新たな鎧と盾
病院を退院し、ハンター協会会長から竜種の素材を貰った誠也は工房で新たな装備を製作していた。
赤熱化した金属を彼はハンマーで何度も叩く。
カンカン!という金属音が鳴り響き、火花が飛び散る。
「絶対に……最高の装備を作ってやる」
白い手袋をはめた手で鍛冶をする誠也。
彼は強力な武器を作りながら思い出す。
聖火の言葉を。
『私もあとを追うから』
その言葉が誠也の頭から離れなかった。
(アイツ……本気で言っていた。もし俺が死んだら聖ちゃんも死ぬ。それだけは絶対にさせない)
愛する幼馴染を死なせないために、鍛冶師は作る。
最高の装備を。
<><><><>
「で……できた」
一週間かけて誠也は完成させた。
最高クラスの鎧と盾を。
「結構……キツかったけど、なんとか作れた」
彼が作った鎧は黒く、肩や肘、膝などが鋭利に尖っていた。
そして兜から二本の鋭い角が伸びている。
竜種の骨や鱗、爪、血、心臓、魔石を大量に使って作られたドラゴンの鎧。
鎧型神器―――《竜纏》。
そして盾は人間の大人ぐらい大きく、灰色に輝いていた。
あらゆる種類の特殊金属で作られた最硬の金属盾。
大盾型神器―――《鉄壁》。
最高の素材と製作系スキルの力で作られた強力な装備。
性能はもちろん、デザインも完璧。
なのだが……一つ問題があった。
「うん……なんというか、ゲームのラスボスが装備してそうな武装だな」
そう。
彼が作った鎧と盾のデザインが、いかにも悪役が装備してそうな感じだった。
別にわざとそうして誠也が作ったわけではない。
なぜかそうなってしまったのだ。
(そういえば……俺が作ってきた装備って、悪役が使いそうなデザインになるんだよな、タイムリープ前もそうだったし)
誠也が昔のことを思い出していた時、突然……彼に目眩が襲った。
「やばい……流石に頑張りすぎ…た……」
目眩に勝てなかった彼は、意識を失った。
<><><><>
「ん…んん……」
「あ!目が覚めた?」
目を覚ました誠也の視界に映ったのは、赤い髪を伸ばしたエルフの少女の顔だった。
「聖ちゃん……」
「もう……無理しちゃだめだよ」
誠也の額を軽く叩く聖火、
彼女は心配そうな顔で、彼を見つめていた。
「悪い。ところでなんで聖ちゃんが工房にいるんだ?」
「おじさんとおばさんに誠くんの様子を見てきてくれって頼まれて。で……ここに来たら誠くん倒れてたの」
「どれくらい気を失ってた?」
「二、三時間くらいかな」
「そうか」
誠也は食事と睡眠以外は全て装備制作に時間を費やしていた。
予想以上に彼は疲労していたのだ。
「ねぇ……聖ちゃん。なんか頭から柔らかな感触が伝わってきてんだけど、これって……」
「膝枕だよ」
「やっぱりか」
「嫌だった?」
「……最高です」
「よかった♡」
嬉しそうに微笑む恋人を見て、誠也は顔が熱くなるのを感じた。
そして同時に思う。
この笑顔をこれから見ていたいと。
「それにしてもすごい鎧と盾を作ったんだね。びっくりしちゃった」
「……どう思う?俺が作った装備」
誠也が問うと、聖火は顎に人差し指を当てて、「う~ん」と唸った。
「なんというか……すっごい怖くて、悪い人が使いそうな装備かな」
「ですよね~」
ハハハと苦笑しながら、誠也は上半身を起こす。
「……どうしても作らないといけなかったんだ。この鎧と盾は」
「……理由を聞いても?」
「上位モンスターと戦うには、一級品の装備じゃあダメだ。竜種と戦った俺にはわかる」
誠也は知っている。
上位モンスターの強さを。
「俺は故郷を守るために竜種と戦った。モンスターの大群と戦って疲労していたとはいえ、俺は竜種に苦戦した。LVはMAX、装備は全て一級品、いくつものスキルを発動して、しかも千体の精霊を召喚したのにだ」
誠也は全力で戦った。
そのうえで死にかけたのだ。
「あの時、俺が上位モンスターに勝てたのは、ユニークスキル【鍛冶神】の力で作れた神器と【狂戦神】の力のおかげだ。恐らく上位モンスターに対抗できるのは、神器とユニークスキルだけ」
上位モンスターは実力の高いハンターや守護騎士が百人以上いて倒せるかどうかと、誠也は聞いていた。
だが竜種と戦った彼にはわかる。
アレは普通にやっては勝てない。
どれだけ装備を揃えても。
どれだけ実力者を集めても。
どれだけスキルを持っていても。
上位モンスターには勝てない。
そんな化け物に勝つには、神器とユニークスキルが必要不可欠。
「よくよく思い出したら……タイムリープ前の世界で、上位モンスターが倒れたって話……聞かなかった」
「……」
「俺の最大の武器は神器が作れることと、戦闘系ユニークスキルがある事だ。だから―――」
「はいはい、ストープ」
誠也の唇に、聖火は自分の人差し指を押し当てた。
「せ、聖ちゃん?」
「誠くん。悪魔と戦うのも大切だけど、あれこれ難しいことを考えずに休むのも大切だよ」
「え?いや……そんなこと言ってる場合じゃあ」
「や・す・む・の!」
幼馴染の圧に、思わず誠也は「はい」と言うことしかできなかった。
「今日はゆっくりと休んで。そして明日は気分転換しよう」
「気分転換?」
「そ」
聖火は優しそうな微笑みを浮かべる。
「誠くん。明日……デートしよう♪」
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