最強と最高
「私の勝ちだよ、誠くん」
誠也は今の状況が信じられなかった。
自分よりもLVが低く、スキルの数と戦闘経験が少ないはずの聖火。
そんな彼女に誠也は負けた。
「なんで……俺が負けた」
身体から発生していた赤黒い炎は消え、誠也は座り込む。
負けて悔しいという気持ちはなかった。
ただ単純に驚きを隠せなかったのだ。
誠也は今まで強くなるためLV上げやスキル獲得、モンスター討伐をしてきた。
それなのに負けたのだ。
「確かに誠くんは強いよ。人間の中で最強と言っていい。だけどね……最高じゃない」
「最高じゃ……ない?」
聖火の言っている意味が分からず、誠也は首を傾げる。
「言い方は悪いかもしれないけど、誠くんには戦う才能なんてこれっぽっちもないんだよ」
「ッ!」
「誠くん。なんで生まれた時から持っていた自分のスキルが【鍛冶師】なのか知っている?」
「……知らない」
「それはね……誠くんが武具や防具を作る才能があったからなんだよ」
「!!」
「スキルってのは本来……その人がどんな才能があるかによって変わるの。分かりやすく言うと誠くんは【鍛冶師】と相性がよかった。だから生まれた時から持っていたの」
「そう……なのか」
「誠くんはダンジョンをクリアして、色んなスキルブックを手に入れて強くなったんだろうけど……君は最高の戦士にはなれない」
「……どうして?」
「さっき言った通り才能がないから。そして誠くんはどれかを極めようとしなかった」
「極めなかった?そんなはずはない。だって俺は鍛冶を……」
「そう。極めたのは鍛冶。だけど戦闘系スキルは極めてないんじゃないの?」
「!!」
「誠くんは今まで強力なモンスターを倒せていたのは、あらゆる手札でゴリ押ししていたから。化物クラスのLV、あらゆるスキル、一級品の防具と武具……そのおかげで勝てていた。だけど……それは最強の戦い方であって、最高の戦い方じゃない」
「……」
「最高はね……一つのスキルを極めるの。一つのスキルを才能と努力、そして技術で最大限発揮させるの。私が極めたのは【槍術師】。もう一つのスキル【火炎術師】は【槍術師】の能力を高めるものとして使っているの」
誠也は聖火の言いたいことが理解できた。
確かに誠也は最強だ。
高いLV で多くのスキルを持ち、一級品の武器や鎧を装備しているのは彼しかない。
だが彼は【鍛冶師】以外でスキルと技は極めていない。
ただスキルを使っていただけ。
そして才能はなく、努力と経験で何とかしてきた。
だが聖火は違う。
LVは低く、スキルは二つしか持っていないが、才能があった。
その才能と一つのスキルを努力で磨き上げ続けていたのだ。
言うなれば……達人。
あらゆるものを利用して戦う最強と違い、一つのことを極め続けてきた最高。
だから誠也は聖火に負けた。
「……完敗だ。反論する気もわかない」
「フフフ。まぁ……でも、誠くんはそのままでいいと思う。あらゆるものを利用して戦うからこそ、誠くんは強いんだと思うし……それより、これで私も悪魔討伐に行っても問題ないってことになったよね?」
「ああ……本当は嫌だけど、ここまで強いなら問題ない」
「やった!」
小さくガッツポーズをとる聖火。
そんな彼女を見て、誠也は心配な気持ちになると同時に心強いと思った。
「ところで聖ちゃんはどれくらい極め続けているの?」
「ん?」
「確かに聖ちゃんに才能がある事も、努力してきたのもわかる。だけどあの強さは十年や二十年ってLVじゃない。少なくとも百年……いや、数百年以上は修行しないと」
「フフフ……それはね」
聖火は微笑みながら、唇に人差し指を当てる。
「ナ~イショ♡」
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