生キ地獄
十三歳で両親を叔母に殺されたエラは、叔母の家族との過酷な生活を強いられたため、徐々に「人間を信頼してはいけない」という価値観を持つようになった。
こちらが信用しなければ、どんなに酷いことをされようともどんなに嘘をつかれようとも、裏切られたことにはならない。エラの両親が残した善性がエラの人間に対する態度を捻じ曲げてしまったのである。
そして、エラが十五歳になった年の秋に、エラの人間に対する不信感を決定づける出来事が起きた。
今まで死なない程度にしか物を食べさせてもらえなかったエラは、この年になるとなぜか叔母の家族と同等の量の食事をとることを許された。最初のうちは胃に食べ物が入らず、なかなか太ることができなかったが、徐々に食べられる量が増え、徐々に健康的な体つきになっていった。
また、同時に叔母たちから殴られることが少なくなった。この年の春のうちは叔母の娘たちに殴られることがあったが、それを見た叔母が娘たちを注意したのだ。こうして夏までにはエラが娘たちに殴られることは無くなった。
食事が普通に取れるようになったことと、誰からも殴られなくなったことでエラの体から青痣が一つずつ消えていった。秋に入る頃には殴られたことが分らないくらいに痣が見えなくなっていた。
エラは最初は叔母の行動を不審がって考えていたが、春、夏と時が進むにつれ、徐々に、叔母に認められたのではないか、という考えを抱くことができた。叔母に何かがあって、叔母の考えが変わったのだと思った。
だが、食事の量が増えて、殴られなくなっただけだった。叔母たちに押し付けられる家事の量は、以前とは何も変わっていなかったのである。エラはこのことには気がつかないふりをした。人間は自分の都合の良いように物事を考えがちだ。
そして、夏が過ぎ秋が深まってきて、涼しく過ごしやすい気候になった。ある夜、エラは叔母に呼び出された。その呼び出された場所は、エラの両親が寝室として使っていた部屋だった。
エラは叔母についてその部屋に向かった。部屋の扉の隙間からは灯りが少し漏れていて、何人かの男の声が聞こえた。エラはまた何か雑用を任せられるのだろうと思っていた。
叔母が部屋の扉を開けると、部屋の中には二十人くらいの裸の男たちが一斉にエラの方を見た。エラはびっくりして肩をすくめた。そして、叔母がエラの左腕を掴んで言った。
「お待たせしました。こちらの娘なら殺す以外なら何をしていただいても構いません。それではごゆっくりどうぞ。」
叔母がエラの腕を男たちの方へ放るように離した。叔母の口の端は歪んでいた。それを見た男たちが、「待った」の命令を解かれた犬のようにエラに群がった。群がった男たちはエラが来ていたメイド服を凄まじい膂力で引き裂くと、半年前までは骨と皮だけだったとは思えないエラの玉肌を汚していった。
エラは一瞬何が起こったのかわからなかったようだったが、一瞬で自分が犯されようとしていると理解すると、純潔を守るために抵抗を始めた。
「やめ、やめて!!やめてください!!イヤだ!!」
エラは必死に叫んで群がってくる男たちを自分から引き剥がそうとする。しかし、そんな抵抗も虚しく、エラは両手と両足を押さえられてしまった。いくら十分な食事ができるようになったからとは言え、男の力に勝てるほどの力が手に入ったわけではない。
両手と両足を掴んだ男たちは、部屋の隅に置いてあるベッドにエラの両手両足を押し付けて拘束した。そのベッドはエラの両親が使っていたベッドだった。
エラの叫び声が聞こえたのか、叔母の娘たちが部屋にやってきた。
「お母様、さっきの悲鳴は何ですか?」
「心配しなくても大丈夫よ。何も問題はないわ。」
叔母は心配そうな自分の娘たちに、エラの方を指しながら言った。娘たちは拘束されて今にも犯されようとして泣き叫んでいるエラを見つけた。それを見つけたエラは必死の形相で彼女らに助けを求めた。
「叔母様!お義姉さま!助けてください!!この男たちを止めてください!!」
叔母と娘たちは顔を見合わせた後、笑い始めた。
「『助けて』って!ハハハッ、シンデレラ?あなたは何のために私たちを同じだけの食事が与えられたと思っているの?」
「それは、叔母様がわたしのことを認めてくださったから…」
「認める?あなたのことなんて奴隷としか思ってないわよ。良いお金になりそうだったから、この人たちに相談したのよ?良い年ごろの娘がいるって言ったら、たんまりお金を支払ってくれてねぇ。」
エラは二の句を継げなかった。エラは抵抗する気力も失せてしまった。
「前みたいな骸骨みたいな女を抱くよりも、健康的に見える女を抱く方が男たちもうれしいだろ?半年待ってもらったんだ。しっかり金の分は働きな」
叔母はそう言うと、娘たちと部屋を出て行ってしまった。エラの眼からは涙が流れていた。その涙は悔しさからか、自分への憤りや情けなさに対してか、絶望からか、エラにもわからなかった。
エラにとっての地獄は、夜が明けるまで続いた。純潔はナイフで突き刺されたかのような痛みによって散らされた。玉肌は白濁した欲望によって汚された。エラは無抵抗で、ただただ汚されるだけだった。
エラが目を覚ますと、自分が一糸まとわぬ姿で両親が使っていたベッドに横たわっていることに気が付いた。そして、鼻には昨夜の欲望の臭いが充満していた。エラの涙はすでに乾ききっていた。
この凄惨な地獄の日を境に、エラは感情を表に出さなくなった。常に無表情のエラを、叔母とその娘たちは気味悪がった。
あの日の後、エラは何度か同じように男の世話をしたが、それも数回で終わった。男たちは、何の反応もないんじゃおもしろくない、と言って、二度と屋敷に現れなくなった。
叔母はエラの体がもう金にならないとわかると、再び食事を取らせなくなり、家事でミスを犯したときには殴るようになった。
エラの体は再び痩せていき、皮と骨の体に戻り、体には多数の青痣ができた。
エラは無言で家事をして、無言で殴られたり罵倒されたりした。全くの無表情でただされるがままになっていた。
エラは両親のことを、人間は善性の生物であるという嘘を教えた嘘つきだと思うようになった。エラはもう、何も信じられなかった。屋敷にいる叔母やその娘たち、叔母に殺された両親、自分の純潔を奪った男たち。すべての人間のことを信じられなくなった。
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