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プロローグ

 ある男は言った。

 たった一人でモンスターの大群を殲滅したと。

 ある女は言った。

 Eランクのハンターが竜種を倒したと。

 あるハンターは言った。

 モンスターの大群を殲滅し、竜種を倒したのは『殺戮鬼(さつりくき)』と呼ばれる化物だと。

 そして……ある者は言った。



 その化物は……鍛冶師だと。


<><><><>


 とある病院の病室で一人の少女はリンゴの皮をナイフで器用に剥いていた。

 その少女は炎の如き赤い髪を伸ばし、ルビーの瞳を持つ。

 そして耳が細長く尖っていた。


「はい、誠くん。あ~ん♡」


 少女は綺麗に切ったリンゴをフォークで刺し、ベットの上で座っている少年の口に近付けた。

 その少年はボサボサの黒髪を伸ばし、締まりのない顔とたるんだ目元が特徴的。

 ブサイクでもなければイケメンでもない彼は、頬を赤くする。


「せ、聖ちゃん……恥ずかしいよ」

「恋人なんだからこれぐらいいいでしょう?それより……あ~ん」

「あ、あ~ん」


 少し恥ずかしい気持ちを抱きながら、少年はリンゴを食べた。

 リンゴの甘い汁が彼の口の中に広がる。


「美味しい?」

「うん……美味しい」

「よかった」


 太陽の如く明るい笑顔を浮かべる赤髪のエルフ少女—――焔聖火(ほむらせいか)

 そんな彼女を見て、黒髪の少年—――創造誠也(そうぞうせいや)は微笑む。


(ああ……幸せだ。本当に守れてよかった)


 全てを失い、ただ生きることしかできなかった哀れな鍛冶師。

 そんな彼は一度死んで、過去に戻った。

 過去に戻った男は己を鍛え、武器を作り、鬼と化す。

 そして鬼は全てを奪ったモンスターたちを殺し、大切なものを全て守った。


 結果……大好きな幼馴染である焔聖火と付き合うことになったのだ。


(だけど……いいことばかりじゃない)


 誠也はリンゴを呑み込んだ後、ベットの上に置いてあるスマホを手に取り、操作する。

 スマホと画面に映ったニュース記事を見て、彼は眉を顰めた。


「やっぱり……まだ話題になってる」


 ニュース記事には、たった一人でモンスターの大群と竜種を倒したという内容が書かれていた。

 もちろん誠也のことだ。

 すでに一ヶ月も経っているのに、誠也の活躍で大騒ぎ。

 誠也はため息を吐き、スマホをベットの上に置く。


「まったく……目立ちすぎてしょうがないっつうの」

「仕方ないよ。あんなすごいことすればそりゃあ目立つよ」

「まぁ……そうなんだけど。俺は鍛冶師として生きたいんだよな。なのに……守護騎士になれって」


 誠也はもう一度、ため息を吐いた。

 過去に戻った彼は全てを救うためにモンスターを倒してLV上げし、いくつものダンジョンを攻略し、武器を作り、己を強化した。

 その結果……強制的に守護騎士として生きることになったのだ。


「まぁ……三年間は聖ちゃんと同じ守護騎士育成学校に行けるのはよかったけど」

「確か守護騎士として必要な知識を学んできなさいって偉い人に言われたんだっけ?」

「そうなんだよね~」


 モンスターの大群と竜種の戦いで入院した誠也のところに守護騎士やハンター協会、そして政府の偉い人がやってきて色々と説明された。

 街を守った事への感謝。

 ハンターランク『S』に昇格。

 守護騎士育成学校の入学。

 モンスターの大群と竜種の討伐の報酬。

 そして……守護騎士の高い地位が授与された。


「要するに『これで逃げられないぞ?』って意味だろうな」

「アハハ……そう……だよね。でもそれだけ誠くんのことを評価してるってことでしょ?特に守護騎士四級は大きいよ」

「そりゃあ……そうだが」


 守護騎士には階級が存在する。

 上から特級、一級、二級、三級、四級、五級、六級、七級と分けられているのだ。

 普通なら七級からスタートなのだが、モンスターの大群と竜種の討伐の功績で誠也は四級が与えられた。

 守護騎士四級は会社で例えると課長。

 三十人ぐらいいる守護騎士小隊を自由に動かすことは勿論……色々な権利が与えられ、年収一千万以上が貰える。

 だが同時に責任や責務が発生する。

 分かりやすく言うと誠也は金と権力が手に入った代わりに、自由を失ってめんどくさいことをしなくてはならないということ。


「なんとかして、守護騎士をやめたいんだが……」


 誠也は腕を組みながら考えていると、病室の扉からコンコンというノックの音が聞こえた。


「失礼します」


 扉を開けて病室に入ってきたのは、狐の耳と尻尾を生やした浴衣姿の女性。

 ハンター協会会長―――大和林葉だった。

 突然やってきたハンター協会のトップを見て、誠也は嫌な予感を感じる。


(めんどくさいことじゃなきゃ……いいな)

 読んでくれてありがとうございます。

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