第968話 パンドラの希望⑧必殺技?
「で、結局、希望のはずなんだけど、どういう意味かってことをみんなと考えたかったの!」
わたしの考えは伝えた。
ほっとする。肩の荷が降りたっていうか。
「一文ずつ、検討していこうか」
みんなで頷き合う。
「まずはこの世界は乙女ゲー。これはさっき話した通り。アイリス嬢が聖女になり、シナリオでは世界の終焉なんて言葉は出てこない。魔物の溢れが多くなって、聖女に覚醒して、王都にドラゴンが舞い降りた。それでやっとのことで勝って、エンド」
「どうやって倒したんだ?」
「え?」
「え? 瘴気により暴走したドラゴンとどんなふうに戦ったのかなと思って」
「ど、どのルートがいい?」
「「「「「え?」」」」」
恋愛も含んでいたことは、みんないたたまれないと思うし、アイリス嬢は見せてなかったってことは、やはり恥ずかしい気持ちとかがあって見せていなかったんだと思うから、できるならそのことは抜きで話したいんだけど。
「ルートってどういう意味?」
「ええと。なんていうか……」
本人前にして〝攻略者〟はまずいよな。
「あ、同行者!」
「同行者?」
「そうそう。最初、パートナーというか同行者を決めなくてはいけなくて。例えばロサルートだと、最終的にドラゴンに挑むのはロサとアイリス嬢、それから兄さまとなる。ロサは掌を突き出すようにして、雷神がどうのこうの言って紫の光を出してた」
ロサが息をのむ。
「ブレド、それって」
ロサに声をかけたアダムに、恐る恐るって感じにロサが頷く。
「それ多分、王太子となりはじめて授けられる、紫電閃だろう」
そういって少し悩む表情だ。
「同行者ってあと誰が選べるんだい?」
ダニエルに促される。
「ダニエル、ブライ、イザーク、ルシオ」
イザークとルシオは驚き顔を引きつらせ、ブライは変な声をあげた。
どんな技で倒していたかを聞かれ、それぞれの必殺技っぽいのを答えた。
ロサもだけど、みんな自分は獲得していないけれど、その技の心当たりがあるみたいだ。
「シナリオのボスを倒す、その最低ラインで、紫電閃が使えないとなんだな」
ロサにしては珍しく姿勢が悪く。頬杖ついて、その手に顎をのせ項垂れている。
そっか、ロサの必殺技は修行してえられるっていうより、王太子になるのが条件になるみたいだから、それは自分の都合でというわけにもいかないもんね。
「婚約者は得たし、もう王太子になる条件は満たしただろう?」
「……みんなには言っておくけど、王太子になると3日間、王宮の地下に籠るんだ」
『修行か?』
レオがワクワクした声をあげた。
それをアオが通訳する。
「修行は修行だな。けれど、身体というより、精神を鍛える意味合いが強い。王の仕事のひとつだ。地下に封じ込めた瘴気を見守り、封じ込める魔法陣を定期的に修繕すること。……それをするために魔力を増やす必要があって秘術を施す」
今度はわたしたちが息をのんだ。
「そ、そんなことして大丈夫なものなの?」
「それでダメになるようなら瘴気の封印が守れないからね。ダメになったとしても……王位継承権を持つ者はまだまだいるし。成功すれば、陛下の次か、陛下より魔力が多くなる」
魔力が増えた時、魔力酔いをする。身体にかなり辛いものだ。それは身体という器が本来魔力を支えるようできてないのでは?と思える。大人になってから魔力が増えることもそうないと聞いたし。かなりロサが心配だけど、それは決意を固めているロサを信じてない失礼なことになる。だから代わりに言った。
「……玉はできた。瘴気を分散させるようにするから、もう少し待ってね」
ロサはにこっと笑った。
「リディア嬢はいいな、その映像見たんだろ? 俺も見たい」
ブライが首の後ろで手を組んでいる。
いやー、知っている人との恋愛ものになってるから見せたくないだろうなーと、静かに思う。
「どこまでも特別だよね、リディア嬢は」
とダニエル。
「え?」
「あ、やっぱり気づいてないか。アイリス嬢のギフトの映像、誰も見ることができなかったんだ」
「ええ? そうなの?」
「未来視の映像はリディア嬢も見られなかったって言ってたな。試しにリディア嬢が見られた映像を見せてもらおうとしたんだけど、何も起こらなかった」
そうだったんだ。
じゃあシナリオは、あの映像を知っているアイリス嬢、見せてもらったわたし、それからこの話をしたいつものメンバーしかわからないってことね。
意見も出尽くしたみたいなので、次の文言に。
「次は、見習い神は見習い故に、7分の1の奇跡を知らない、だね」
「見習い神とは、もちろん封じられた創造神さまだろうね」
ルシオが腕を組んで言う。
「7分の1の奇跡……7分の6が滅びる。残りの生き延びるのが7分の1。そのことだろうね」
「直訳で、創造神さまは世界の終焉で7分の1、生き残ることを知らない」
ダニエルの意訳に反対意見は上がらない。
って言うかそれはそうなんだけど、それが何?ってところだよね。
創世記によれば、世界の箱庭を作り生命を吹き込んだ。そしてそのまま封印されたんだよね? そしたらさ、その後その箱庭がどうなったかわからないものじゃない?だからさ、シナリオにない世界の終焉のことは知らなくて当たり前じゃない?
静かだったからか、レオが欠伸をした。するともふもふ軍団の次々に移っていく。
「じゃあ、次ね。原因と結果、物事には必ず理由がある」
これも、当たり前のことだよね。何を指しているのかわからないけど。
ポツポツと話は出るけど、やはりみんな同じ考えだ。
「次が問題のセンテンス。吹き込まれた命の紡ぎだす未来への介入は、何者も許されない」




