第975話 パンドラの希望⑮パンドラの匣
『なんとかなるって……人族が何千年以上どうにもできなかった、聖女でもできなかったことをか?』
レオが愕然としている。
「違うよ。わたしに瘴気をなくすことはできないよ」
「え? なんとかなる言ったでち」
アオが羽をバタバタさせた。
「王宮の下にある瘴気。封印を解かずにそこから瘴気をいただくことはどうにかなるかなと思ってるだけ」
『どういうこと?』
『わからない!』
クイとアリは眉根を寄せている。
「瘴気をなくすことはできないけど、あそこから瘴気をいただいて玉に込めて分散させればいいと思ってる」
『どうやってですか?』
ベアまで真剣な表情。
「わたしのギフト、プラスを使って」
レオがよろけたように二歩下がる。
『ひょっとして女神さまのように瘴気をため込める魔物を作り出して、それを滅ぼすのか?』
えっ。
「いや、わたしは何もないところから何かを作り出すことはできないから。それに生き物に瘴気を押しつけようとは思わないよ。
わたしにできることは、知っていること限定で付け加えられるだけ」
ある意味万能だけど、地味っちゃあ地味。
『リー、教えて。どうやるの?』
『ねーねー、教えて!』
「まず瘴気の扱い方を知る。そこで瘴気玉を作ることができたらいうね。多分できると思うけど、大技っちゃあ大技だから」
『リディアが危険なのか? だから先に言ったら止められると思って言わないのか?』
もふさまの声が硬い。
「そんなことはないけど、魔力は多く使いそう。だから魔力方面も鍛えたり増やさないとだな」
みんな心配そうに見てる。
「本当だよ。危険はないよ。……わたしは瘴気が苦手だから、玉に込めることの方に不安があるかな。瘴気のあるところで作業することになるからね」
『それをすぺしゃりすとだとかいう、呪術師やグレナンの小童にやらせられないのは何か理由があるのですね?』
おお、ベア鋭い。
「そういうこと。玉を作る、瘴気を分散させておくのはトップシークレットだからね」
『とっぷしーくれっとって?』
「えっと。極秘! 最高機密ってこと。敵がユオブリアを攻落する理由は本当のところわからない。だからそうされたときに起こったり、被害が大きくなることを取り除いておく必要がある。
どこに敵がいて、どう伝わってしまうかわからないから、わたしたちが何を備えているかは秘密にしないとね。それに誰彼に話せることでもないしね」
『どういうことだ?』
もふさまも眉根を寄せる。
「わたしのギフトは使い方によって、かなり悪いこともできちゃうの。だから付け加えることができると公表しているけど、わりと万能であることは言ってない。規制があってできることとできないことがあると濁している。でもそれをやってるのがバレたら、一気に悪いことできるとバレるから。知られたくないと思ってる」
カンカンカン
消灯の鐘の音だ。ロッティー女史が、1階食堂の入り口の柱にある鐘を叩いたのだろう。
わたしは精霊玉を手に取る。
今日は話しかけてみよう。
「光魔法をかけるわ。もし意思の疎通ができるなら、あなたと少し話してみたい。でも、それもあなたの自由。光魔法をかけるのは嫌じゃない? 嫌ならやめる。
覚えておいて。あなたは自由よ。
あなたは蓮の葉の地下の水源で気を失っていた。あなたに水を出させるか、あなたを漬けこませていたあの集団は、あそこにもういない。人族にとって悪いことを考えていたから取り締まられたの。あなたが気を失っていて、光魔法をかけたら少し回復したから、連れ帰って毎日光魔法をかけてきたの。
あなたが嫌なら魔法をかけないし、あなたは自由よ。
ここにいても、いなくてもいいの」
精霊はこちらを見ようとしないでたゆられているだけ。
『リディア。話を聞かなくていいのか?』
「話を聞けたらって思ったけど、精霊だもの、自由でいいのよ。さ、眠ろうか。アオ、明かり消してもらっていい?」
「いいでちよ」
アオがトテトテ歩いて、明かりの魔具の下に行く。机からベッドに移動。
今日はアリが精霊をベッドに運んでいる。
ベッドの中にスタンバイすると、アオが明かりを消した。
そしてヒュンヒュンとわたしの首元に飛び込んできた。
「おやすみ」
みんなに告げて目を閉じる。
希望の箱。それが手に飛び込んできた時、思い出したのは前世のパンドラの匣のことだった。
前世で聞いた神話だ。中を絶対見てはいけないと箱を渡されたパンドラは、匣を開けてしまう。中からありとあらゆる災いが飛び出し、地上には不幸が蔓延してしまう。驚いてすぐに箱を閉めたので、底にあった〝希望〟には気付かない。
バージョン違いで、中からありとあらゆる災いが飛び出し、地上には不幸が蔓延してしまうけど、箱の底には希望が残っていた、というもの。
空っぽダンジョン108階のローレライの悪夢には〝hope〟の箱が残った。
そして蓮の葉の地下に残っていた、地上に遣わされた13体の精霊のうちの1体。
ただ残ったものというカテゴリでしか同じでないのに、わたしは希望のような何かを精霊に感じていた。
自由でいいと言ったのは本心だ。
けれど、ここにいてもいなくてもいいと告げ、明日もまだいたら、きっと彼女もわたしたちに告げたい何かがあるのだと思う。
それが希望に繋がるかどうかは、全く別のことだけれども。
お読みいただき、ありがとうございます。
お知らせというか、懺悔というか、です
すみません、17章+エピローグで完結予定とお伝えしてきましたが撤回しますm(_ _)m
世界の終焉&まつわること問題解決にて、完結としようと思っていること、そこまでには大きくいってあと3つのポイントがあり、そこも変わりません。そのポイントイベントだけをクローズアップし、収穫祭から年明けまでワープしたように、細かいことはこうでしたと付け加える戦法で行く気でおりました。
というのも1000話以内で終わらせようと思っていたからです。けれど、どうやっても無理。それなら無理して飛ばさずに、話数を増やしても今まで通り地道にストーリーを追っていきたいと、ここにきてじっくり書きたくなってしまいました。
というわけで、覆してすみませんが、とことんお付き合いいただければありがたく思います。どうぞ、よろしくお願いしますm(_ _)m
kyo拝




