第982話 瘴気のお勉強⑦ポジティブに
その後、実験しようとふたりが言って聞かないので、玉を渡してみたら、ふたりとも瘴気を玉の中にぶっ放した。その玉を投げてみれば、中から瘴気がモアモアと出てきた。慌てて聖水を飲む。
ふたりともバッカスと戦うときなど、割と普通に瘴気で攻撃していたそうだ。敵も魔具で魔法防御はしていても瘴気の防御の概念がないようで、効率がよかったそうだ。本当にふたりはなんでもないようだったので、もう一度いいのか聞いてから、瘴気を玉に込めてもらうことにした。
「姉さま、それよりどうやって封じ込められている瘴気を、封印をとかずに持ち出すの?」
「どうすればそんなことができるの?」
ふたりはそれが知りたくてしょうがないみたいだ。
「もちろんギフトを使うの。わたしのギフトは知っていることを付け加えることができる」
ふたりは神妙に頷いた。
「そうね、今度の休息日、お茶会の練習をするの。その後でミラーハウスでやってみる。どう?」
「今教えてくれないの?」
「できるだろうと思うことはたいていできてるから大丈夫だと思うんだけど、やる前にあーだこーだ考えたり、疑問をもったりすると、気持ちが揺らぐかもしれないでしょ? そうすると成功率が落ちる。だったらできるって思い込みで進めた方がいいと思って」
わたしが告げるとふたりは笑う。
「姉さま〝ポジティブ〟ね」
「僕もどんな〝ネガティブ〟な思いで言わないのかと思ったら。やっぱり、姉さまは姉さまだ」
ふたりはわたしの答えが面白かったみたいで一頻り笑った後、領地の外れの家へと帰っていった。
わたしは自分の両頬を叩く。
エリンとノエルのおかげで瘴気を玉に込めることはできそうだ。
あとは、わたしが瘴気を持ち出すだけ。
瘴気対策しとかなきゃなー。
それからあとやることは……お茶会の準備だ。
でも困った。実を言うと本当に数えられるぐらいしかお茶会に参加したことはなく、主催は5歳のときにロサに命令されてやったあの1回だ。
うーーん。
わたしは貴族のお友達に助けを求めた。素直に書いた。
平民のお友達が貴族のお友達のお茶会に呼ばれ、お茶会のことを聞かれた。不安そうだったので、お試しのお茶会をすることにしたんだけれど、わたし自体がお茶会参加が少なく、主宰も1回したしたことがない。その1回も小さかったので兄たちと一緒にやったこと。
仲間内で小さなもの、男爵令嬢主宰。制服での参加可のお茶会である。
そうして自分が考えたプランを明記して、採点してもらえたら嬉しいと結んで、水色の鳥を飛ばした。
エリーは自分もお茶会主催はしたことないけどと前置きの後、問題はないと思う、当日手伝いに行こうか?と言ってくれたのでお願いした。
ユリアさまは、家を出て行く時から帰る時まで含めてお茶会なんだと助言をくれ、そこを手伝ってくれると言う。
マーヤさまはおもたせについて助言をくれた。
アイボリーさまは、補助してくれると言った。
皆さま、お優しい!
わたしはじーんと感動していた。まさか、あんな大掛かりになってしまうとはつゆほども思わずに。
次の日、移動授業の際、先生からいきなり注意された。
王宮に2日続けて行ったことを。
わたしのような下賤な伯爵令嬢が、王宮に頻繁に行っていいものではない、と。それが要注意人物のマシュー先生だから身構えてしまう。
放課後職員室に来なさいと言われた。
うーむ。
先生には先生だ。ヒンデルマン先生に助けを求めよう。
理事長、担任であるヒンデルマン先生、保健医のメリヤス先生、それから学年主任の先生には生徒会から伝達がいってるはず。
今日はクラブに出たかったのに。
放課後になり、アダムと一緒に職員室へ。ヒンデルマン先生には伝え済みだ。
マシュー先生はわたしの後ろのアダムを見て、顔をしかめる。
「職員室にも一人で来られないのか?」
アダムがわたしの前に出る。
「私も2日続けて登城しましたので」
「王宮は遊び場じゃないんだぞ、お前たちは何をしに行ったんだ?」
「なぜそんなことが気になるんですか?」
アダムが目を細めた。
「リディア・シュタイン。お前はいつも騒ぎを起こす。入園試験から始まり、どれだけ人に迷惑をかけていると思っている? お前は役たたずなうえ、迷惑をかけまくる。そんな奴が王宮で今度は何をやらかすつもりだ?」
め、迷惑とか役立たずとか、人のトラウマになっているワードを知っているかのようにピンポイントでさしてくる。
いつの間にか拳を握っていて、もふさまがわたしを見上げていた。
「マシュー先生、仮にそんな生徒がいるとして、それを導くのが教師なのでは?」
後ろからきたその人は、わたしの肩に温かい手をのせた。
顧問のモナシ・ルーダ先生。
「それに、シュタインさんは役立たずでも、迷惑をかける子でもありませんよ」
「ルーダ先生。ハッ、先生は理事長派でしたね」
「派閥の前に、教師であるべきでは?」
「それに生徒に個人的に指導しないよう、注意があったばかりですよね?」
後ろから援護したのは音楽科のお嬢さん先生、ミア先生だ。
「マシュー先生、ウチのクラスの生徒が何か?」
わたしとアダムの頭の上にポンと手がのる。
「そのふたりが立て続けに登城してましてね。今度は城で騒ぎでも起こすつもりなのかと注意をしていたところです」
「登城したのはバッカスの定期報告と、第二王子殿下からの招待ですよ。それをあなたが忠告する? 意味がわかりませんね。それから、個人指導は禁止されているはずですが?」
「目に余るから注意をしただけだ。それに職員室だ。個人指導にはあたらない」
「そういう認識ですか。では改めていただきたい。ウチのクラスの生徒に何かある時は、まず私を通してください」
先生が透る声で言った。先生の横顔を見あげた時、周りに気づいた。先生方が立ち上がってみんなこちらを見ていた。「見ているぞ」という想いを込めて。
「……王族に迷惑をかけるんじゃないぞ。以上」
悔しそうなマシュー先生の言葉に、ミア先生がわたしたちの肩を持って回す。ほら、行きなさいと背中を押される。
「失礼しました」
わたしたちは礼をして歩き出した。




