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第6話 帰ってきた騎士団長(前編)

今日も頑張って2本更新したい!

みなさま、応援よろしくお願いします。

 獣人の王国で、僕は料理長となった。

 当初は冗談だと思っていたけど、バラガスさんは本気らしい。

 公式の場では、僕が料理長となり、女王陛下――つまりアリアの献立も僕が考えるし、国賓が訪問される場合も僕がもてなすことになる。

 僕は6歳だ。さすがに公式の場で紹介されるのは不味いんじゃないかと思ったけど、バラガスさんは「獣人の料理長も結局舐められる」と言っていた。誰が料理長になろうと、対外的には変わらないのだそうだ。


 心の整理はまだできていないけど、存分に料理が振るえることは素直に嬉しい。

 炊事場には一通り道具が揃っているし、バラガスさんも鬣犬族のジャスパーもフィンも協力的だ。食糧難が続いているので、備蓄が心許ないけど、王宮にいる時のことを思えば、はるかに自由度が高い。


 そうはいっても、毎日の献立を決めるのは大変だ。

 食料庫に残った備蓄を睨めっこし、アリアを含む各要人の好みと嫌いなものを把握しながら、悪戦苦闘の毎日が続いている。


 そんなある日のことだ。

 朝、炊事場に出勤すると、バラガスさん、ジャスパー、フィンが集まっていた。

 今はまだ陽が明けきらない時間帯。バラガスさんはともかく、出勤時間ギリギリしかやってこないジャスパーとフィンまで揃っているのは、珍しいことだった。


「おはようございます、みなさん」

「おう。おはようございます、料理長」

「ギィギ!」

「ギギッ!」


 挨拶を返してくれる。

 ちなみにジャスパーもフィンも人語が苦手らしい。

 聞き取ることはできるみたいだけど、喋るのがあまり得意じゃないようだ。

 もしかしたら声帯が人語のものに対応していないのかもしれない。


「料理長、ちょうどいい。今日予定していた献立は全部キャンセルだ」

「え? もしかして急なお客さんですか?」

「騎士団が帰ってくる」


 エストリア王国には女王直属のエストリア王国騎士団がいる。

 そのほとんどが、以前アリアの率いていた獣人傭兵団『番犬(ドーベル)』に属していた傭兵たちだ。その名はなくなった今でも、騎士団は傭兵稼業を続けている。『番犬(ドーベル)』の強さは、大陸全土に知れ渡っていて、魔獣の討伐から要人護衛までひっきりなしで依頼が入ってくるらしい。今ではエストリア王国の貴重な外貨獲得手段なのだそうだ。


 その騎士団たちが、南の魔獣討伐から4カ月ぶりに帰ってくるという。


「なら、おいしい料理で労わないとダメですね。献立を今すぐ変更しましょう。まずは騎士団長さんの好物を教えてください」

「なんでも食うな。好みっていう話なら、アリア女王だろうな。あいつの忠誠心は半端ねぇから」

「忠誠心?」

「昔、人間に捕まったことがあってな。だけどあいつ、拷問されても一切情報を吐かなかったんだ。敵も舌を巻くほど、忍耐強かったらしい」


 拷問に耐えるなんて。本当にすごい人なんだな、騎士団長は……。


「料理長は騎士団長に会わない方がいいかもな」

「え? どうしてですか?」

「拷問されたせいで人族が嫌いなんだ。最悪、料理長を襲うかもしれねぇ」


 セリディア王国が獣人たちを嫌うように、獣人の中に僕たち人族を嫌う人がいるのは当然だろう。エストリアの王宮にいて、今のところ身の危険を感じたことがないぐらい獣人たちは紳士だ。アリアの統率が行き届いている証拠だろうけど、騎士団長さんみたいな人がいても、なんらおかしくない。


「ずっとってわけにはいかないけどよ。徐々に慣れさせて、その時に紹介するから。今回はあっしが対応すっから、料理長はどこかに隠れててくれ」

「わかりました。バラガスさんがそういうなら」


 予定を変えて、僕たちは騎士団用の献立を作り始める。

 その彼らがエストリア王国の王宮に凱旋したのは、ちょうど昼前だった。


 王宮の城門が開くと、続々と騎士たちが入城してくる。

 中には痛々しい傷を負った獣人もいたけど、全員が手を振って歓声に応えていた。

 花吹雪と拍手にまみれ、1番目立っていたのは火蜥蜴族の身体に、風見鶏族の翼を生やしたハーフの獣人だ。


「あれが騎士団長さんか」


 エストリア王国の騎士団長にして、軍指令官リース・ヴォルデアさんだ。

 赤く溶岩が冷えて固まったようなゴツゴツした肌に、角の間で揺れる灰色の髪。ガッチリとしていて、如何にも騎士然とした体格をしている。琥珀色の瞳は鋭い一方、真っ白な翼と、ドラゴンの尾という組み合わせは僕の目には珍しく映った。


 王宮の中では、アリアが帰還した騎士団を迎えた。


「ご苦労だったね、リース。首尾はどうだった?」

「上々にございます、女王陛下。南にいる魔獣どもを駆逐してきました。領主殿も大変助かったと申しておりました」

「それは良かった。……でも、まさかまた作戦を忘れて、無茶な突撃をしたりしてないよね」

「ご心配をめさるな、女王陛下。作戦を完璧に遂行したであります」


「うそつけ!!」


 リースさんの頭をはたいたのは、その横に座った副官だ。

 綺麗な水色の翼に、猛禽のような鋭い爪が付いた足。風の精霊の祝福を受けたような緑色の髪は綺麗で、目は翼と同じくサファイアみたいに輝いている。


 バラガスさんの話では、騎士団の副官で名前はサファイア。

 ハーピー族との話だけど、彩色がとにかく派手だった。


「この天然鳥頭! もう忘れたんか? あんた、途中で作戦を忘れたやろ」

「そうだったっか? しかし魔獣を無事駆逐できたのだから良いではないか?」

「アホ! あんたがまた不用意にツッコんだおかげで、こっちに損害を与えてしもうたんやないか!!」

「何!? 誰がそんな損害を……。おのれ、許せん!」

「お前じゃぁぁぁああああああ!!」


 突然リースさんとサファイアの漫才(かけあい)が始まる。

 リースさんの天然鳥頭と、キレのいいサファイアさんのツッコミが、しばらく謁見の間に響き渡った。同席していたバラガスさんが爆笑すれば、マルセラさんは頭を抱えている。アリアもその1人だ。仲間の失敗に寛容なアリアも、さすがにかばい切れないらしい。


「詳しい報告は後で聞くよ。バラガスがおいしい料理を作ってくれた。腹ごしらえして、あとで反省会をしよう」

「お待ちを、女王陛下。その前に王宮に入り込んだ賊を捕まえてみせましょう」


 瞬間、リースさんの姿が消えた。その様子を離れたところからうかがっていた僕だったけど、不意に大きな影が頭上をおおう。振り返ると、真っ白な翼を広げたリースさんが立っていた。


「何故、こんなところに人族の子どもがいるのですかな?」


 硬い鱗から匂い立つ強者感。

 僕を睨む琥珀色の瞳からも、濃い殺気があふれていた。

 先ほどまでサファイアさんと、喜劇を演じていた獣人と同一人物とは思えない。

 人族を前にした復讐の鬼が立っていた。


「まずい! ルヴィンくん!!」

「料理長がやべぇ! おい。リース、その人はな」


 アリアとバラガスさんが慌てて近寄ってくる。

 でも、もう遅い。リースさんは手を開くと、僕に向かって振り下ろした。


「一体、どうしたのだ、子どもよ。迷子なのか? 父と母はどうした?」


 リースさんは涙目の僕の頭を撫でる。

 どうやら僕を王宮に紛れ込んだ迷子だと思っているらしい。

 親身になりながら、僕の両親について尋ねた。


 なんか聞いているのと、全然違うんだけど……。


「驚かすなよ、リース。てっきりあっしは、お前が人族に恨みを抱いてて、料理長を食っちまうんじゃないかと思っちまったよ」

「うん? 人族に恨み……? なんのことだ?」

「おいおい。もしかして拷問されたことも忘れちまったんじゃねぇだろうな」

「??」


 リースさんは首を75度傾ける。

 どうやら、拷問されたことも忘れているらしい。

 このぶんだと、拷問された時に情報を吐かなかったのは、単純に忘れていただけなんじゃ……。この人が騎士団長で大丈夫だろうか。悪い人ではなさそうだけど。


「リース、改めて紹介するよ。その子はルヴィンくん。僕が今もっとも信頼する女王の料理番だよ」

「一応料理長で、女王の料理番を務めているルヴィンです」


 僕は手を差し出す。

 しかし、その手が握られることはなかった。

 何故なら、リースさんはこの時、最大級に燃え上がっていたからだ。

 琥珀色の瞳はつり上がり、威嚇するが如く白い翼を広げる。

 まるで闘鶏だ。


「アリア女王陛下、先ほどなんと言いましたか?」

「え? だから、ボクが今もっとも信頼する料理番!!」

「なんですってぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!!!」

「ぉぉおおおおんん?? なんでなんで? どうして怒ってるの、リース」

「違います。違うのです」

「な、何が?」

「女王陛下がもっとも信頼するのは、この我が輩でなければならないのです」

「え……。えええええええええええええ!!」


 リースは怒っていた。横でサファイアさんが落ち着けと言葉をかけていたけれど、まったく気にしない。ただ瞳を鋭く尖らせ、全身の魔力を解放する。毛穴から赤い魔力が吹き出し、それがまるで怒りの炎のように見えた。


 そんなリースさんは僕を睨む。

 鷲のように先が曲がった爪を僕に向けると、こう言い放った。


「決闘だ!! ルヴィンくん、どっちが陛下にふさわしいか勝負しようじゃないか!!」


 僕と、リースさんが、け、決闘????



 ◆◇◆◇◆



 セリディア王国元王子vsエストリア王国騎士団長リースの決闘は、瞬く間に王宮中に広まった。アリアによって喧嘩は御法度となり、普段は静かに過ごすことが多い獣人たちは、決闘と聞いて血をたぎらせる。


 普段一体どこに潜んでいるのかわからないほど、王宮のあちこちから家臣たちが現れると、舞台となった王宮の庭園に集まった。当然のように賭け事が始まり、貨幣だけではなく、食糧や珍しい形をした石、戦場で拾ったと思われる年代物の剣といった物品が堆く積み上がっていく。

 人族もそうだけれど、賭け事は獣人の間でも娯楽として親しまれているようだ。


 異様な盛り上がり方に驚いていると、アリアが声をかけてくる。


「ルヴィンくん、何もこんな決闘なんて受けなくてもいいんだよ。ボクがルヴィンくんと仲良くしろって話せば、リースは仲良くなってくれるよ」

「それはアリアが命令したからであって、本当にリースさんと仲良くなれたわけじゃないから。それにずっと引っかかってたんです」

「何が?」

「人族は昔から獣人を迫害してきました。僕も人族です。たとえ女王の料理番だとしても、納得のいかない獣人は必ずいると思うんです」

「だから、決闘を受けたの?」

「これがエストリア王国のやり方なら」

「ルヴィンくんって、結構勇ましいところがあるんだね。惚れ直しちゃった。頑張ってね」


 アリアはポンと僕の頭を叩くと、貴賓席に着席する。


 勝負は3本。2本先取した方が勝ちだ。

 1本目の勝負は、筆記試験。内容は歴史、文化、軍事、算学などの一般教養らしい。騎士団の入団試験に使われているという。どんなレベルの問題かは知らないけど、勉強は得意な方だ。大人が解くような問題を解いて、驚かせたこともあった。


「この勝負どう思いまっか? 解説のマルセラはん」

「ただ横に座っただけで、解説役にしないでください、サファイア」

「硬いこと言いっこなしや。で――マルセラはんの読みは?」

「ルヴィンくんの勝ちでしょう。そもそも相手がある意味悪い(ヽヽ)

「そうやあな。リースは鳥頭やし。元々頭が悪い(ヽヽ)し」


 いつの間にか実況・解説となったサファイアさんと、マルセラさんが予想する。

 賭けの予想もどうやら僕が優勢らしい。しかし、そんな中――リースさんの高笑いが、王宮の庭園に響き渡った。


「笑止!! 我が輩が何もしていないとお思いか!? こんなこともあろうかと、事前のテストを入手しておいたのだ!!」


 リースさんは試験用紙と思われる紙を掲げる。


「ええっ! そんなことをしていいの?」

「甘いな、ルヴィンくん。勝負とは始まる前から始まっているのだよ」

「いや、でもそれって立派な不正だよね」

「問答無用! はじめ!!」


 本当に始めちゃったよ。なんでリースさんが開始時間を決めるんだ。

 いや、ここは一旦落ち着こう。動揺していては、できるテストもできなくなる。

 これはテストだ。満点を取れば、少なくとも引き分けに持ち込める。幸い難易度はそんなに高くない。いける……!


 冷静さを取り戻した僕は、チラリと隣を見る。

 リースさんが腕を組んだまま椅子に座っていた。

 そんな! もう解答したのか。早い早すぎるよ!


「…………答えを忘れてしまった」


 ずごぉぉぉぉおお(ルヴィンが盛大にこける音)!!


「なんと! 結局リースは鳥頭だったぁぁぁああああああ!!」


 こうして1本目の勝負は、僕が勝利したのだった。


こういうキャラ好き。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

作者特有のおバカキャラが出てきたぞ、と思っていただけたら、

ブックマークと 後書き下部の☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけると、泣いて喜びます。

読者のみなさまで作品を盛り上げていただけると嬉しいです。

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