水族館デート
翌日。
誠也は聖火と共に水族館にやってきていた。
水槽の中を泳ぐクラゲを見て、聖火は楽しそうに笑う。
「見てみて、誠くん!このクラゲ、プリンみたい」
「それはプリリンクラゲだった気がする。プリンみたいな味がするって、聞いたことがある」
「へぇ~食べられるんだ」
興味深そうにクラゲを見つめる聖火。
いつもならワンピースのような可愛らしい服装なのだが、今日はボーイッシュコーデ。
Tシャツにワイドパンツ、そしてスニーカー。
別の意味で彼女の魅力を引き出していた。
「どうしたの、誠くん?私のことを見つめて?」
「あ、いや……いつもと服装が違くて、その……見惚れてた」
「フフフ。ありがとう。たまにはこういうのもいいかなって思ったの」
「そうなのか」
「ねぇねぇ次……あっち行こう」
聖火は誠也の腕と組み、歩き出す。
彼女の柔らかな胸の感触が腕に伝わり、彼は顔を赤く染める。
「せ、聖ちゃん。胸が当たってる」
「誠くんをドキドキさせたくて、当ててるの。いや?」
「い、いやじゃない」
「ならよかった」
いたずらに成功した子供みたいに笑う聖火を見て、誠也は素直に可愛いと思った。
<><><><>
「わぁ……くすぐったい」
誠也たちがやってきたのは、ドクターフィッシュという小さな魚がたくさん泳いでいる水槽がある場所。
その水槽に手を入れることができ、聖火は自分の手を入れていた。
たくさんのドクターフィッシュが聖火の手に集まって、パクパクと口を動かしている。
「誠くんもやってみなよ。くすぐったくて、気持ちいよ」
「そうだな。面白そうだし」
誠也は水槽の中に両手を突っ込んだ。
すると大量のドクターフィッシュが彼の両手に集まった。
突然の事に彼は目を丸くする。
「うわっ!な、なんでこんなに集まって」
「ドクターフィッシュってゴミを食べてくれる魚だから、誠くんの手がきっと汚れてるんだよ」
「嘘でしょ?地味にショックなんだけど」
<><><><>
次にやって来たのは、イルカショー。
可愛らしいイルカが何度もジャンプする。
それを一番前の席で誠也と聖火は見ていた。
「わぁ~すごい!」
「なぁ聖ちゃん。なんでわざわざ一番前の席でイルカショーで見るんだ?濡れるぞ」
「大丈夫。ここのイルカショーは最前席には見えない魔法の壁があって、水飛沫が来ないようにしてくれて―――」
聖火が説明していたその時。
大量の水が聖火と誠也を濡らした。
慌てた様子のスタッフが、誠也たちのところにやってくる。
「すみません!どうやらそこだけ魔法の壁が発動していなくて」
まさかの不運に誠也はハァとため息を吐く。
「すっごい濡れたな、聖ちゃん」
「……」
「聖ちゃん?」
返事がない聖火に誠也はチラッと視線を向ける。
聖火は俯きながら、身体をプルプルと震わせていた。
そして彼女は、
「プッ!アハハハハハハハハ!」
笑い出した。
「こんなこともあるんだね。いやー参った参った。アハハハハハ!」
明るく、そして楽しそうに笑う彼女を見て、誠也も釣られて笑った。
<><><><>
イルカショーを終え、スタッフに服を乾かしてもらった後、誠也と聖火は水族間の中にあるレストランにやってきていた。
「見て見て誠くん!このカレー青いよ!」
「そうだな……すっごい食欲が湧かない」
二人が注文したのは、青いカレーライス。
色が青いせいで、誠也は美味しそうに思えなかった。
「じゃあ、食べようか。いただいます」
「い……いただきます」
誠也と聖火はスプーンでカレーライスを掬い、パクリと口に入れる。
「うん。普通のカレーライスだね」
「そうだな……」
「どうしたの、誠くん?黙り込んで?」
「いや……ただ、幸せだなと思ってな」
モンスターの大群によって全てを失った過去の自分。
そのことを思い出しながら、誠也は口を動かす。
「俺は……あの時……タイムリープ前は生きるのが辛かった。でも今は生きてるのが幸せだ。聖ちゃんを守れてよかった。聖ちゃんと付き合えて死ぬほど嬉しい」
死んで過去に戻り、大切なものを守るために強くなり、そして全てを守った誠也。
彼の中にあるのはただ一つ。
幸せだった。
「この幸せを……守り続けたい。聖ちゃんを守り続けたい」
「……誠くん」
「ご、ごめん……なんか恥ずかしいことを言って」
照れて頬を指でポリポリと掻いていた誠也。
そんな彼の唇に、聖火は自分の唇を重ねた。
突然の事に誠也は目を見開く。
「えへへ……キスがカレー味って不思議」
恥ずかしそうに微笑む聖火。
彼女の頬が赤く染まっている。
「ちょ、聖ちゃん。なにして」
「いや~……誠くんの話を聞いていたら我慢できなかった。嫌だった?」
「いや…その……すっごい嬉しいです」
「よかった。……誠くん。私も幸せだよ。大好きな人と恋人になれたんだから」
「聖ちゃん……」
「でもね……だからこそ嫌なの。誠くんだけが悪魔討伐しに行くの?」
「聖ちゃん?」
誠也がなにを言ってるんだと尋ねようとした時、聖火は真剣な表情を浮かべる。
「誠くん……私も悪魔討伐に行くから」
その言葉を聞いて、誠也は一瞬だけ思考が止まった。
読んでくれてありがとうございます。
気に入ったらブックマークとポイントをお願いします。




