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【短編】窓際の景色

作者: すぽんじブボ

8月2日

今日、ついに引っ越した。

窓から大きな木が見えて、鳥やセミがいい意味で騒がしい、生命力あふれるお部屋に。

そこまで広いわけじゃないからレイアウトとかはそんなに変更できないけれど、

ある空間を目いっぱい使って、素敵な配置を考える!

うーん、もう少しガーリーなイメージにしたいな。


8月3日

とにかく暑い日々が続いてる。

さすが8月、真夏日なだけあって、窓から照りつける太陽が私の生命力を少しずつ蝕みそうなくらいに!

太陽が好きだからあまり遮光はしたくないのだけど、仕方がないね。

カーテンでも効かないようなら、木にうまく遮ってもらえばいいね。


8月4日

今日は彼の誕生日。大好きな彼に今回は少し奮発して、お財布をプレゼントした。

ついでに、手紙も。

すっごく喜んで、何故か泣いていた。

なんでよ。今まで泣いた事なんてなかったでしょう。

何のブランドを買ったかって?秘密秘密。私と彼だけが知っていればいい。

初めて来た新しいお部屋を彼も気に入ってくれたし、可愛いお花もプレゼントしてくれた。嬉しい。

花瓶を今度買ってこなくっちゃ。買ったら窓際に飾ろう。


8月6日

昨日は書くのをすっかり忘れてしまった汗

うーん、飲みすぎたのかあまり記憶がない、とにかく全く覚えてない。

でも、楽しかったのは確か。

ふわふわして、雲の上を歩いているみたいな感覚だった。


8月7日

少し食べる量を増やさないと、だって。

でも、あまりお腹が空かないのだもの。もっと料理の腕を上げて、自分で作る料理を魅力的にしないとだめかな?

お料理、大学生の頃からやっていてもあまり伸びないの。困ったな。

こんなんじゃ、彼と結婚出来ないね。


8月10日

ここ最近少し忙しいのと、やたらと夜に眠くなってしまって、日記が少し空いてしまった。

最近なぜか少し疲れやすいの。そんなに活動している訳ではないんだけどね。

彼にも、少しやつれたかもよ、と心配されて、差し入れ持ってきてもらった。

あと恥ずかしいけどね、可愛い下着も買ってきてくれたの。

あゆはいつも同じのばかり着けているから、さすがに飽きたでしょう?って。

ふふ、いつも同じで飽きたのはあなたの方じゃないの、ってちょっと意地悪言ったら笑ってた。


8月16日

体調があまりよくなくて、ここ最近は少しベッドで横になる時間が長くなっている。

どうしたんだろう、お買い物とか行かないといけないのにな‥寝てばかりになっちゃって。

もっとお部屋もかわいく変えたいんだけどな。

今日はね、可愛い鳥がつがいで木の枝に暫く止まっているのを見つけて、

少し幸せな気持ちをおすそ分けしてもらった気分。

あと、セミちゃんが鳴いているのも聞こえる。

もしかして、同じ子なのかな?独特なテンポを刻むからすぐに分かる。

暑い夏、一緒に乗り切ろうね。


8月23日

つがいの鳥ちゃんが最近一羽でいる事が多いの。

もう一羽、どうしたの?

旅に出たのかな。


8月30日

彼が、私の部屋に来てくれた。今日は私が大好きなぬいぐるみを抱えて。

最近会うたびにお土産をくれる。この前のお財布のお返しかな?

会えていなかった間に起きた出来事を、互いに共有する時間が楽しくて幸せですごく好きなのに、彼はなぜか今日ずっと悲しそう。

彼の身に何かあったのかもしれないけど、私には言ってくれない。

何でも、言ってほしいのに。

もう、付き合って何年の仲なのよ、って笑って伝えたのに、彼の目の奥は笑っていなかった。



9月9日

すごく悲しい事が起きた。

私、この部屋を出ないといけないかもしれない。

すごく気に入っていたし、窓から見えるこの景色が好きだったのに。

そういえば気が付けば、セミちゃんの鳴く声が聞こえない。



9月21日

そっか、私、余命宣告されていた患者、だったね。

あまりにも現実は残酷で、苦しくて。

日記には書きたくなかったら、現実が何だか分からなくなっちゃってたな。


私、今だったらみんなと話せるのに。話したいのに。触れたいのに。

どれだけ触れても、どれだけ声をかけても気づいてもらえない。

お母さん、お父さん、たかくん。

私はもう既に、存在する次元が変わってしまったんだね。


あれ。

そういえばずっと見えなくなっていた窓の外の鳥のつがいとセミちゃん、

一体いつ戻ってきたの?

もう、きみたちどこ行ってたのさ。寂しかったんだから。



窓際の景色の一員として、今度改めて挨拶させてもらおうかしら、ね。




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