面を一撃。


「くっそ……」


 うずくまるジンの肩が、小刻みに震えた。

 静寂の中、彼の涙が土を濡らしていく。


 そこへ、レイオウの声が響いた。


「ジン、フレックスから伝言がある」

「伝言……?」

「ジンによろしく、と言っていた」

「よろしく……ですか」


 ジンはゆっくりと立ち上がる。


「フレックスは、お前に託したんだ。この国を」

「国を……」


 呟くジンの足が、次第に前へと動き出す。

 やがて、その歩みは駆け足へと変わり、彼は一直線にアーノルドへ向かった。


「ジン、ーー何をしている!」


 レイオウの制止の声も届かない。

 アーノルドも気づき、疾風の刃を放つ。しかし、ジンはそれを弾き飛ばし、負傷した体を省みず、突き進む。


「このバカが……うぐっ!」


 ジンの手がアーノルドの首を掴み、その勢いのまま地面に叩きつけた。

 アーノルドは抵抗するも、ジンの力は強く、首を締め上げられていく。


「お前が――フレックスをやったのか!!」

「やってねえ……よ」


 ジンは片手で剣を構え、アーノルドの首元に突き立てようとする。

 だが、アーノルドは反射的に手で剣を押さえ、必死に阻止した。


「お前だろ、ーー答えろ!!」

「だから……俺じゃ……ねえ……よ」


 剣先が震えるほどの拮抗する力。

 その時、レイオウの静かな声が届いた。


「ジン。そいつが言っているのは本当のことだ」


 ジンは目を見開いた。

 レイオウは淡々と続ける。


「フレックスをやったのは、近くで倒れているあの男だ」

「近くの男……?」

「だが聞け。フレックスは負けたわけではない。最後の力を振り絞り、奴を倒したのだ」


 ジンはゆっくりと視線を移す。

 倒れているクライの姿を捉えた瞬間、彼の瞳に怒りが宿った。


「あいつが……」

「離せよ」


 一瞬の隙をついたアーノルドは、膝を折り曲げてジンの腹部を蹴り上げた。

 ジンは後方へ吹き飛び、着地するも、すぐに構え直す。


 アーノルドは咳き込みながら立ち上がり、言った。


「オッサンの言う通りだ。俺は依頼されたこと以外、基本的に殺しはしない」

「だが、あいつはお前の仲間だろ」

「知らねえよ。あんなやつは仲間じゃない。目的が多少被ってるだけだ」

「俺からすれば、敵であることに変わりはない」


 ジンは一気に駆け込み、剣を振るう。

 それに呼応するように、アーノルドも剣を交えた。


 互いの刃が火花を散らす。

 しかし今回は、怒れるレイオウが参戦した。


 二対一となった戦況は、一気にアーノルドが劣勢となった。

 ジンの一撃がアーノルドの体を捕らえ、彼は後方へ吹き飛ばされる。

 地面に倒れたアーノルドが起き上がろうとした瞬間、鈍色の剣先が彼の顔を掠め、地に突き刺さった。


 息を呑むアーノルド。


「アーノルド、終わりだ」


 ジンが剣を握る手に力を込める。


 ーーその時。


 静寂を破るように、拍手が鳴り響いた。

 続いて、艶やかな女の声が響く。


「はいはーい。お疲れさま」


 ウェーブのかかった長い紺髪の美女が、悠然と歩み寄る。


「やっと来たのか。遅えぞ」

「あんたこそ、ここで何遊んでんの」


 新たな敵の出現に、ジンとレイオウは警戒し、剣を握る手に力を込めた。


「お前は誰だ」

「私?  知りたいなら教えてあげる」


 女は妖艶に微笑む。


「シェイロン・フューリットよ」


 その名を聞いたレイオウが僅かに眉をひそめる。


「聞いたことのない名だな」


 シェイロンは小さく笑い、上空に手を翳した。

 そして、その腕の中に落下して収まったものを見せつける。


「あなたの。王様の赤子よ」


 その言葉に、ジンとレイオウの瞳が揺れた。その様子に魅惑的な微笑を浮かべるシェイロンに、アーノルドが苛立った声を漏らす。


「さっさとしろ、シェイロン」

「はいはい。じゃあ……私の好きなタイプなそこの兵隊さんに、判断してもらおうかしら?」

「……俺にか」


 ジンは鋭い視線をシェイロンに向けたまま、アーノルドの首筋へと剣先を押し当てる。しかし、シェイロンはその圧をものともせず、悠然と語りかけた。


「その男を斬り殺せば、赤子が死ぬ。王様が死ねば、この赤子は生かしてあげる」

「二択だと……?」

「ええ。単純な選択よ」


 シェイロンは軽やかに片手を翻すと、赤子を抱え直す。彼女の腕に包まれた小さな命は、無垢なまま、何も知らずに微かな息を立てていた。


「王はそこから動かないでね。動けば、この子は死ぬわよ」


 レイオウの目が鋭く細められる。しかし、彼の体は微動だにしなかった。彼はわずかに足を踏み出そうとしたが、それを見逃すシェイロンではない。


「動いたら、この子の喉を裂くわよ?」


 レイオウの足が止まる。


 ーー沈黙。


 張り詰めた空気の中、シェイロンは再び妖艶に笑みを浮かべ、ジンへと視線を戻した。


「さあ、兵隊さん。どっちにする?  赤子か王か、どちらを死なせたい?」


 ジンは剣を握る手に力を込めた。鋭く息を吐き、額に浮かんだ汗が頬を伝う。

 最悪の二択が、彼の前に突きつけられた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ