第984話 瘴気のお勉強⑨お試しお茶会<後編>
身についたことってのは結構あるものなんだなーと思った。
お茶会には数えるほどしか行ったことはないけど、爵位、つまり身分に関しての振る舞いなどが要求される家庭環境にいたことから、知らず知らずのうちに会得している。うちは貴族だったんだなーと、変なところで納得してしまった。
挨拶、話す順番、座る席のことから、全て身分が優先する。
寮からウチに連れてきてくれる間、馬車に乗った子たちの指導を受け持ってくれていたみたい。基本がすでに叩き込まれている。うまく説明できる自信がないので、大変ありがたかった。
みんな椅子に座ったので、アルノルトとデル、ヘリがお菓子とお茶をそれぞれに配ってくれる。
お菓子の取り方なども指導が入っている。
わたしはテーブルひとつひとつに回った。
それぞれきてくれたことに対してのお礼と、後でゲームをやるから楽しんでねと。
元々目上の方とかにもしっかりした言葉遣いをしていたから心配していなかった。問題はタイミング。会話を返す頃合い、それから内容と長さ。話を返していい時なのか見極めるのもだけど、その話の長さで、相手が自分をどう思っているか推し量れているかをまた計られる。
複数の人がそこに存在する限り、人の探り合いは否めない。
楽しいお茶会ももちろん存在するけど、その人を知るための材料になることは確かだ。もちろんそれはお茶会だけではなく、人が集まったならそういうものなんだけど。
みんな短めに会話を切り上げてホストのことを慮っている。すごい!
ダリアは小さな弟や妹に食事を取り分けているからか、お菓子をとるのも上手だった。ほとんどのお茶会では執事さんやメイドさんがやってくれるけどね。今日は自分たちで取るときのバージョンにしてみた。
クッキーなどを取るのは意外に難しい。あとどんなふうに残すかとも難しくて手を出せないということもある。
少なくなったら新しいお皿が足されるのが普通だけどね。
ガツガツしても、全く食べないのもマナー違反。どうしろと?と言いたくなるけれど、招待する方も、される方も、一種の居心地のいい場所づくりバトルかもしれないから、それも仕方ないのかもしれない。
みんな短く言葉をまとめ、時にはジョークを交え会話を楽しんでいる。
わたしよりずっとできる子たちだ。
受け答えにおいて、テーブルマスターからチェックが入る。わたしの答えなどほぼ及第点だったようだけど、ホストを困らせてもいけないし、反応が無いのも寂しいものだそうで。わたしの勉強にもなった。人対人はいろいろ難しいよね。
そうしながらも、みんなちゃんと食べているところがすごい!
「ライラ、ケイト、お茶会はどう?」
「思ったよりずっと楽しいわ」
「私も! 貴族に誘われてお茶会楽しみだけど、きっと浮くだろうから誘ってくれたユリーさまに悪いなと思っていたの」
「それをリディアがこんな会を開いてくれて、フリートさまたちにも、こんなにお世話になって」
「お茶会が楽しいものってわかってもらえれば、私たちは十分ですの」
おっとこ前だね。
さて、勉強ばかりじゃあれだから、ゲームをしよう。
ひとつは、お嬢さまたちの遊びだね。
みんなは下地がないから、最初に小皿に入れたお茶の葉を配る。
匂いを嗅いだり、触ったり、好きにしてオッケー。
後でお茶を入れ、どのお茶か当てるゲームだ。
みんな楽しそうに小皿のお茶を手にしてる。
「小皿は引き上げるよ」
そう言って小皿の茶葉を引き上げる。
そして各テーブルで違うお茶を用意する。
みんな香りや味で推測している。
当てたのはロレッタ、ライラ、ケイトのテーブルだ。
3人とテーブルについてくれたアイボリーさまに茶葉を進呈した。
お次は本当にゲーム、ビンゴ大会だ。
ゲームの説明をする。
アラ兄に手伝ってもらうことにした。
アラ兄の出現で、男性に対してのマナーも学べるからありがたい。
アラ兄にボックスの中に手を入れてカードを引いてもらう。カードには番号が記載されている。
「はい、まず11です」
「11を消してくださいね」
「では、次行きます。21です」
「21を消してね。それで一列消せたら上がりよ」
最初は意味がわからずやっていたけれど、やっていくうちに飲み込めたみたいで、リーチに入る子が出ると盛り上がってきた!
「では。次は、3です!」
アラ兄が3と書かれたカードを上に掲げた。
「ビンゴ!」
クラリベルが教えた言葉を大きい声でいう。
「おめでとう!」
クラリベルに1位のカードを。2位、3位と続き、5位まで決まったところで終了。
5位までの商品授与だ。
1位はクッションとチーズケーキ。クッションは雪クラゲのすみかのふわふわを入れている。
「きゃー、ふわふわ、気持ちいい!」
クラリベルは全身で喜びを表してくれた。
参加賞はみんなお菓子。そのお菓子はどんなふうにしてもいいからねと、伝えておく。自分で食べなくても誰かにあげても。みんなで食べても。
先生をしてくれた、ユリアさま、エリー、マーヤさま、アイボリーさまにお礼を言う。みんなもだ。
みなさま先生役がとても楽しかったと言ってくださる。そしてアイボリーさまがまとめた。
「でも忘れないでくださいませ。招待した方への1番の贈り物は、招待した方が来てくださることですわ。自分との時間をとってくれること。ですから萎縮せずに、どなたもぜひ楽しんでくださいませね」
淑女の笑みだ。
あまりの美しさに、なんだか顔が赤らんだ。
「さ、帰り着くまでがお茶会ですのよ」
ユリアさまがそうおっしゃって、みんなをまとめた。
「リディア、ありがとう。明日、学園でね!」
みんなが嬉しそうにしていたので、こちらも嬉しくなってくる。
夕焼けの中、みんなの馬車が見えなくなるまで見送った。
「みんな、今日はありがとう」
アルノルト、デル、ヘリにお礼を言えば、みんなあたたかく微笑んでくれる。
「お嬢さま、夕食はロビンさまが帰ってきてからご一緒になさいますか?」
「あ。えーと、少し疲れたから一眠りしようと思うの。朝まで眠っちゃうかもしれないし。もし途中で起きたらお風呂に入るかもしれないけど、食事は自分で取るから気にしないで」
「承知いたしました」
アルノルトは胸に手をやって、上品に頭を下げた。




