第969話 パンドラの希望⑨介入者
再び静けさが舞い降りる。
「……吹き込まれた命の紡ぎだす未来とは、箱庭、この世界のことだろうね?」
同じ解釈でほっとする。
「介入は何者も許されない、か。2通り取れるね」
「「2通り?」」
ブライと同時に聞き返した。
「え、どういうこと?」
「リディア嬢は自分が介入したのではって思ったってことは、何者も許されない介入がもうあったって思ったんだよね?」
わたしは頷く。そうじゃないの?
「え、わかんねー」
ブライのブーイング。
「介入は許されないことだって警告とも取れるだろ」
イザークが教えてくれる。
あ、そっか。
わたしはもう起こってしまっていることを言っていると思ったけど、介入は許されないんだよと教えてくれるとも取れるってことね。
「最後の罰がくだるは、介入をした場合のことだろうね」
…………。
みんなで唸る。
「……きっと希望なんだろうけど、どう希望になるかがわからない! 誰かわかった?」
「持ち帰って考えるよ。少し時間をくれ」
アダムが言って、ダニエルも頷く。
「どうすればいいかはまだわからないけど、ひとつ大きなことがわかったな」
ロサが天井を仰ぐ。
「「大きなこと?」」
またブライと気があった。
「リディア嬢の手柄だよ」
「わたしの?」
「この世界で生まれた者がすることは〝介入〟にはならないってこと」
「つまり?」
「介入できる存在は限られてくるよな?」
やっぱり、そういうことか……。
「封印が解けたってことかな?」
「それは本来の創造神さまである見習い神の封印が解けて、介入したって思ったってこと?」
「だって。この世界で生まれてないのは本来の創造神さまと、その後引き継がれたラテアスさまだけじゃない?」
「箱庭の神が、この世界から生まれたかどうかで変わってくるな」
そっか。箱庭の神さまたちはグレーなラインだ。
「はっきりとはわからないなら、対象にしておいた方がいい」
大は小を兼ねるじゃないけど、そういうことね。
見習い神さまかラテアスさまのどちらかと決め込んでいて、ダークホースが現れて慌てるのは嫌だ。
「それ以外も可能性があることは考えておこう」
ロサがまとめる。
ブライが唸って髪をかきむしる。
「最低ラインでも神以上に仕掛けられて、それって勝機があるのか?」
「目的によって違ってくる」
ブライが言ったロサを見上げる。
「たとえば見習い神さまの封印は解けていない。ただ意識はある。封印が解けるよう何かしらの介入をした。それによって罰がくだり、世界の危機に陥っている」
ロサ、すごい!
「い、いや、リディア嬢、確かじゃないよ、ただのたとえだから。そんな正解バリの褒めオーラで見ないでくれ」
「でもいい線いってるような気がする。辻褄があう!」
「見習い神さまが関係しているのは確かだろうね」
アダムが静かに言った。
「え?」
「だから2行目で見習い故に奇跡を知らないと出てくるんだろう」
「じゃあやっぱり見習い神さまがやったこと?」
「①見習い神さまが介入したことで、世界が罰を受ける。
②見習い神さまが介入したことで、世界が罰を受けた。
③見習い神さまが介入することで、世界は罰を受けるだろう。
このパターンがラテアスさま、それから箱庭神たちそれぞれとしたら何通りになるんだろう? それに介入したと仮定して、世界が受ける罰が世界の終焉かどうかもまたわからない」
え?
「それに、何が介入することになるのかという問題もある」
「何が介入するのか?」
へ、どういう意味?
「リディア嬢。そのオトメゲーでは、見習い神さまはどういった役どころだ? やはり創世記と同じで封印されているのか?」
「そんな細かいところまで出てこなかったからわからないけど。でも違うんじゃないかな」
箱庭を見て、そんな世界があったらいいなと思って模して作ってみた。作った神様が封印されるとか、そんな設定に惹かれないよね?
そういえば、どんな宗教形態かとか、出てきてなかった気がするけど、わたしが見逃しているだけかな?
大筋を見ていたけれど、……ザルの目だよな。このシアターを見られるのがわたしじゃなくて、たとえばロサとかアダムなら、きっともっといい情報を掴む気がする。
「ブレドが言ったように、介入したのは封印を解くこと。その結果、世界の終焉という罰につながるなら、気分的に違うね」
「ああ。巷にでた、終焉からの世界の復活、新しい世界が狙い。新しい世界を作るという介入という可能性もあるってことか」
イザークが人差し指の背中を口に当てている。
「ん、その場合の介入は新しい世界を作ることで……」
言いながら頭の中で考えがまとまらない。するとイザークが先を引き継いだ。
「介入は許されないことで、罰がくだる。新しい世界は作られない。それが罰?」
「介入は許されない、だから新しい世界は作られない。それが原因と結果だろ? 罰にはならない。だから世界の終焉が罰」
ダニエルが正す。
「でもそうだとしたら2行目がわからなくならないか?」
ルシオが言う。
世界の終焉が罰だけど、7分の1の奇跡で助かるから、正しくは終焉じゃない。そこが変ってこと?
「2行目は見習いゆえに7分の1の奇跡を知らない。うーーん。これはやはり見習い神さまが何かをしていて、7分の1は助かるってことは知らなかったって読めるよね。やっぱり見習い神さまが何かをしたんだろうなー」
みんな考え込み、黙り込んだ。
しばらくの沈黙の後、ロサが口にする。
「小さい何か変化の繰り返しが大きく何かを変えていることもあるけど、アイリス嬢とリディア嬢しかその映像を見られないのなら、それらの比較は非現実的だな」
「そうだね。そこは検証しようもないから、考えない方がいいのかもしれない」
アダムが言って、ダニエル、ロサ、イザーク、ルシオが頷く。
な、なんか言ってることがわからない。
ブライと目があう。同士だ!




