第974話 パンドラの希望⑭わたし的に
『リディア?』
もふさまが心配そうにしてる。
考え込んで黙ってしまったし、それまでの話している内容が微妙だったものね。
「考えてただけ。もふさま、助けてくれるのはありがたいけど、無理はしないでね。自分のことを大切にしてね」
『その言葉、そのままリディアに返す。何をするつもりだ?』
『何かするつもりなのか?』
レオがはしゃぐ。
「何をでち?」
『何を?』
『何を?』
ベアは黙ってつぶらな瞳でわたしを見上げる。
「悔しいことに現時点でできることは少ない。そうだな、今できることは2つ、かな」
『2つ?』
もふさまが言って、みんなが首を傾げた。
「ひとつは新興宗教を探っていくことだね。最終的になぜわたしが罪深いのか、誰が言い出したことなのか。それがわかれば、何をしようとしているかもわかっていくから」
『でもあの声のでかいヤツは、初めて集会に行ったし、それ以上はわからないって言ってたんだろ?』
レオは起きてから、あらましを聞いたみたいだ。
「うん、オードラン先輩とその従姉妹から得られる情報はないかもしれないけど、マシュー先生が集会に行っていたことがわかった。だから先生をマークして、その線から集会のことを探っていくと思うよ。騎士たちかロサが手綱をとるだろうな。それは情報が来るのを待つ。
もうひとつは、瘴気を分散させること。わたしはそっちに集中したいと思う」
『リディアは瘴気を扱えないだろ?』
レオが首を傾げる。
「直接はね。わたしの中に瘴気が少ないからだと思う。でも、ギフトやスキルを使って瘴気を扱うものを作り出すことはできると思うんだ」
わたしの支援系のギフトは使い勝手がいい。頭を使えばかなりいろんなことができる。型破りなこともできるので周りに知られると良くないと思ってセーブしていた。これからもそうするつもりだけど、終焉問題に関しては四の五の言ってる場合ではないと思う。一応型破りなことをしなくてできないかは考えたけど、わたしの頭では無理で思いつけなかった
だからギフトを使おうと思う。
わたしのギフト・プラスは付けくわえることができるスキルだ。
ただし、何もないところに作り出すことはできない。それからわたしが理解していることでしか発揮されない。けれど、理解は思い込みでも可。
プラスの力で水を出すこともできるけれど、これは水魔法が使えるからできることなのだと思う。水魔法で水を出すほうが魔力が少なく済むのでプラスの力で出すことはしないけどね。
とりあえず無から何か創造することはできないけれど、大きな意味で関係があれば付けくわえていくことができる。
記憶をなくしているときに、収納ポケットを知った。面白くて中を見ていた。テントが凄くて感動した。それも自分で作ったというから驚き、どうやって作っていったのかを調べたんだよね。それで凄い効果をつけてるな!って思っていたんだけど。
記憶を思い出してから、その凄い効果のことで引っかかった。
プラスは付随する何かにしか効果をつけることはできない、はずだった。
けれど、テントにつけられた、外膜に紫外線・熱カットとはなんだ?と。
物づくりをするときは、属性魔法にプラスするか、無属性にプラスする。
付与タイプといえばいいのかな。無属性に付与をつける形で。
マップや探索は、ステータスボードという情報を数値化して見せるものに、機能性をプラスしていった。元々情報を表す機能が備わっていたから、そこに付け足せた。
土魔法で拵えたものに無属性でコーティングというスベスベの膜を張る。これも土魔法に無属性のコーティングをプラスした。
改造も土魔法で作った何かがあるからその修正をするプラスだ。ちなみにもう形になった土魔法で作ったものの一部を変えることができる。
そういう一定の法則があった。けれど、紫外線、熱カットとはなんぞや?
テント自体が紫外線、熱カットをする素材に作り替えられていたのなら、それは改造の一種と言えるだろう。素材を改造したのなら。
でも実際はテントの機能として、テント自体は何も変わっていないのに、テントの外で紫外線、熱をカットする荒技が施されていたのだ。
多分イメージ。例えば日焼け止め。例えば日傘。前世でそんなコマーシャルはネットのどこにでも溢れていた。ものすごく自然に。
わたしは何もないところ、つまり無から何かを作り出すことはできない。けれど、関わりがなくても実はこじつけでもねじ込めるみたいだ。イメージが、思い込みが可能なら。
これは凄いことだ。わたし的には。
わたしは知ってることしかプラスできない。
わたしには瘴気が少ないからか、瘴気のことがよくわからない。
でも苦手だから大量にあると感じることができるし、そういう認識では知っている。
つまり、わたしは魔力を使うように瘴気を使うことはできない。
わたしの中に瘴気がそれほどないから。
けれど、扱い方がわかれば、〝知った〟ことになれば、そういった何かを作ったり、付け足したりすることができそうだ。
瘴気のスペシャリスト。トルマリンさんとナムルから瘴気について話を聞く。まず、それをしたいと思っている。
「ロサとアダムに伝えてあるから、そのうちふたりから話を聞けると思うんだ」
『瘴気を扱えるようになっても、どうやって分散させるんだ?』
レオが可愛く首を傾げる。
まただ。やっぱり言葉がわかっているか、その単語だけ知っているか。
「これは秘密だけど、瘴気玉にして分散させるつもりよ」
やっぱり〝瘴気〟という言葉に反応してる?
普段軍団と一緒くたにリュックに入っている精霊玉。
透明のピンポン玉の中に小さな羽のある女の子がたゆられている。目を閉じているときもあるし、目を開けているときもある。
話しかけても反応はしない。1日1回、光魔法をかけている。
もふもふたちは自分たちがリュックから出るとき、精霊玉も出してあげてる。
今まで目が開いていても、何を見ているのか、さっぱりわからなかったけど。今、瘴気という単語を聞くたびに、目がこちらを見ている気がする。
『瘴気玉はわかるが。分散させるとは王宮の下にある膨大な瘴気であろう?』
もふさまに言われて、わたしは頷く。
『その瘴気は地形の魔法陣、それから王族の魔力でやっと封じている状態。その瘴気をどう引っ張り出すのだ? 封印を解いたらそれこそ瘴気が触れ出す。封印を解かなければ瘴気は動かせない』
「それはなんとかなると思うんだ」
と告げれば、みんな一斉に変な顔をした。




