第967話 パンドラの希望⑦シュタイン家と王家
放課後生徒会室にて、緊急会議だ。
生徒会長室に入り、扉を閉めた。
もふさまにみんなの本人チェックしてもらってから、盗聴防止の魔具を置く。
兄さまはいない。ここは学園だからね。兄さまには後からわたしが話すことにする。アラ兄とロビ兄もパスだ。クラブを近頃おろそかにしていたので、今日はさすがに出ないとということらしい。ふたりにもわたしがフォンを入れればいい。
わたしはすぐに話しだした。
ダンジョンの報酬で〝希望〟の小箱を手に入れたこと。すっかり忘れ去っていたけど、記憶をなくした時に収納袋の中にみつけて不思議に思っていたこと。
思い出してから箱の鑑定をすると、その時の一番希望となることが入っているとのことだった。
わたしは新興宗教の徳をつむ手段になっていたことが恐ろしくて、その箱にすがってしまった。
希望はヒントみたいな文言があるだけだった。
その言葉は
この世界は乙女ゲー
見習い神は見習い故に、7分の1の奇跡を知らない
原因と結果、物事には必ず理由がある
吹き込まれた命の紡ぎだす未来への介入は、何者も許されない
相応の罰がくだる
みんな微かに眉を寄せて思考に彷徨いだす。
わたしは乙女ゲーの説明から入る。もふもふたちに一度説明しているのでここは楽勝。
とにかくそういうもので、恐らくわたしの前世の世界と同じか似たところから乙女ゲーを模した世界を作り、それがこの世界なのだろうと憶測を言ってみる。
そしてそのシナリオは……。
わたしはアイリス嬢から大昔に見せてもらったものが物語の筋だったのではないかと思えて、それをもう一度見せてもらったことを話した。そして恋愛のところだけをぼやかして、乙女ゲーのシナリオを語る。
アイリス嬢が主人公。アイリス嬢は聖女となり、浄化の力を手に入れる。瘴気が溢れ魔物の暴走が各地で起こり、世界は混乱している。王都にもボスキャラが現れる。倒すとしても浄化の力を持つ聖女がいる王都を狙ったんだろう。
黒いモヤのような瘴気をまとっていたけれど、赤いドラゴンだった。
みんな赤いドラゴンに反応する。
わたしは認める。恐らくあのホルクが最後のボスキャラのはずだったのだろうと。
ホルクは一夜にして王都を火の海にした。人々は逃げまとい、居場所も失った。聖女と協力者たちは力を合わせホルクを倒す。そんなストーリーだ。
それとは別に、物語本筋のわたしの家のことを話した。
シナリオの中でわたしは学園に通っていない。家に引きこもっている。決定的に違うのは、母さまが亡くなっていること。だからエリンとノエルは生まれていない。
わたしはそれに気づいた時、何に怯え、何を思ったかも話した。そして魔力の暴走を起こしそうになったことも。
下の双子は知らないけれど、母さまが呪術により呪われたこと。もふさまがそれに気づいて、媒体を見つけ出し、壊し解呪したこと。わたしの光魔法でやったからわたしの中に呪術のカケラが残ってしまったことを付け加える。
「呪術をかけた相手はわかったのかい?」
アダムに探るように尋ねられた。ふとよぎったけど、確かなことではない。一瞬の変な間の後に「実行犯はわかったけど、指示したものは突き止められなかった」と告げた。
「第一夫人だね?」
アダムがなんとも困ったような顔で言った。
「……突き止めることはできなかった」
「王妃さまが?」
ロサの声がとんがる。
「それでわかった。君が第一王子に過剰に反応していた意味や、呪術に敏感であり、王族を毛嫌いしていた理由も」
アダムが言い、ロサは放心状態。
「陛下との約束って言ってたのもそれだね? 概ね証拠になる何かを出さない代わりに、君たち一家と王族が絡むことがないよう取り付けた……」
頭のいい人ってのはすぐに紐解いちゃうんだから。
ダニエル、ブライ、イザーク、ルシオはわたしとアダムを交互に見ている。
もふもふ軍団はテーブルの上に座り込んでじゃれあう。
もふさまはわたしの膝の上だ。
大丈夫かというように見上げられて、わたしは返事をする代わりにふわふわの毛を撫ぜた。
「証拠ではないけど、近い感じ。
わたしは5歳の時に土気色の顔した母さまを見て、とても怖かったの。それが誰かからの悪意とわかり本当に恐ろしかった。解呪したとき呪術で編まれた瘴気を見た。真っ黒の文字のようなものが、消しても消しても蠢いて繋がってきた。
母さまが生きているからこんなお気楽でいられたけど、もしあのまま命を落としていたらと思うと……」
「ひょっとして、その呪術をかけたのがトルマリン?」
わたしは頷く。そこまでわかるか、アダム。
「わたしね、頼んだ人が一番よくないけど、呪術を引き受ける呪術師も良くないと思ったの。それで、その時は思っただけだったんだけど、術師が今後、術を使おうとすると身体中が痒くなってそれどころじゃなくなればいいのにって思った。それがなぜか届いていて、トルマリンさんは術を使おうとすると体中が痒くて仕方なくなってしまって呪術師ではいられなくなっていたそう。
王宮で彼と会った時、わたしの魔力が微かにだけど彼にあるのを感じた。いくつかの情報とも相まって、きっと彼だと思った。
彼もあった時に、わたしの魔力で気づいたそうよ」
「私たち一族は、シュタイン家にずっと迷惑をかけているんだね」
ロサがシュンとしている。
「ロサとアダムにはずっと感謝してるよ。陛下にも。とてもよくしていただいているもの。だから、その話はここでお終い」
わたしはロサとアダムが頷くのを待った。
それから魔力を暴走しかけて、聖樹さまに呼んでもらったのだと話した。
わたしはわたしが世界の終焉を引き起こしたんじゃないか。改変した罰が世界の終焉なのではないかと思ったのだと。
でも、木漏れ日の間でもふさまに言ってもらった。
それから聖樹さまにも言ってもらったことで、わたしは立ち直れた。
わたしは生きることをためらわない。
わたしは、わたしたちは、思い考えた通りに行動していいのだ。世界の愛し子が考えることは決して理からは外れない。世界を支える樹が、そう教えてくれたから。




