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5.


「はい、これを1日2回患部に塗ってみて。治り具合をみたいから、2週間後くらいに診察できるかしら?」


出来上がった薬をカルロスに渡す。


「わかった、当日はまた迎えにこよう」

「ありがとう」


なんとなく会話が続かなくて気まずい。そう思っていると、カルロスの方から話し始めた。


「…そうだ。君の薬は評判が良いと聞くが薬の販路を広げる気はないのか?」

「うーん…今は2人で作っているしそんなに沢山作れないの。それに魔女が作っているってことがわかれば売れなくなると思うわ。それだけで怪しいって思われてしまうから。だから今くらいが丁度良いのよ」

「勿体ないな。だけど…君の言うことも理解できる。俺も魔力持ちってことは周りに知られているから、それだけで距離を置かれる。その上、魔力暴走を起こしてしまったからから余計にな」

「魔力暴走はあなたのせいじゃないでしょ。魔力持ちには生きづらい世界よね…」

「今後君がその気になって公爵家として協力できることがあれば言ってくれ。ずっと妹の傷が治ることを願ってたんだ。君の協力に報いたい」

「まだ薬の効果も出ていないのに気が早いわ。でもありがとう。…よかったらお茶でも飲んでいく?」

「いいのか?」

「もちろん。準備してくるわ」


作業場にいたユーリにも声を掛ける。


「休憩がてらお茶にしましょう。ハリーのお母さんがマドレーヌを作ってくれたのよ」


マドレーヌと聞いてユーリの目が輝きだす。




ユーリが居間に来て、カルロスと挨拶を交わす。


「アリスです。よろしくお願いします」

「カルロスだ。そんなに畏まらなくていい。…君はマリアの妹なのか?」

「違います、えっと…」

「住み込みで働いてくれているのよ」


ユーリがなんと言うか迷っていたので私が代わりに答える。けれど…自分で言ったものの、私とユーリの関係ってこんなに単純で繋がりが薄いのかと思うと少しモヤッとした気がした。




それからお茶を飲みながら3人でたわいもない話をした。ユーリのお母さんはよくマドレーヌを作ってくれていたようで、ユーリの大好物だったようだ。カルロスもクールな印象だけど意外と甘いものが好きらしく、美味しそうに食べていた。とてもゆっくりとした時間が過ぎて、久々にリラックスできた。私はこの世界に来てから順応していると思っていたけど、結構気を張っていたようで、こんなに気が抜けたのは初めてだった。




お茶を飲み終えてカルロスが席を立つ。なんとなく名残惜しい。心なしか、ユーリもカルロスも少し物足りない顔をしている。


「…またお茶しに来てもいいか?公爵家のスイーツもなかなか美味しいんだ。今度は手土産に持ってくる」

「楽しみに待っているわ」


私はユーリと顔を見合わせて微笑んだ。




それからカルロスは時々スイーツを持ってうちにお茶しに来た。好きなことや好きな食べ物、これからやりたいことなど話しながら過ごすティータイムはとても楽しかった。ユーリは本を読むことが好きだったようで、カルロスが公爵家からいくつか本を持ってきてユーリに貸してくれた。ユーリが本の感想を話しているのをカルロスと私が聞く。そんなことを繰り返して私たちは少しずつお互いのことを知っていった。




今日はカルロスの妹・ニーナの診察の日だ。挨拶もそこそこに患部を確認する。


「だいぶ治ってきたわね」

「そうなんです!こんな短期間で効果が出たのは初めてで嬉しいです」

「渡した薬がなくなる頃には完治できそうね。このまま塗り続けてね」

「ありがとうございます。…あの、この後お茶でもいかがですか?」

「いいの?じゃあいただいていくわ」




美味しいお茶を飲んで一息ついていると、ニーナがニヤニヤとこちらを見ていた。


「え、なに?」

「最近お兄様はマリアさんのところに通っていますよね?うちではこの話題で持ち切りなんですよ」

「通うというか…まあ、お茶しにきているわ」

「お兄様がわざわざシェフに頼んでスイーツを用意したり、子供向けの本をいくつか見繕ったりしているのを見て、みんな驚いているんです!今までお兄様がそんなことなさったことないから、もしかして良い人でもいるのかって両親までソワソワしているんですよ。私はなんとなく相手はマリアさんじゃないかなって思ってました」

「いやいや…そんな甘い関係ではないのよ!ただ気が合うからお茶しているだけよ」

「そんな2人がだんだん惹かれていくのではないですか?」

「本当にそんな感じではないんだけど…それより、あなたはどうなの?」

「あぁ…私は…」


ニーナが言い淀む。聞いてはいけなかったかと少し焦る。


「…私、火傷をしてからは家に篭りがちでそもそも出会いがあまりなかったんです。それに貴族の娘が傷物だと知られれば縁談もなかなか来ないですし…火傷のこと知られたらと思うと誰であっても距離を置いてしまって。だから未だに婚約者すらいないんです」

「…そうだったの。確かに自分をさらけ出すのって簡単なことではないわよね。でも火傷跡もなくなりそうだし、これからは素敵な出会いがあるといいわね」


ニーナは少し顔を赤らめた。


「あ、もしかして、もう好きな人はいるのね?」

「好きというか…憧れている方はいます。でも私では相手にされないと思うので…」


仮に火傷跡がネックだとしても、公爵家の令嬢が相手にされないなんてことあるのか。そう思ったけど、ニーナがあまりにも切ない顔をしているので何も言えなかった。




帰り際、手土産にクッキーを包んでくれた。


「あの…火傷跡が治っても、またお茶に誘っていいですか?」

「もちろんよ!」

「今まで友達もろくにいなかったので嬉しいです」

「今更だけど…私一応平民よね?身分差とか気にならないの?」

「普通の貴族なら気になるでしょうけど…私はこんなに気さくにお話しできる方と出会えて嬉しいのです。それを身分差があるというだけで手放したくないです」

「そうなのね。私もあなたとお話ししていて楽しいし、これからも仲良くしてくれると嬉しいわ」


ニーナが可愛く笑った。




馬車の中でカルロスの顔を見ながら考え事をしていた。前の世界では身分差なんて殆どなかったし、意識して生活したことなかったけれど、この世界では身分が物を言う。私は誰に対しても同じ態度で接していたけれど、カルロスやニーナが許してくれていたから成り立っていたわけだ。そういった点でも私はここは架空の世界だとどこかで思っていたのかもしれない。それなのにこの世界に来てから、前の世界にいた時よりも心が動くことが多い。前の世界に戻りたいと強く思っているわけではないが、かといってこの世界で生涯過ごす想像もできない。ちぐはぐな自分がよくわからなくなっていた。




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