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第12話 簡単ハッシュポテト

週間ハイファンタジー76位!!

なんとか入ることができました。

新作苦戦しておりますが、引き続き更新していくので応援よろしくお願いします。

(どうして、わしが獣人のためにレシピなど作らねばならぬのだ)


 フェリクスが思い描いていた作戦はこうだ。

 獣人に野菜を強要することによって、ルヴィンにヘイトを向ける。

 孤立化したルヴィンに、セリディア王国にしか戻る場所がないことを認識させ、帰還を促すというものだった。


 まさかルヴィン自身が獣人に野菜を食べさせるために積極的になるとは思ってもみなかったが、フェリクスにとっては好都合であった。


(このまま野菜料理を作らせ続け、獣人の反感が王子に向かえばいいのだ。むしろ本人がやる気になっているのはプラスの材料と考えればいい)


 炊事場でレシピを考える振りをしつつ、フェリクスは一旦頭の中を整理する。

 すると、やる気満々のルヴィンが紙に書いたレシピを、フェリクスに掲げた。


「どうでしょうか、フェリクス司祭」

「アンティチョクに、クダンネギ? ホワイトバラガラスまで! 高級食材ばかりではないか!?」

「いっそのこと高級な野菜ばかりをみんなに食べさせて、野菜のおいしさを知ってもらおうと」

「馬鹿者!」


 フェリクスは思わず怒鳴ってしまった。


「おいしさの基準というのはな。人が毎日食べ慣れているものの中にこそある。高級食材など以ての外だ。むしろ野菜嫌いを助長することになるやもしれんぞ」

「た、確かに……」

「そもそも食生活を改めるのは、何も王宮で働く獣人たちだけではなかろう。国全体の見直しが必要なのだ。庶民が手に届かない食材を使ってどうする?」

「というと、どういう食材ですか?」

「たとえば馬鈴薯などの芋類だな。玉葱や玉蜀黍でもいい。ともかく安くて、手に入りやすいものから広めていくのだ」


 そこまで説明して、フェリクスは自分でも何を喋っているかわからなくなってきた。こんなことをレクチャーするためにやってきたわけじゃない。王子と2人っきりの今こそ、話術によって精神的に追い詰め、セリディア王国への帰還を促す絶好の機会だというのに、いつの間にか野菜の良さについて力説していた。


「最近王宮の料理ばかり作っていたから、庶民の味を忘れていました。馬鈴薯なら、みんな食べてくれるかも」


 ルヴィンは炊事場を飛び出すと、すぐに戻ってきた。

 どうやら食料庫に行っていたらしく、馬鈴薯を木箱ごと運んでくる。

 早速、馬鈴薯を皮ごと茹でていく。茹で上がったら皮を剥き、ボウルに入れてフォークで潰し始めた。


 手慣れたルヴィンの動きに、フェリクスは思わず感心する。

 司祭となるためには、教会の学校を卒業する必要がある。基礎的な勉学はもちろん、魔術や土木技術、畜産、農業、ワインの作り方など、カリキュラムは多岐に亘る。特にフェリクスは料理と医療に秀でていた。


 自分も少し料理を囓ったからわかるのだ。

 ルヴィンの動きが、まるで熟達した料理人のようであることを。


「王子は【料理(レシピ)】というギフトをお持ちだと聞きました。何故、ギフトを使って、獣人でも食べやすい野菜料理を考えないのですか?」

「残念ですが、【料理(レシピ)】そこまで万能ではありません。あくまで僕がその姿をイメージできるものに限られるんですよ」

「イメージできるもの?」

「すみません。僕もいまいちこのギフトのことがまだわかってなくて」


 そうですか、と返事してから、フェリクスは個人的に気になっていたことをルヴィンに質問した。


「王子は【万能】を失った。同時に立場と地位を失ったとうかがいました。呪いをかけた者、あなたのもとから去っていった者に復讐しようとは思わないのですか?」

「へっ? 思いませんけど……」

「何故?」

「呪いをかけた者はすでに刑罰に処されました。離れていった人は僕自身に興味はなく、【万能】のギフトに興味があった。【万能】がなくなれば、離れていくのは当然です」

「それは本音ですかな?」

「復讐心がまったくないわけではないです。王宮にいる時は、1日の中でほんの数秒考えたことはあります。でも、それは僕がやりたいことじゃない」

「あなたがやりたいこととは?」

「みんなを幸せにしたいことが1番やりたことだとすれば、復讐は一番下、二番目でしょう。この国にも、僕にも他にたくさんのやるべきことがあります。それすべてを成し遂げれば、もしかして考えるかもしれません」


 やりたいけど、他にやるべきことがあってできない。復讐を肯定するでも、否定するでもない。事実上不可能だとルヴィンが答えたのを見て、王子が普通の子どもでも、ただの偽善者でもないことをフェリクスは理解する。


(わしはどうだ? 王子のようにやりたいことをやってきたのだろうか)


 料理をする若い王子を見ながら、フェリクスは考えさせられるのだった。



 ◆◇◆◇◆



 次の日……。

 僕はフェリクスさんと獣人の村落を訪れた。

 簡易的な木の柵に、木製の家が建ち並ぶ、人口50人にも満たない小さな村落。

 獣人たちは最初こそ警戒していたが、小太鼓を叩くと物珍しそうに家から出てきた。僕が持ってきたものから良い香りがするらしく、鼻を近づけてくる。


「よってらっしゃい食べてらっしゃい。新作料理の試食会だよ」


 声を上げると、後ろで同じく小太鼓を叩いていたフェリクスさんが、気恥ずかしそうに頬を染め、僕に耳打ちする。


「王子、これはどういうことですか?」

「どういうことって……。フェリクスさんが言ったんですよ」

「はっ?」

「食生活を改めるのは、王宮の人だけじゃなくて、庶民も同じだと」


 そのために僕はある新作料理を用意してきた。

 早速、みんなの前で披露する。


「さて皆様、お立ち会い。今日ご紹介する料理はこちら」


 銀蓋を開くと、狐色に揚がったコロッケが姿を現す。

 普段、茹でたお肉、焼肉がメインな獣人たちにとって揚げ物自体が珍しい。

 コロッケが食べ物であることすら、わかっていないようだった。

 でも、ふんわりと香る牛酪の匂いに反応し、獣人たちは尻尾を振る。


 僕の周りに好奇心旺盛な獣人の子どもたちが集まってきた。


「まだ熱いから気を付けて」


 食べ方を教えてあげた後、葉に挟んで、子どもたちに配っていく。

 子どもたちは早速口をつけた。


「おいしい!」

「うめぇ!!」


 みんな、目を輝かせる。


「嘘だろ? これが馬鈴薯?」

「あれって植物の根だろ? 食べられるの?」

「ホクホクしてて、あま~い」


 衣の中に隠れていたものに気づき、獣人の子どもたちは目を丸くする。

 中に入っているのが、馬鈴薯だと聞いて、驚いていた。

 馬鈴薯は熱を入れると、とても甘くなる。

 生野菜が中心の獣人にとって、驚くべき事実なはずだ。


 おいしそうにコロッケを頬張る子どもたちを見て、遠巻きに様子をうかがっていた大人たちも近寄ってくる。コロッケを1つ食べると、子どもたちが同様目を輝かせた。コロッケのおいしさに一瞬にして鷲掴まれると、次々とコロッケを求めて手を伸ばしてくる。


 気が付いた時には、持ってきたコロッケはなくなっていた。

 獣人たちはすっかりコロッケの虜だ。元々食欲が旺盛な種族だから、コロッケの1個や2個では収まらないだろう。

 そこで僕は試食会第2幕を始める。実演によるコロッケ製作だ。



 ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 馬鈴薯コロッケのレシピ


 ① 馬鈴薯を皮ごと茹でる(竹串がスッと刺さるまで)

 ② 茹で上がったら、熱いうちに皮を剥き、器に移してフォークで潰す。

 ③ 塩、粉チーズ、牛酪を加えて、味を調え、しっかり混ぜる

 ④ 馬鈴薯を一口大に丸め、平たく成形する。

 ⑤ ④の馬鈴薯を小麦粉、溶き卵、パン粉の順番にくぐらせ、あるいはまぶす

 ⑥ 鍋に油を入れる。高温になったら⑤を投入する。

 ⑦ 片面が狐色になったらひっくり返し、両面がサクッと上がるまで揚げます。

 ⑧ 余計な油を切り、お好みのソースをかけて完成。


 ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~



「おお~」


 狐色に揚がったコロッケを見て、獣人たちから歓声が上がる。

 熱々のコロッケは見てくれから香ばしく、食欲をそそられる色をしていた。

 獣人たちは鼻を仕切りに動かしながら、尻尾や耳をぴょこぴょこ動かしている。


 僕が王宮で揚げてきたコロッケとは違って、揚げたては魅力的だ。

 早速、獣人たちは口にすると、あちこちでサクッといい音を響かせていた。

 作っている僕もお腹が空くぐらい良い音だ。


「作り方も簡単だから、是非作ってみて」


 僕は馬鈴薯と一緒にレシピを書いた紙を獣人に渡す。

 早速、自分たちで作ってみるらしく、家の台所に駆け込む獣人も少なくなかった。


「うちは貧乏なので、油が貴重なんです」


 確かに油は庶民にとって高価な代物だ。特に食用油なんか手に入りにくい。調味料という括りでは胡椒の次ぐらい貴重だろう。コロッケのような油を使う料理では、庶民に浸透するのはまだ難しいかもしれない。


「ならば油を薄く引いて、衣をつけずに焼けばいい」

「フェリクスさん……?」


 フェリクスさんは自ら鍋の柄を掴んで、実演する。

 先ほどマッシュした馬鈴薯をさらに薄くする。

 少量の油を引いたフライパンの上に、今度は衣をつけずに焼き入れていく。

 両面がカラッと焼けたら、皿に盛りつけた。


「ハッシュポテトの出来上がりじゃ」


 獣人たちは早速試食すると、再び目を輝かせる。

 僕も1つもらうことにした。


「おいしい!」


 焼けた表面のパリッとした食感がたまらない。

 やわらかかったポテトが、カリカリに焼けて、口の中でザクザクと音を慣らす。

 なんて気持ちいい食感だ。噛むのをやめられないよ!


 こんがりと焼いたことで、香ばしい風味まで加わっている。

 材料は同じなのに、コロッケとはまた違った味わいに素直に感心した。


「馬鈴薯に慣れたら、玉葱をみじん切りにしたものを加えるといい。玉葱も熱を持つと甘みが増すからな。馬鈴薯とい…………なんじゃ、その目は」

「感心してるんです。すごいです、フェリクスさん。こんなおいしい料理を作れるなんて」

「こ、こんなもの料理の範疇に入らぬわ」


 フェリクスさんはそっぽを向く。

 そこに獣人の子どもが集まってきた。


「おっさん、ありがと」

「おじさん、ありがとね」

「おいしかった~」

「また料理を教えてね~」


「無闇に近寄るな蛮人ども! あとおっさんと言ったヤツは誰だ。無礼だぞ!」


 フェリクスさんが拳を振り回す。けれど獣人の子どもたちはキャッキャと喜んでいた。遊んでもらえると判断したらしく、フェリクスさんの周りを歩き始める。本人は戸惑っていたけれど、なんだか楽しそうだった。


「王子、なんとかしてくだされ」

「やっぱり……」

「な、なんですか?」


 フェリクスさんはとってもいい人だ。

 だって、こんなに子どもに好かれているんだから。


ハッシュポテト食べたくなった……。


作者と同じことを思った方は、是非ブックマークと後書き下部の☆☆☆☆☆を★★★★★にして貰えると嬉しいです。創作が捗りますので、よろしくお願いします。

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